目が見えなくてもスキーを諦めない ブラインドスキーがある
- 2023年2月14日
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「風を感じ、自由に滑れる、やっぱりスキーは最高です」
進行性の目の難病により、歩行の際には、わずかに見える点字ブロックを頼りに、
慎重に歩く女性が、4年ぶりにスキーを楽しんだ時の心境をこう語りました。
再び「スキー」を取り戻した視覚障害のある20歳の女性と、ともにゲレンデを滑走する
仲間たちの物語です。
(横浜局/カメラマン 鳥越佑馬)
全盲のスキーヤーも自由自在に滑走!
ことし1月。新潟県湯沢町のスキー場に集まった視覚障害のあるスキーヤー8人と目の見えるスキーヤー40人。横浜市の「かながわブラインドスキークラブ」が開いたスキーツアーです。
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ブラインドスキーとは、視覚障害者(ブラインド)と目の見える「パートナー」がともにスキーを楽しむ、スキーのひとつのスタイルです。
視覚障害のある参加者の中でも、弱視や全盲などそれぞれ見え方は違います。
それぞれに合わせ、後方を滑るパートナーが「右!左!とまれ!」など、
声の誘導を行い、前方を走るブラインドスキーヤーはゲレンデを滑走していきます。
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安全にスキーを楽しむために
ブラインドスキーヤーは「視覚障害」と書かれた「黄色いゼッケン」を着用します。
一緒に滑るパートナーも同じく黄色いゼッケンを着用し、同じゲレンデにいる他の人たちにその存在を知らせます。滑り出す前には、スキー板やブーツを履く際など、一緒に滑るパートナーがブラインドのサポートを行います。リフトを降りると、滑りはじめる前にゲレンデ全体を見渡します。雪の状況や進行方向にある障害物などの情報を共有し、スキーを始めます。
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滑走をはじめると、ブラインドスキーヤーが集団の前方を自由に滑走していきます。進行方向に別のスキーヤーがいたり、ゲレンデにくぼみや段差などがあれば、後方のパートナーが随時、声のガイドを発することで、衝突や転倒を防ぎながら、安全にスキーを楽しむことが出来ます。進行方向をそのまま進む場合でも「そのまま~」などの誘導を行います。
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ツアー初日は時折、強い雪が吹き付けていましたが、後方からこまめに発せられる声のガイドを受けて、ブラインドスキーヤーたちは、新雪の上を颯爽と滑り降りていきました。
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コロナ禍もあり、多くの参加者が久しぶりに楽しむゲレンデ。滑り終えたスキーヤーたちは、笑顔を浮かべながら、ブラインドスキーの魅力を語ってくれました。
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見えなくなって、走ったり、飛んだり、風を切る事が1人ではできないので、ゲレンデで、かっ飛ばしたりなんかすると、全くふだんと違う世界を味わえる。とにかく一番楽しいんです。
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(パートナーは)私が間違えた方向に行っても修正してくれる。絶対的に信じている仲間です。大げさに言うと命を預けているぐらいなので、もうすごい絆が生まれます。愛を感じます。
ブラインドスキーの要「パートナー」との信頼関係
ブラインドスキーに欠かせない、もうひとりの主役は、ブラインドスキーヤーを後方から声で誘導する「パートナー」です。
パートナーとなるために資格は特に必要がありませんが、前を滑るブラインドスキーヤーと短い距離を保ちながら、スキーを滑るのに加え、常にゲレンデ全体を見渡しながら、安全に誘導することが求められます。
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パートナーの雪上講習 ガイドの声は簡潔に!
