連続テレビ小説「虎に翼」では伊藤沙莉さんが、日本で初めて女性弁護士、のちに裁判官となる人物を演じます。
主演に決まったときは不安を感じたという伊藤さんですが、“かっこいいしチャーミングで、失敗して何度も転んでという人間らしい面もある”という主人公の魅力に触れ、楽しく演じているといいます。
モデルになったのはどんな人物?伊藤さんが苦戦したシーンとは?
役にどのように向き合っているのか、伊藤さんにインタビューしました。
4月1日に放送がスタートする「虎に翼」。タイトルは中国の書物「韓非子」の言葉で、鬼に金棒とおなじく、もともと強い者に、一層の強さが加わるという意味です。
主演の伊藤沙莉さんが演じるのは、愛称“寅子(とらこ)”こと、猪爪寅子(いのつめ・ともこ)。女性が弁護士になれなかった時代に、主人公が“法律”という翼を得て力強く羽ばたいていく物語です。
インタビューに応じてくれた伊藤さん。「虎に翼」の主演に決まったときは、意外にも「不安」を感じたそうです。
伊藤沙莉さん
「主演の話をいただいたときは、すごくうれしかったのですが、そこからかなり不安になりました。本当に私でいいのかな?スタッフさんや共演者の方々が、寅子が伊藤でよかったと思ってもらえるようなお芝居ができるかな?と。
朝、お時間をお借りして見てくださる視聴者の方々に受け入れてもらえるか、不安は募っていきましたね」
―ふだんの姿からは、明るくて、不安をはねのけるイメージがありました。
「結構、気にしてしまうというか、不安がってしまう性格ではあります」
当初は不安を感じていた伊藤さんですが、主人公の魅力に触れ、演じるのが楽しくなっていったといいます。
モデルとなったのは、日本で初めての女性弁護士・三淵嘉子さん。初の女性の裁判所所長にもなった、女性法律家の先駆者です。戦後、三淵さんはこのように語っていました。
「わたしは戦前に弁護士になったのですが、当時、女性は、裁判官にも検事にもなれなかった。同じ試験を受けていながら、どうして女性が裁判官になれないのか悔しかった。
戦後、憲法が変わるとともに、女性も男性と同じようにという時代になったときに、すぐ裁判官を志望したわけです」
三淵さんが学んだのは、現在の明治大学。昭和の初め、法律を学ぶ女性にいちはやく門戸を開きました。当時、女性が法律を学ぶことは、差別や偏見との闘いでもありました。
ドラマでは、主人公・寅子も、法律との出会いをきっかけに弁護士を志し、成長していく姿が描かれます。
―主人公の寅子が、自分と似ているなと思うところはありますか?
「突っ走りがちなところなどが似ているので、共感するところは多いです。
正義のヒーローのような分かりやすい描き方じゃないのがすごくいいですね。当時の制度や法律を変えたいと思うことは、とてもすてきでかっこいいのですが、そこに向かっていく過程で、失敗して、何回も転んで、というところが丁寧に描かれているのが、すごくすてきな作品だなと私は思います。
きれいごとばかりじゃなく、人間らしく、実際に三淵さんも人の痛みに寄り添う方だと聞いていますし、そういうものをちゃんと取り入れて演じたいなと思っています。吉田恵里香さんが書いてくださる脚本が本当に面白いので、迷いなく、楽しく演じています」
―主人公、寅子の魅力は?
「自分の疑問に対しても、困っている人のことも、目をそらさずに、ちゃんと動く人というところがすごく魅力的だなと思います。かっこいいしチャーミングなんですよ。そういういろんな面がある人です。
寅子に限らず、周りのキャラクターも、役者さんも、すごく魅力的な人たちばかりです」
―演じていて、どんなところが一番面白いですか?
