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横浜だけど農業賞?!農家の苅部博之さん個人経営の部で特別賞

オリジナル品種作りや「見せ方」にこだわった直売所が評価 “都市農業”を強みに
  • 2023年2月2日

横浜の農家 特別賞を受賞

すぐれた功績をあげた農家や団体を表彰する日本農業賞。農業賞と聞くと、都心からは離れた地域や人をイメージする方がいるかもしれませんが、今年、横浜市から受賞者が出ました。

農業賞を受賞した苅部博之さん

今年で52回目を迎えた日本農業賞。「個人経営の部」「集団組織の部」「食の架け橋の部」の3つのに分かれています。このうち「個別経営の部」で、横浜市保土ケ谷区の農家の苅部博之さんが、最優秀の大賞に次ぐ特別賞を受賞しました。

都市農業が評価されて

13代目の農家として25歳の時に農業を継いだ苅部さん。その農地は、横浜市の保土ケ谷区と旭区の15か所に点在しています。

市内15か所に点在する苅部さんの農地

住宅地に点在する農地を運営する農業は、いわゆる「都市農業」の特徴の1つだといいます。苅部さんは、点在する農地で、およそ100品目の野菜とおよそ10品目の果物を栽培しています。今回の受賞について、苅部さんは、都市農業が認められたことに喜びを感じると言います。

受賞できたことを、とても光栄に思っています。日本の農業の中で、横浜は農業都市でもないので、大産地の農業地域を相手に闘って横浜の都市農業が認められたっていうのはとてもうれしく感じました。

オリジナル野菜 “苅部○○”

オリジナルの苅部人参

苅部さんが評価されたポイントの1つが、都市農業で生産する農産物のブランド力を高めるため、
オリジナルの品種を開発した点です。「苅部大根」「苅部人参」「苅部ねぎ」。これらはすべて、苅部さんが開発したオリジナル野菜です。これらの野菜に共通しているのが、その色の鮮やかさだと言います。

まだらな感じとかちょっとツートンカラーっぽいものとか、赤と紫がすこし混ざったものとか・・・。味は基本、全て一緒なんですが食べる時に鮮やかな方が楽しいかなというのがあっていろんな色で作っています。加熱すると色がまたさらに鮮やかになるので、お客さんからも好評です。

野菜の“見せ方”にも工夫が

また、苅部さんは自分たちが生産した野菜や果物を多くの人に手に取ってもらうための工夫も
重ねています。自らが経営する直売所では商品の“見せ方”にこだわっています。

野菜の直売所というと、一般的には収穫した野菜や果物が並べられ、場所によっては商品の隣にお金を入れる箱が置かれただけのところをイメージする方もいるかと思います。苅部さんが営む直売所では、入り口のそばに花や、鮮やかなデザインの看板が置かれています。

マルシェを連想させる苅部さんの直売所

店の中では買い物そのものも楽しめるよう”見せ方”に工夫して野菜が並べられています。直売所では、常に20品目程の野菜や果物を販売していますが、値札もカラフルで、野菜のおいしい食べ方の一口メモが添えられています。販売しているオリジナルのエコバッグも、ただ陳列するのではなく、壁に貼って見せるなど、装飾にも一工夫が見られます。こうした取り組みには、実は妻のみゆきさんのアイデアが取り入れられているそうです。

”店舗での買い物も楽しんでもらいたい”

1週間に1回は必ず来ます。買ってからとても長持ちするしほかと違います。何でも新鮮でおいしいですよ。トマトなんか全然ちがうからね。

よく来ます。新鮮で、すごくおいしいので。

フードロスの問題をきっかけに

苅部さんはフードロスの問題にも関心を持っています。農産物は、天候によって生産量が左右されるため、不作の時もあれば、想定していたよりもはるかに多く採れる時もあります。余った野菜を廃棄するのではなく、苅部さんは加工品にする取り組みを行っています。

また地元の子どもたちに向けてフードロスの問題を考える授業も行っています。余った野菜から
加工品を製造したことがきっかけで、地元の企業や飲食店などとと連携して、ラー油など、新たな製品の開発にも力を入れているということです。

 

オリジナルのラー油 地元の子どもたちがパッケージをデザイン

農業塾

苅部さんは17年ほど前、農家の先代でもある父親を亡くしています。その頃は子どももまだ幼く、妻のみゆきさんは育児に手がかかり、苅部さんが母親と2人で、農業を続けるのは厳しい状況だったと言います。

そうした中で始まったのが、「持続可能な農業」を目指す農業塾でした。塾では、普段、農家以外の仕事などに就く人たちに農業を教える代わりに、農作業を手伝ってもらいます。生徒たちはサラリーマンや学生たち。いまでは塾生専用の農園もあり、15人ほどが農業を学んでいます。

塾生も、農業は『地方にいかなければ体験できないんじゃないか』と思ったらしいんですが、実際こうして交通の便が良いところでも農作業ができることに驚かれたりもして・・・。希望者も実際かなり多く、締め切ってしまう場合もあります。人口の多い横浜だからこそ、農業に興味を持って一緒に手伝ってくれる人がいるのではないかと思っています。

農業ファン増やしたい

また苅部さんは、農業塾から一歩先に進んだ上級者向けのコースの「百姓塾」を本格的に農家を目指す人向けに作りました。最終的には就農することを目標に、野菜の作り方や季節ごとの農業の特徴、生産した農産物の販売方法など幅広い知識を苅部さんから学びます。これまで3人がこの百姓塾を卒業して新たに農業を始め、いまここで学ぶ2人も、今後就農する予定だということです。

農業人口が減少していますので、それを少しでも解消するとしたら、やる気のある新人を育てあげていくのも、ひとつの手じゃないかなと思ったので。新規で農業をやっていく人の手助けになればなと。

「横のつながり」を大切に
 

神奈川県の農業を盛り上げるためには、横のつながりも重要だと感じた苅部さんは、みずからが発起人の1人となり、「神七(かなせぶん)」という、県内の生産者ネットワークも作りました。地元の飲食店と協力して神七のメンバーが作った野菜を活用した料理イベントを企画したり、バスを借り上げて、一般向けの畑ツアーを行ったりもしています。

 

神七(かなせぶん)の仲間たち

さらに「百姓一希会」という集会も開いています。「百姓一希会」は、生産者間で情報交換をしたり、生産者が飲食店や行政とつながったりする貴重な場となっています。

百姓一希会のメンバーたち

苅部さん 次なる挑戦の場は?

積極的にさまざまなことに挑戦してきた苅部さんですが、今後、さらに実現させたい夢があると言います。

苅部博之さん

「これから先も、農業の可能性を感じながらやっていきたいです。たとえば『農家レストラン』。農家の女性たちが運営するのではなく、プロのシェフを雇い、農地にレストランを建てて開きたいと考えています。地域と一体化しながら、生産だけでなく、販売や調理などすべてを備えた形で進められれば。私の次の農家14代目が、『代々続いているから』という理由ではなく、『農業をやりたい』と思い就業する。そういう時代を作っていきたいと思います」

  • 関口裕也

    横浜放送局 記者

    関口裕也

    2010年入局。福島局、横浜局、政治部を経て、2022年8月から再び横浜局。横浜市政などを取材。

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