初めて視覚障害者を誘導するパートナーには、雪上講習を行います。
誘導する際の声のかけ方やブラインドスキーヤーとの距離の取り方など、安全にブラインドスキーを楽しむ方法を学びます。
誘導の際の発声は「右!」「左!」「止まれ!」など、言わば命令口調。できるだけ短く簡潔に伝えることが重要です。
慣れていないパートナーの場合、説明的な誘導になってしまいがちですが、刻々と変化するゲレンデの状況を、短いことばで端的に伝える必要があるのです。
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「はい、右にターンです」は長いですよね。「はい、右」それだけのほうが、お互いに楽なので、短い言葉でやっていきましょう。
パートナーは、ブラインドスキーヤーを追いかけながら、周りの動きも絶えず見てください。進行方向に休憩している人がいた場合、ギリギリを通さずに余裕を持ってかわすような感じで行ってください。
ブラインドスキーヤーの視点で誘導を
講習では、初心者のパートナーが目を閉じて、スキーを滑る体験も行います。視覚に障害がある人の目線で、求められるガイドの内容を知るためです。
スキーに自信がある人でも、目を閉じ、ガイドの声を信頼して、ゲレンデを滑っていくのは簡単ではありません。
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自分がやってみないとダメですね。もう怖くて怖くて、普通に滑ることができないです。
ベテランパートナーが語る魅力
パートナーになって約20年、川崎市から参加した宮副竜生さん(46)です。
学生時代には、スキー部に所属するなど、長年、本格的なスキーを楽しんできました。
社会人になって数年、同僚に誘われ、何気なく参加したブラインドスキーのイベントでしたが、以来、パートナーとして20年以上ブラインドスキーを続けてきました。
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自分がスキーやるのも大好きだし、スキーが好きな仲間と一緒にするのは、もっと楽しいんですよ。自分がサポートとか支援をしようと思って、続けているというより、メンバーと一緒に滑ることが、楽しいっていうのが原動力です。
初めてブラインドスキーに挑戦した20歳の女性の思い
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鎌倉市に住む大学生・布川詩子さん(20)です。
布川さんは10歳の時、進行性の目の難病・網膜色素変性症と診断されました。
幼いころから毎年、冬になると、家族でスキーを楽しんできました。しかし、病気の進行で、視野が狭くなり、暗い時間帯には、足元がほとんど見えないようになるなどし、4年前からスキーはもう無理だと諦めていました。
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これまでのように運動をするのが難しくなっていくなかでも、ピアノの演奏やアカペラなど、目が見えなくても、楽しめる活動を続けてきました。しかし、スポーツをしたい。中でも「スキー」を楽しみたいという思いを持ち続けていたといいます。
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(病気が進むにつれ)自分ができないことに目を向けてしまい、受け止めたくないっていう自分がいて、複雑な気持ちでつらかったです。スキーは他にないスピード感と、風を感じられる心地よさが忘れられなかったです。
4年ぶりのゲレンデへ
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そんななか知った、ブラインドスキーの存在。
視覚障害者もスキーを楽しめると聞き、思い切ってひとりでツアーに申し込みました。
今回、布川さんと一緒に滑るパートナーを宮副さんが務めます。宮副さんは布川さんに、仲間と楽しむブラインドスキーの魅力を知ってもらうとともに、技術的にも上達してもらうことで、自信を深めて欲しいと考えていました。
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(布川さん)パラレルターンできないです
(宮副さん)じゃあパラレルターンできるのが目標だね
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今回、パートナーのひとりが、布川さんが比較的見やすい赤色のビブスを着用して先導します。布川さんに続き、宮副さんたちパートナーが続きます。
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4年ぶりのスキーはいかに!?
久しぶりのゲレンデ、最初は恐る恐る滑走していた布川さん。
宮副さんは進む方向のガイドに加え、足の運び方など技術面についても優しく声をかけていました。
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ゲレンデの真ん中に、そうそうそう。
はい右~はい左~ いいよ いいよ そのリズム、そのリズム。
久しぶりに味わう風を切る感覚。布川さんは、スキーを楽しむ気持ちを取り戻していました。ツアー初日、あたりが暗くなっても、夢中で滑り続けるふたりの姿がありました。
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スキーの後も助言をもらう
布川さんは、初日のスキーを終えた後の夕食の会場でも、宮副さんにアドバイスをもらっていました。宮副さんはスキー板や体の使い方など、滑り方の特徴に合わせたアドバイスをします。布川さんも2日目には少しでも上手に滑れるよう、真剣な表情で質問を重ねていました。
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ツアー2日目(最終日)は晴れ。
布川さんと宮副さんが向かった先は、きのうより傾斜が急なコースです。
滑り始めは、傾斜に足を取られていた布川さんですが、
次第に慣れてくると、自由にターンを切り、スキーを楽しむ余裕も出てきました。
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4年ぶりのゲレンデ。布川さんは2日間で合計10時間以上も滑り続けていました。
諦めかけていたスキーを楽しむ感覚は、ともに滑るパートナーや自分自身の強い意思によって、取り戻していました。
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コミュニケーションをとりながらのスキーはさらに楽しくて、さらに好きになりました。できないことが増えてしまうけれども、楽しめることも増えてくのかなって前向きな気持ちになれました。
「仲間がいれば諦める必要は無い」
「声のガイドで視覚障害者とスキーをする」
ブラインドスキーを初めて知った時、「声のガイドだけで本当に滑ることができるのか?」「全盲の人は難しいのではないか?」。それが率直な感想でした。
ツアーに同行し、ベテランの全盲のブラインドスキーヤーが、自由自在にターンをする姿を見たときにも、「本当に全盲?」とまだ、信じられない気持ちがありました。
スキーの後、食事や入浴も共にさせていただいて、そこで初めて信じることが出来ました。
私の目の前をさっそうと滑走していた全盲のスキーヤーいわく「今回は久しぶりだったので、全然スピードも出せませんでした」とのことでした。
別のブラインドスキーヤーによると、「パートナーとの信頼がこのスポーツの要、信頼関係ができて初めて自分の100パーセントの力で滑り切ることができる」。
満面の笑みでブラインドスキーの魅力を話すその表情を見たとき、いかにブラインドスキーヤーに信頼され、100%の力を出させるか。これこそがパートナーのだいご味のひとつなのだと気付きました。
スキーを楽しむことに加え、「仲間との信頼関係」を築いていくスポーツ・ブラインドスキー。
多くを学んだ取材でした。
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