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中学受験2024 変わる入試問題 問題に込めた学校の思いと いま問われる力とは?

中学受験のリアル(8)
  • 2024年1月19日

1月10日に埼玉県で中学受験が始まり、首都圏は本格的な受験シーズンに入りました。
過去問を解いている受験生も多いと思いますが、今回は“入試問題”についてです。
入試問題は、昔と比べると大きく変わってきています。
始まったばかりのことしの入試問題を入手・分析して、どのように問題が変わってきているのか、なぜ変わってきているのか、どう備えたらいいのか、出題した先生や専門家に取材しました。

皆さんの抱えている悩みやご意見、体験談などをもとに取材を進めていきます。
投稿はこちらまでお寄せください。
(首都圏局/記者 瀧川修平)

理科・ホッキョクグマの肌の色は?

ホッキョクグマの体毛の色は白色に見えます。これは、光の散乱によって私たちの目には白色に見えていますが、実は透明で光を通しやすく、太陽の光を皮ふまで届かせ、熱を得ることにつながっています。このことを参考にして、実際のホッキョクグマ(成体)の肌の色を答えなさい。

ことし(2024年)の淑徳与野中学校で出題された理科の問題です。
一見、知らないと解けないように思えますが、問題文に記された情報から科学的に考えれば、答えに迫ることができます。
答えは「黒」。
寒い場所に住んでいるため、光を吸収しやすい黒い皮膚で、体温を維持しているのです。
単純に光を吸収しやすい色を聞くのではなく、身近な動物を通して聞いているこの問題。
出題した先生に問題に込めた思いを聞きました。

 

淑徳与野中学校 加藤茂幸 教諭
「私が好きなクマをテーマに、生物の特徴と合理性を考えてもらおうと出題しました。ものごとを科学的に捉えようとすることは、因果関係を理解しようとすることであり、何が問題になっているのか、どうすれば解決できるのかを考える問題解決能力に直結しているものと思っています。本校の生徒が社会に出たときに、さまざまな問題を見出せる人や解決策を提案できる人、もしくは、両方ができる人になってもらいたいと強く願っています」

社会・オーバーツーリズムをどう解決?

『オーバーツーリズム』への対策として、観光税のように観光地域への入場料を有料にして観光客の増加による混雑を抑えようという案があります。観光地域への入場を有料にすること以外で観光客の増加による混雑を和らげる方法を、考えて答えなさい。

続いては社会。聞かれているのは「子ども自身の考え」です。
栄東中学校は、新型コロナが5類に移行したことによって、観光客が増加していることをめぐって、こんな問題を出しました。
なぜ、明確な答えのない問題を出したのか、出題した先生に聞きました。

 

栄東中学校 古谷真 教諭
「一度は経験したことがあるであろう観光について、入試のわずかな時間だけでも、その課題に思いを巡らせてほしいと考えました。受験生たちは、将来、答えのない問題に直面することがあるでしょう。そのような問題に直面した際に、解決策を具体性や実現可能性を考慮しながら、さまざまな視点から模索する力が必要になってくると考え、その力を問いました」

〇正解例
「混雑状況をリアルタイムで分かるようにしたり、観光地への入場を時間帯別の予約制にしたりする」など。
※あくまで一例で、学校が想定していた以上のさまざまな視点を持った解答があり、採点していて、とても興味深かったいうことです。

社会・今の物価から何を考える?

従来、企業が価格を上げないことは経営努力の結果だと考えられる傾向がありました。しかし、企業が価格を上げる必要があるのに価格を上げなかった場合は、どこかに問題が生じていたはずです。その問題とは、どのような問題だと思いますか。あなたの考えを述べなさい。

こちらは、城西川越中学校の社会で出題された問題で、物価高騰の背景についての文章を読んだ上で答えます。これも「自分の考え」を問うていますが、異なる立場に思いを寄せる必要があります。
出題した先生のメッセージです。

 

城西川越中学校 本名俊之 教諭
「経済的な問題は、小学生にあまり身近ではないように思いますが、物価については実感を持って考えることができるのではないかと思い、取り上げました。安ければいいという消費者目線だけでなく、労働者や取引先など、さまざまな視点を持ち、社会の動きに関心を持つ子どもに入学してほしいです。フェアトレードやブラック企業の問題を解決してこうとする姿勢も、役立てることができたと考えています」

〇正解例
「人件費を削減するために、労働者にサービス残業をさせたり、膨大な仕事量を少ない人員でまかなったりした可能性がある」
「優越的な立場にある企業が、物価高騰を理由に値上げを申し出てきた取引先企業に対して、値上げを認めないといったことがあった可能性がある」 など。

過去問の専門家に聞く 中学入試どう変わった?

半世紀以上、中学入試の過去問を出版している「声の教育社」の後藤和浩常務取締役に、今、中学入試がどう変わっているのか聞きました。

Q. 中学入試はどう変わっているのでしょうか?

暗記だけでなく、自分の考えや社会への関心を問う問題が増えました。あとは、単に公式に当てはめて解くだけでは解けない試行錯誤が必要な問題も多く出るようになりました。昔からいわゆる御三家と呼ばれるような難関校では、このような出題がされていましたが、最近は多くの学校で出るようになりました。

Q. どうしてそのような出題に?

身の回りの事柄に、何でだろうと思える好奇心旺盛な子どもや、試行錯誤ができる子どもは、粘り強く学習ができ、中高一貫の6年間の教育で、いっそう成長できると学校が考えているのだと思います。入試問題は“学校の顔”とも言われますが、こんな力をつけて欲しいというメッセージになっています。

Q. 自分の考えや社会への関心を問う問題には、どう対策していけばいい?

勉強でどうにかなるものではなく、生活の中で培われるものです。子どもに質問されたらただ答えるのではなく、子どもの考えを聞き、それを尊重してください。最近よく出題される、ジェンダー、差別、貧困、戦争といったテーマには、「子どもには難しい」と、説明してこなかった事柄も多いです。そういうニュースに接したときに、親子でしっかり会話すること、コミュニケーションは本当に大切です。

Q. 従来の暗記は必要ないですか?

そんなことはありません。知識を問う一問一答も、コツコツ努力してきたことを示す1つの基準です。ただ、受験生全体のレベルが上がってきて、それだけでは差がつきづらくなっているのも事実です。コツコツ勉強することが得意な子どもから、自分の考えや社会の関心を問う問題が得意な子どもまで、学校は多彩な子どもに入学してほしいと考えていると思います。入試問題を見ながら考えるといいと思います。

取材後記

私も中学受験経験者ですが、かつてのような“知識を身につける力”以上に、“考える力”“伝える力”が問われているように感じました。こうした力は、グローバル化など急激な社会の変化に伴い、中学受験という枠を超えて、これからの子どもたちに必要になる力だと思います。
学びとは何なのか、一体何のために学ぶのか、ということも感じさせられました。

みなさんは「中学受験」についてどのように考えていますか?私たちは「中学受験のリアル」と題して、皆さんからの情報や意見をもとに、取材を進めます。
悩みや体験談、情報などぜひこちらまでお寄せください。

  • 瀧川修平

    首都圏局 記者

    瀧川修平

    令和5年入局。10年ほど前に中学受験を経験。第一志望に落ちてしまったのが苦い思い出。

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