ページの本文へ

  1. 首都圏ナビ
  2. かながわ情報羅針盤
  3. 富士山が噴火したら?神奈川県開成町が初の避難計画を公表

富士山が噴火したら?神奈川県開成町が初の避難計画を公表

  • 2023年06月05日

富士山が大規模噴火を起こした場合、いつ、どのように避難すれば良いのか?全町民が避難対象となる可能性がある神奈川県開成町は、6月1日、その避難計画を公表しました。

富士山が大規模噴火すると

神奈川県開成町 全人口が避難対象になる恐れも

富士山が大規模な噴火を起こした場合、大規模な噴火で流れ出る溶岩の量は、数十キロ以上離れた地域まで及ぶおそれがあるとされています。静岡、山梨、神奈川の3県の27市町村のおよそ80万人が避難対象になると推計されています。しかし、実際に噴火が起きた場合に、どのタイミングで、どこにどのように避難すれば良いのか、想像できないというかたも多いと思います。そうしたときに参考になるのが、市町村が策定する「避難計画」です。

神奈川県開成町は避難対象のひとつ

神奈川県西部の開成町では、噴火後、6日から18日かけて、県西部を流れる酒匂川に沿って、町内全域に溶岩流が達するおそれがあるほか、火山灰が30センチから50センチ降り積もる可能性があります。場合によっては、全町民にあたるおよそ1万8500人が避難対象となります。町内全域に溶岩流が達するおそれがある神奈川県開成町は6月1日、県内で初めて独自の避難計画を作り、公表しました。

開成町は独自の避難計画を公表

開成町の「避難計画」のポイントは、火山災害の様子を見極めながら、地域ごとに、段階的に避難することです。

開成町の北端に溶岩流が達するとされている時期は、噴火から5日と8時間後。噴火後11日と8時間では町役場に到達。噴火後17日と5時間で、町内全域に溶岩流に広がると予想されています。

町民全員が一気に避難を始めると、道路の渋滞など、不測の事態につながりかねません。また、ゆっくり流れるとされている溶岩流が途中で止まった場合など、状況によって対応が変わる可能性もあります。このため、町は噴火や溶岩流の状況に応じて、速やかな住民の避難につなげたいとしています。避難計画の中身を具体的に見ていきます。

開成町の避難計画

①溶岩流が静岡県御殿場市を通る国道246号に達したら、町は住民に避難開始時期など知らせる。

②溶岩流が神奈川県山北町の「清水橋」に達したら、町は住民に避難を指示する。

③噴火から3日後に町の北部住民が避難を開始する。

④噴火から12日後に町の南部住民が避難を開始する。

各自治会の避難開始時期(噴火から何日後?)※想定

3日後:岡野、金井島、上延沢
4日後:上島、河原町
6日後:円中、下延沢
8日後:榎本
9日後:中家村
10日後:宮台、牛島
11日後:下島、パレットガーデン
12日後:みなみ

避難の際、状況によっては、自治体をまたいだ広域避難が必要になります。「避難計画」では、広域避難を始める前に地区ごとに決められた場所にいったん集まることになっています。集合場所で町から住民に避難先や移動経路などが説明され、町が備蓄する飲料水や食料が配られる計画です。その後、自家用車を持っている人は自家用車で、持っていない人や高齢者など、ひとりでの移動が難しい人は、町が確保したバスなどで避難先に向かう想定です。

開成町防災安全課 葛西宣則専門員

開成町防災安全課の葛西宣則専門員は、次のように話します。

町民が一気に避難すると大混乱が起きる可能性があります。溶岩流や火山灰など、噴火の推移は複雑かつ予想困難なので、状況に応じた避難が必要です。災害が起きてから突然「避難」と言われても慌てると思います。避難計画が町民の準備の余裕、心の余裕につながることを期待します。最大の被害があった場合にも、だれひとり被害者を出さず、全員を避難させるという意気込みで、対策を進めていきます。

住民の受け止めは

川が氾濫したらどうなるか考えたことはありますが、富士山の噴火は考えたことがありませんでした。これを機に、噴火について、夫と話をしたいです。

富士山が噴火する可能性は知っていましたが、噴火したら逃げられないと思っていました。公表された避難計画を読んでみたいと思います。

避難対象となる神奈川県の3市4町 各市町の対応は

「避難計画」 避難対象となった3市4町の対応は

神奈川県内で溶岩流が達すると推定されているのは開成町を含む3市4町ですが、ほかの市町の「避難計画」はどうなっているのでしょうか?取材した結果は次のとおりです。

松田町 今年度中に避難計画を公表するため、策定を進めている
南足柄市 今年度中の策定を目指したい
大井町 県と調整をしながら避難計画を作る方針 策定時期は未定
山北町 県と調整をしながら避難計画を作る方針 策定時期は未定
相模原市 溶岩流が到達するエリアが一部にとどまる
市内に避難所を設け対応するので策定の予定はない
小田原市 県の対応を踏まえる必要がある
現時点では策定の有無は決まっていない

避難先の確保に課題も

一方、各自治体が避難計画を作る上で課題もあります。それは避難先の確保です。富士山が大規模噴火した場合、避難対象となる人たちは市や町だけでなく、県境を越えて避難を余儀なくされる場合もあります。そのときに備え、災害が起きる前に、受け入れ側となる自治体との話し合いや調整が必要になります。しかし神奈川の場合、避難を必要とする自治体が多いため、避難先の確保は容易ではないと自治体の担当者は言います。各市町が避難先を探し近隣の自治体と協定を結ぼうとすると、受け入れ先を奪い合うことになるというのです。市や町の担当者からは「自治体間で、(避難先確保が)早い者勝ちのような状況が生まれるのは望ましくない」という声も上がっています。

こうした指摘について、神奈川県の担当者は「受け入れ先となる自治体の受け入れ可能人数を確認するとともに、避難が必要になる自治体とも協議を進めたい。できるだけ早く、広域避難の方向性を示したいと思う。」と話しています。

一方、富士山が噴火した場合、多くの住民が避難の対象となる想定の山梨県では、去年5月、県と県内の全自治体(27市町村)が協定を締結。県が避難所の状況を日頃から集約して、噴火や洪水など、大規模災害が発生して広域避難が必要になったときには、避難先を見つける調整を行うことになっています。取材に対し、山梨県の担当者は「特別なことはやっていないつもりです。ただ、山梨県の場合、小さな自治体が多く、昔から支え合って災害に向き合う意識があったので、協定を締結できました」と話しています。

富士山の噴火を想定することは容易ではありません。ただ、富士山で大規模な噴火が起きたら、多くの人が混乱してパニックに陥る恐れがあることは想像できます。想定外の事態が起きたとき、どれだけ冷静に対応できるかは、自分が住む自治体に「避難計画」があるかどうか。そして、「避難計画」に基づき、日頃から訓練が行われているかどうかにかかっていると思います。避難対象となる市や町の避難計画策定に向けた今後の動きや、噴火災害に向けた町民の取り組みを、引き続き取材したいと思います。

  • 北村基 記者

    横浜放送局 小田原支局

    北村基 記者

    2017年入局。宇都宮局を経て2022年8月から横浜放送局小田原支局。南関東の空気に馴染むべく、目下、歴史を勉強中。

ページトップに戻る