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進化する110番 最新事情と課題

  • 2023年1月13日

「公園にいたはずのわが子の姿が見えない・・・」
「目の前で交通事故が!」
こうした緊急事態のとき、急いで電話をかけるのが110番。
この誰もが知っているダイヤルですが、実は最近、写真や映像も送ることができる“映像110番”が始まっていることをご存じでしょうか。
神奈川県内の110番の最新事情と課題について取材しました。

現場のリアルな映像を送れる“映像110番”がスタート

警察官「もしもし、事件ですか事故ですか?」
通報者「横浜市内の交差点で交通事故です!」

110番といえば、このように「電話」でダイヤルした上で、事件や事故の情報について口頭で警察に伝えるのが一般的なスタイルです。
そこに、大きな変化が訪れました。
それが「110番映像通報システム」というもの。
2022年10月から、110番通報した人が、その現場で撮った映像、あるいは行方不明になった人の顔写真の画像などを、スマートフォンから警察にすぐに送ることができるようになりました。

“映像110番”の使い方を実演

実演にのぞむ指令課の警察官

1月10日にちなんだ「110番の日」。
使い方を広く知ってもらおうとシステムを実演するイベントが1月9日、神奈川県警察本部で開かれました。
実演が行われたのは、県警で実際に110番を受理している「通信指令室」です。
110番を受理する警察官と、通報者役とに分かれて行われました。
想定は、乗用車が自転車に乗っていた人をはねて、そのまま走り去る「ひき逃げ事件」。
以下、実演で紹介された詳しい手順です。

“映像110番”の詳しい手順は?

①通報者役の女性が、まずスマホから110番をかける。
②女性は現場の場所や状況を説明した上で事故直後の現場の状況を写真に撮ったと話す。
③対する警察官は、新しいシステムについて説明。
④女性が、「システムに協力します」と答えると、スマホ宛に警察からショートメッセージ(SMS)でURLが送られてくる。
⑤ショートメッセージに記載されたURLをタップしてアクセス。
⑥“警察庁”の大きなロゴが描かれた画面に切り替わり、認証画面に。
⑦電話口の警察官から伝えられた4桁のパスワード(毎回変わる“ワンタイム”)を入力すると、スマホの中に保存している映像や画像を選択できる画面に。現場の写真を選んで送信。

ワンタイムパスワードの入力画面

今回の実演では、衝突直後の現場を撮ったという写真でしたが、このほか動画も送ることができます。

送信された架空のひき逃げ現場の写真

“映像110番”運用3か月

神奈川県警察本部

神奈川県警によりますと、システムが試験的に導入された2022年10月から12月までの3か月で、110番の通報者に映像の送信を依頼したのは224件。
このうち、実際に映像や画像が送られてきたのは半数あまりの129件にのぼりました。
これは、兵庫県、茨城県に次ぐ全国3番目に多い件数だといいます。
110番を運用している通信指令課の担当者によると、129件のうち、多くは「子どもや高齢者が行方不明になった」といった通報の際に、顔写真などを送ってもらったケースが多いということです。
こうしたケースでは、行方不明者の顔写真を、現場周辺でパトロール中の警察官にすぐに共有することができ、早期解決につながりやすいといいます。

当て逃げ事件の解決も

このほか、実際にあった例としては、当て逃げ事件の解決につながったケースも。
警察によりますと、2022年11月、県内で起きた車同士の当て逃げ事件で、被害者が、とっさにスマホで撮影した逃げた車の画像を送信。
警察は、写っていたナンバーをもとに逃げた車をすぐに突き止めることができたということです。

映像はどんなときに送る?

