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「毛布に顔をうずめて話し出した」学童でのわいせつ事件 裁判で語られたことは

  • 2024年1月25日

取材したのは、わいせつ事件の裁判。都内の民間学童保育の元社員が複数の児童への強制わいせつなどの罪で起訴された事件です。裁判で被告は、このうち1人の児童に対しては無罪を主張していて、証人尋問で法廷に立った児童の母親は、“子どもは私に被害を打ち明けた”と証言しました。その時、子どもは母親に向けていた顔を毛布に突然うずめ、顔を上げずに話し出したといいます。主張が対立するこの裁判で何が語られたのか、その傍聴の記録です。

※この記事では事案の詳細について触れています。フラッシュバックなど症状のある方はご留意ください。
(首都圏局/記者 北城奏子)

1本の電話

学童保育に勤務していた元社員が問われているのは、おととしから去年にかけて、7歳から8歳の3人の児童のズボンの中に手を入れて、体を触るなどしたという強制わいせつなどの罪。
先月(12月)の裁判で、そのうちの1人の児童の母親に対して、証人尋問が行われました。

証言台に立った母親の周りにはついたてが設けられ、声のみを聞く形でその日の裁判が始まりました。母親が事件を知らされたのは去年6月、警察からの1本の電話だったといいます。 
母親は初めは、はっきりとした口調で、当時のやりとりを語っていました。

母親
「警察署から私の携帯宛に電話がありました。初めは着信に気付かず、知らない番号からだったので、検索したら警察の電話だとわかり、折り返したら、刑事につながりました」

警察

A君の母親ですか?

母親

はいそうです。

警察

当該の学童施設に通っていた?

母親

はい。

警察

施設の職員(元社員)が複数の児童に対して性的な虐待をやっていたことがわかり、被害児童に息子さんが入っている可能性があります。

母親

性的虐待とは具体的に何があったんですか?

警察

電話では答えられないので警察署まで来て欲しい。

 

用事をキャンセルして急いで警察署に向かうと、元社員がA君と2人きりで部屋にいる様子を写した4枚の写真を見せられました。

母親
「防犯カメラの動画のスクリーンショットで、右上に時刻が写り、4つの場面が切り取られていました。
1枚目は右上に息子がいて、被告がソファーの上でくつろぐ格好をしていました。パーテーションがあって、被告はタブレットのようなものを持っていました。
2枚目は、パーテーションの境に息子がいて、3枚目は息子が被告の膝の上に、4枚目は被告が息子のズボンの中に手を突っ込んでいる状況を写していました」

警察からはこのほか、被害に遭った児童がその時点で3人いること、別の児童が被害を両親に打ち明けたことで事件が明るみになったこと、施設から貸与されたスマートフォンの中から動画が出てきたこと、などが説明されたといいます。

顔を毛布にうずめて そして答えた

母親は署を出たあと、とても1人では抱えきれないと思い、A君を連れて実家に行きました。 
そして、2人きりの寝室で、動揺する気持ちを抑えながら、子どもが「先生」と呼んでいた元社員の逮捕を伝えました。

母親

先生が警察に捕まったんだって

A君

え?

母親

何でか分かる?

A君

わかんない。

母親はもう一度「何か思い当たることある?」と聞きました。
するとA君はそれまで母親に向けていた顔を毛布にうずめ、そして短く答えました。

A君

…ちんちん。

母親

ちんちんってどういうこと?

 

母親が聞くと、A君はしばらく黙り、自分がされたことを身ぶり手ぶりで説明したといいます。
きぜんとした口調で話していた母親が、具体的な内容について話す段になると、ことばに詰まり、涙ながらに話している様子が、ついたての向こう側から伝わってきました。

母親

先生に何かされたの?

A君

いつもね、名前忘れちゃったけど、小さい部屋に連れられて、こうやってされてた。

母親

いつからされてたの?1年生の時からずっと?

A君

いや、2年生になる前くらいから。

母親

毎回されていたの?

A君

ないときもあった。

母親

何をされてたの?もうちょっと話せる?

A君

わかんない。皮をガッて、ガッてされた。

“やだ やだ わかんない、わかんない”

母親
「私は、聞くにたえなくなりました。『言えなかったね。つらかったね。ごめんね、いやなこと思い出させて』と声をかけましたが、息子は顔をうずめたままでした」

母親は、「被害を警察に話してくれる?」と聞いてみたといいます。

A君は「やだやだ。わかんない、わかんない」と強い拒否反応を示し、顔を伏せて話してくれなかったということでした。

母親
「私は息子に『あなたは悪くないよ。とにかくママとパパがあなたを守るから』と言ってひざの上に息子を抱きかかえました」

そして、改めて何があったのか尋ねました。

A君

さっきと一緒だけど、いつも小さい部屋に呼ばれて、前に行くと出される。『痛い』って言ったら優しくしてくれるようになった。

母親

優しくしてくれるってことは、やめたってこと?

A君

違う。最初は嫌だって言ったのにやめてくれなかった。

母親

気付かなくてごめんね。いつも言ってきたけれど、こういうことがあったら言うんだよ。

A君

わかった。

1件の起訴 無罪を主張

(母親)
「その上でもう一度、『警察に話せる?』と聞きましたが、『やだ、絶対にやだ』と言うので、『分かった。じゃあもう言わない。何回も聞いてごめんね』と声をかけて話を終えました」

結局、A君が警察に証言することはありませんでした。
A君が母親に話した内容からすれば、事案の時期は「2年生になる前」、つまり2022年4月頃から。
実際に起訴されたのは、動画が残っていたという1件の被害ということになります。
1時間余り続いた証人尋問。検察側からの質問の最後、母親は強い口調で訴えました。

母親
「息子の話では、長い期間にわたり被告から被害を受けていました。できるだけ長い、重い罪を与えることを家族は願っています」

一方、元社員はA君の起訴内容については否認しています。 弁護側の主張は「ズボンの中に手を差し入れた事実は認めるが、わいせつ行為については争う。患部を冷やすために保冷剤を当てていた」などというもので、裁判では無罪を主張しています。 

取材後記

今回、証言に立った母親の話によれば、家庭では、常日頃、「プライベートゾーン」(水着を着ると隠れる場所などを指す)ということばを使って、体を触ってきたり、見てきたりする人がいればすぐ親に言うように性教育を行ってきたといいます。それでも、今回の裁判の証言からは、A君がみずから言うことはなかったということになり、打ち明けることに高いハードルがあることをうかがわせます。
裁判は2月上旬に被告人質問が、その後3月に意見陳述と論告が行われ、判決はそれ以降になる見通しです。

子どもへの性暴力を防ぐために、どんなことが必要なのか。首都圏ネットワークでは、みなさまの投稿をもとに取材を続けています。子どもの性被害の実態について、ご意見をこちらまでお寄せください。

  • 北城奏子

    首都圏局 記者

    北城奏子

    2018年入局。徳島局を経て首都圏局に。性暴力のテーマではデートDVについて過去に取材。

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