首都圏各地の駅前では、今も高層化による再開発が相次いでいます。その数は1都3県で71地区に上ります。こうした再開発に今、世界的な資材価格の高騰が影響を与えています。NHKが再開発地区に行ったアンケート調査を通して、その実態を探りました。
※私たちは「不動産のリアル」と題して、各地の不動産事情を取材しています。
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(首都圏局/記者 牧野慎太朗・西澤友陽)
高度経済成長期に建てられたビルなどが更新時期を迎える日本。古い建物をまとめて取り壊し、高層ビルやタワーマンションなどを建てる再開発事業が、首都圏各地でも進められ、街の新たな顔となる施設も次々と誕生しています。秋葉原、渋谷、虎ノ門、中野など都内はもとより、神奈川県や埼玉県でも駅前での再開発が相次いでいます。
こうした再開発事業は、ことし(2024年)1月時点で認可され事業が進められているものだけでも、1都3県で71地区に上ります。首都圏に住む私たちにとり、こうした再開発の現場は今や日常的に目にするものとなっていますが、世界的な資材価格の高騰や建設現場の人手不足による人件費の上昇は、その先行きに影響を与えてはいないのか気になりました。
そこで、私たちは去年(2023年)12月からことし1月にかけて、全国129の再開発地区(1都3県の71地区のうち65地区が回答)にアンケート調査をすることにしました。このなかで「工事費が上昇したり、上昇が見込まれたりしているか」を尋ねたところ、「ある」と回答した地区は全体の7割を超える46地区に上りました。以下が、その一覧です。
工事費が上昇か見込まれると回答 | ||
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区市 |
再開発地区 | |
埼玉 | さいたま市 | 浦和駅西口南高砂地区 |
さいたま市 | 大宮駅西口第3-B地区 | |
さいたま市 | 大宮駅西口第3-A・D地区 | |
川口市 | 川口本町4丁目9番地区 | |
蕨市 | 蕨駅西口地区 | |
東京 | 千代田区 | 飯田橋駅東地区 |
千代田区 | 神田小川町三丁目西部南地区 | |
中央区 | 勝どき東地区 | |
中央区 | 八重洲二丁目中地区 | |
中央区 | 八重洲一丁目北地区 | |
中央区 | 日本橋室町一丁目地区 | |
中央区 | 東京駅前八重洲一丁目東A地区 | |
中央区 | 東京駅前八重洲一丁目東B地区 | |
中央区 | 月島三丁目南地区 | |
中央区 | 豊海地区 | |
中央区 | 月島三丁目北地区 | |
中央区 | 日本橋一丁目中地区 | |
港区 | 浜松町二丁目地区 | |
港区 | 虎ノ門一・二丁目地区 | |
新宿区 | 西新宿五丁目中央南地区 | |
文京区 | 春日・後楽園駅前地区 | |
品川区 | 大崎駅西口F南地区 | |
品川区 | 東五反田二丁目第3地区 | |
品川区 | 戸越五丁目19番地区 | |
目黒区 | 自由が丘一丁目29番地区 | |
豊島区 | 南池袋二丁目C地区 | |
豊島区 | 東池袋一丁目地区 | |
中野区 | 中野二丁目地区 | |
中野区 | 囲町東地区 | |
荒川区 | 三河島駅前北地区 | |
板橋区 | 板橋駅西口地区 | |
板橋区 | 上板橋駅南口駅前東地区 | |
板橋区 | 大山町クロスポイント周辺地区 | |
板橋区 | 大山町ピッコロ・スクエア周辺地区 | |
葛飾区 | 東金町一丁目西地区 | |
葛飾区 | 立石駅北口地区 | |
葛飾区 | 新小岩駅南口地区 | |
江戸川区 | 平井五丁目駅前地区 | |
江戸川区 | 南小岩六丁目地区 | |
江戸川区 | JR小岩駅北口地区 | |
北区 | 十条駅西口地区 | |
練馬区 | 石神井公園駅南口西地区 | |
小平市 | 小川駅西口地区 | |
青梅市 | 青梅駅前地区 | |
神奈川 | 横浜市 | 横浜駅きた西口鶴屋地区 |
横浜市 | 新網島駅前地区 |
これらの地区では、どの程度工事費が上昇しているのでしょうか。
いくつか具体的な事例を見てみます。
こちら、江戸川区の小岩駅北口で、2031年の事業完了を目指して進む再開発事業です。駅前の交通広場の整備や歩道の拡幅とあわせて、低層に商業施設を備えた地上30階建てのタワーマンションを建てる計画となっていますが、422億円だった工事費が40億円あまり上昇しました。
こちらは、さいたま市の浦和駅西口で進む再開発事業です。地上27階建てのタワーマンションや市民会館、商業施設などを整備する計画です。2026年の竣工を目指していますが、479億円の工事費が33億円あまり上振れしました。
さらに、目黒区の自由が丘駅前に、マンションや商業施設などが入る地上15階建ての建物を整備する再開発事業では、約190億円と見込んでいた工事費が2割から3割ほど上昇する見通しだとしています。
こうした工事費の上昇は再開発にどんな影響を与えているのでしょうか。
こちらは、各地区に工事費の上昇による影響を、複数回答で尋ねた結果です。
▼「工事の遅れや停止」 3地区
▼「施設の形態変更」 2地区
▼「地権者の権利床の見直し」 2地区
実は、同じ質問を地方の再開発地区で聞くと、工事の遅れや施設の形態変更などの影響はもっと深刻でした。
都市部と地方とでは、何が違ったのでしょうか。
再開発に詳しい複数の専門家に聞きました。すると、こんな答えが返ってきました。
専門家
「都市部においては、今時点ではマンション需要が高くなっているために、工事費の上昇分を転嫁して販売価格が高くなったとしても、需要はついてきます」
再開発事業は、建物を高層化して作り出した新たな床を売却し、その利益を工事費にあてることで、事業を成立させる仕組みとなっています。つまり、東京などでは工事費が上昇した分を、新たな床(マンションなど)の販売価格に上乗せしても需要が見込めるため、再開発事業が成り立つというのです。東京23区では、去年1年間に発売された新築マンションの平均価格が初めて1億円を超えました。これも工事費の上昇が大きく影響しているといいます。
しかし、こうした状況はいつまで続くのでしょうか。事業者の中には、決して楽観はできないとする声も聞かれます。
大手デベロッパーの担当者
「いまは都市部においてマンション需要が高く価格も上がっているが、この状況がずっと続く保証はない。金利の上昇などに伴って変調して、需要が落ち込むことは十分考えられることで、そうなればこれまで成り立つと考えていた再開発事業を急に見直さざるを得ないおそれもある。現状、建設コストが下がる様子はなく、事業完了までどうなるか見通せないリスクは常にある」
各地で進む再開発は、資材価格の高騰で岐路を迎えています。国は、再開発事業の停滞を避けるため、新たな補助金を交付して事業を下支えしようとしています。ただ、多額の税金が投入されている再開発事業に、さらに公金をつぎ込むことにどこまで妥当性があるのかは、慎重に判断されるべきかと思います。
私たちは各地の再開発の現場を取材していきます。ぜひみなさんの体験や意見をこちらまでお寄せください。