警察によりますと、映像などの送信の協力は、交通事故や火事、けんかといったトラブルなど、ありとあらゆる事件・事故でお願いすることがあるということです。
その上で、注意点について次のように話しています。

通信指令課の担当者
「電話口の警察官の指示に従って、まずは通報している自身の安全を確保してほしいです。たとえば交通事故や火事であれば、巻き込まれる心配のない場所から撮影してください。
また、けんかなどのトラブルの場面では、当事者から因縁をつけられるおそれもあるため、撮影が難しい場合は決して無理をしないでほしいです」

“むずかしい!”と諦めた通報者も

デモの操作画面

一方、映像システムには課題も浮かび上がっています。
県警側がシステムの活用を依頼した224件のうち、95件は映像や画像の送信につながりませんでした。
理由としては、電波状況が悪かったというケースがあった一方、「操作方法」がカベになってしまったケースも複数ありました。
実はこのシステム、操作が「とても簡単」とはいいがたい側面があります。

難しさ①通話画面を閉じてショートメッセージを開く
まず、スマホから110番をかけている場合、通話を続けながら、通話中の画面をいったん閉じて、ショートメッセージを開く必要があります。

難しさ②スピーカーモードにする
スマホの画面を操作している間も、警察と通話し続けなければいけないので、通話をスピーカーモードにしたり、ハンズフリーイヤフォンなどを使ったりする必要もあります。

難しさ③注意事項を確認、同意をタップ
さらに、警察から送られてきたショートメッセージに記載されたURLに無事にアクセスしたあとも、注意事項をひととおり読んで確認し、同意のタブをタップしてはじめて、ようやく、使うことができます。

デモの操作画面

県警の担当者
「通報者の中には、高齢者を中心にこうした手順を理解できずに協力を諦めた人もいます。まずはこのシステムの存在について広く知ってもらった上で、使い方を覚えてもらう機会を増やしていきたいです」

便利なスマホ 一方で“困った通報も”

指令課の警察官

110番映像システムなど、有効に活用できる“スマホ”。
一方で、最近はこのスマホが困った問題も引き起こしているといいます。
それが、一部のスマホに備わっている、自動で緊急通報できる機能です。
機種によってさまざまですが、例えば、スマホの電源ボタンを連続で5回以上押すと、自動的に110番通報がかかる、といった機能を持つスマホがあるということです。 

実際に通信指令業務に携わっている警察官
「最近は、110番通報がかかってきても、『がさごそ・・・』という無機質な音だけが続くことがある。どうやらカバンや洋服のポケットの中にあるスマホが、何らかの拍子に緊急通報する機能が作動してしまっているとみられる電話が急増している」

しかし、警察としては、こうした電話であっても、通報者が声を出せない状況に置かれているのかもしれないため、「もしもし、聞こえますか?」と繰り返し呼びかけ続けたり、切れた電話に対して折り返したりして対応せざるを得ないといいます。

110番 3件に1件は“適さない”内容

こうしたスマホの誤作動による通報のほか、「酔っ払ってしまったのでタクシーを呼んで」「あしたの朝、起こしてほしい」など、おおよそ110番には適さない内容の通報も後を絶たないということです。
神奈川県警によると、2022年の1年間にかかってきた110番通報の総数約97万件のうち、こうした不要不急の電話や、無言電話といったいたずらの電話などは、33万件あまりにのぼるということです。

急がない相談は「#9110」へ

3件に1件にのぼるこうした不要不急の通報がさらに増え続けると、事件や事故といった一刻を争う「本物の通報」にも影響が出かねないといいます。
急がない内容で警察に相談したい場合は、最寄りの警察署の電話番号のほか、「#9110」という専用の相談ダイヤルがあります。

神奈川県警通信指令課 富安 斉課長
「緊急対応には万全を期していますが、110番の機能を維持するためにも、この機会に改めて使い方を確認してもらうとともに、相談ダイヤルも活用してほしいです」

  • 田中 常隆 

    横浜放送局 記者

    田中 常隆 

    2011年入局。初任地は水戸放送局。 2016年から在籍した社会部では検察・裁判など司法分野を担当。 2022年から横浜放送局で警察、司法分野を中心に取材。

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