「その時代は男尊女卑で、女の人が下に見られてしまうような時代だったので、台本を読んでも『女性がどうしてこんな言われ方をされなきゃいけないの?』と、寅子たちと同じような疑問が浮かびます。
今の流れになるまでに、どれだけの人が頑張ってここにたどりついたんだろうと、興味がわきました。演じていて、そこがすごく面白くて。そういうことを知ることはすごく大事だと思っています。
知ると、もちろんモヤモヤすることもあるかもしれないけど、頑張った人たちがいて、歴史が続いているということは皆さんに知ってほしいです。動き方を知れば、誰でも何かを変えられる、1歩を踏み出す原動力になるということを、この作品から学びました。好きなんですよね、私、“トラツバ”が。
法律のことだけではなく、ラブストーリー、友情、家族愛なども混ざっていて、この絶妙なバランスを楽しんでいただきたいです」
―台本を読むと、法律の話ですが堅苦しくなく、くすっと笑ってしまうようなシーンもありますね。
「そういう表現だったから、すごく合っていたんだろうなと思います。カチッとした話だったら自分自身もちょっと息苦しくなると思いますし、選ばれたのが私ではなかったかもしれないです。
くだけたところと、締めるところは締めるというメリハリが、『虎に翼』の魅力の1つだと思います。私もシリアスなところはシリアスに演じたいですが、他は、できるだけみんなが、疲れずに楽しく見ていただけることが大事だなと思っています」
本格的な裁判シーンもみどころのひとつ。伊藤さんが苦労したのが、法律用語が飛び交う独特なセリフまわしです。
例えばドラマのワンシーンでは、次のようなセリフが出てきます。
「第801条 夫は妻の財産を管理す 夫が妻の財産を管理すること能(あた)はさるときは、妻自ら之(これ)を管理す」
「セリフはかなり難しいです。『能はさる』など昔のことばの意味を理解してないと、ひとつひとつのことばが出てこなくなりますし、普通のセリフより覚えるのも時間がかかります。
もともと、説明のセリフは苦手なんです。人との会話は、テンポや感情で話せるので、入ってくるのも早いのですが。
だけど今回は、法律用語を話しているときの寅子はすごく感情的で、この感情を伝えるために、この法律の何条を読み上げていると思うと、いきなりスッと入ってきたりします。そこと向き合っている時間は、苦しいけど楽しいです」
伊藤さんは役作りのために、三淵嘉子さんの母校、明治大学で法律の授業を受けたそうです。
「法律とは何か、法律ができて、改正していく流れや歴史を学べたのは、寅子を演じるうえでありがたかったですし、授業はすごく面白かったです」
9歳でドラマデビューし、芸能界歴は20年になる伊藤さん。「虎に翼」はことし30歳になる伊藤さんにとって、節目となる作品です。
「長いスパンをかけて、一人の人の人生を描くというのは初めてのことです。ちょうど、20代から30代になるときの総集編みたいなところあるんですよ。
私はある時期から元気な役がとても多くて、それは自分も元気になるし、楽しくやらせていただいてきました。
最初のころの寅子も元気ではつらつとした印象があるのですが、大きなもの、難しいことに立ち向かっていくにつれて、元気なだけじゃダメで、いろんなことを知って、学んで成長していく。人間みんな、きっとそうだと思うんですけど、そうした過程をこんなに丁寧に描いていけるなんて、本当にありがたいことです。
私が今までやってきたことだけでは成り立たない、これから立ち向かわなきゃいけないこともたくさんあり、今までやってきたことからその先への挑戦という意味で、いろいろ詰まった作品です」
最後に伊藤さんに、視聴者の皆さんへのメッセージをいただきました。
「『虎に翼』の撮影が始まって、猪爪寅子としての人生をスタートしたというワクワクと、これで大丈夫なのかなというソワソワを、今も行ったり来たりしています。その中でも私が演じる主人公・寅子から、私自身が勇気をもらっています。追い詰められた人々の半径5mの世界を見つめ、その苦境から救うため情熱をもって向き合う寅子、放送をお楽しみに!」
「虎に翼」放送予定
総合【毎週月曜~土曜】 午前8時~8時15分 *土曜は1週間を振り返ります
NHK BS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
プレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
(再放送)
総合【毎週月曜~土曜】 午後0時45分~1時 *土曜は1週間を振り返ります
総合【翌・月曜】 午前4時45分~5時 *翌・月曜は、土曜版の再放送です
NHK BS【毎週土曜】 午前8時15分~9時30分 *月曜~金曜分を一挙放送
プレミアム4K【毎週土曜】 午前10時15分~11時30分 *月曜~金曜分を一挙放送