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学童保育 公表されなかった子どもの性被害 保護者「きちんと公表し責任を取ってほしい」

  • 2023年12月8日

「学童を信じて預けていたので、強い怒りを感じる」

放課後児童クラブ、いわゆる学童保育で小学生の息子が性被害にあった保護者のことばです。加害者は学童保育施設に勤務していた元社員。企業はその事実を半年以上公表していません。

旧ジャニーズ事務所の問題や学習塾での盗撮事件など、子どもへの性暴力の深刻な実態が明らかになる中で取材に応じた保護者は、事件を公表することによって、子どもへの性暴力を自分事として考えるきっかけにしてほしいと訴えています。
(首都圏局/記者 北城奏子)

公表されない事件

東京や神奈川など首都圏で学童保育を運営している「ウィズダムアカデミー」に勤務していた30代の元男性社員が、複数の男子児童に対し、体を触るなどして強制わいせつなどの罪でことし逮捕・起訴されていたことがNHKの取材で明らかになりました。

元男性社員は都内の学童保育施設で、去年8月からことし2月ごろにかけて、児童3人のズボンの中に手を入れて、体を触るなどしたとして強制わいせつの罪に問われています。また、このうち1人の児童に対しては、体を撮影したとして、児童ポルノ禁止法違反の罪で、追起訴されています。

運営企業のホームページによりますと、東京や神奈川など1都3県で直営校をあわせて21校を展開しています。

企業は、今月(12月)6日までに、一連の事件について男性社員がいた都内の校舎の利用者を含めて、公表していません。

公表の有無 分かれる判断

こうした中、被害にあった児童の保護者が、取材に応じました。

東京都内に住むこの夫婦は、習い事が複数あることや、送迎サービスなどが充実していることから、「ここならちゃんとした先生がいて、子どもにしっかりとした教育をしてもらえる」と思い、この企業が運営する学童保育施設を選びました。

安心して子どもを預けていた中で被害を知らされた時の衝撃は今でも忘れられず、困惑している状況が続いているといいます。

母親
「本当にそんなことがあるのかという驚きと同時に、学童を信じて子どもを預けていたのに、そんなことがあっていいのかと強い怒りを感じました」

父親
「息子はまだ小さくてどこまで被害を理解しているかや、自分の感情をどこまで表現できているのかは親としても見えづらいところがあります。家族としての生活にも事件は影響を与えていて、子どものために何ができるのか自信を失っている状況です」

夫婦は、事件が公表されない状況が続く中、子どもが巻き込まれる性被害を広く社会に伝えることで、“一企業で起きた狭い世界の問題ではなく、社会全体の問題として捉えてほしい”と考え、公表の必要性を感じるようになりました。

「あくまで一般論ですが、ほかにも被害者がいる可能性があり、そういう人たちの救済は誰が行うのか。こうした事件が閉じた世界の中で起きた1つの事件として捉えられ、このままずっと社会の中で点在していくだけでいいのかと懸念しています」

「学童側はほかの児童のプライバシーを守るために公表しないと言っていますが、私からすれば不誠実な対応で、事件を隠しているように見えます。ちゃんと事件を公表して、事件を未然に防いだり、ほかに隠れている被害者のことを助けたりする方が、学童の運営会社としては誠実な対応ではないかと思います」

NHKの取材に対して、運営する企業は「公表を避けたい旨の意向を持つ被害者や家族もいて、公表することで2次被害、3次被害を防ぐことが最重要と考えてきた。このたびの児童に対する性暴力事件は、全く許し難い犯罪行為であると重く受け止め、考え得る限りの再発防止策を検討・策定している」などとコメントしています。

性犯罪の被害者支援に長年取り組む上谷さくら弁護士によると、被害にあったことを知られたくない人も一定数いるといいます。

上谷さくら弁護士
「性犯罪の事件では、被害者であることを特定されるのを恐れて被害を公にしたくない、ということはままあります。性被害については、被害者側に落ち度があるような偏見が、いまだに社会にあるのが大きい。周囲の大人が性犯罪への正しい知識を身につけないことには、こうした偏見はなかなかなくならないと思う」

被害者のプライバシーを守るために、被害者が希望すれば逮捕されていても事件が公表されなかったり、公表されても加害者の名前が出なかったりするケースもあるといいます。
上谷弁護士は「被害にあった子どもが特定されないようにプライバシーを守ることが重要なのは間違いない」とした上で、公表について次のように指摘します。

「いわば指導、監督して支配するような関係にある大人が、声を上げにくい子どもを狙う事件が後を絶たず、構造的に性犯罪が起こりやすい状況を考えると、新たな被害者を掘り起こすためにも公表することは必要です。被害者が特定されないやり方はあるはずで、細心の注意を払った上で、具体的な公表内容や方法を当事者と話し合うことを考えてもいいのではないか」

被害を防ぐ手だては

そもそも、被害を未然に防ぐために出来ることはないのか。新たな仕組みとして、国で現在、制度化に向けた検討が進められているのが「日本版DBS」です。

子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないことを確認する制度で、こども家庭庁の有識者会議がまとめた報告書によりますと、学童保育や学習塾などは義務とせず、認定制度を設けて任意の利用にするとしています。

こうした区別について、民間の事業者でも義務制にするべきだという意見もある一方で、民間といっても事業規模などもさまざまで、上谷弁護士も「どこまでを義務の範囲に入れるかは悩ましい」と話していました。

日本版DBSに関する法案はいまの臨時国会での提出は見送られましたが、今回の被害を受けた保護者は、教育現場などで子どもが被害に遭うリスクが少しでも減るような仕組みや制度が早急に作られることを求めています。

被害にあった児童の母親
「学童という特性上、先生という存在は大きく、重要な位置を占めているはずです。性犯罪に関わる人が学童や教育機関に入ってくることは絶対に許してはいけないことであり、そうした人間が入ってこないような仕組みを作ってもらわないと、親として安心できません」

このほか、被害を未然に防いだり、被害を早期に把握できたりするポイントを上谷弁護士にまとめてもらいました。

(1)1人の大人に任せず、必ず複数で対応するなど大人が1人で子どもたちを見る時間をできる限りなくすこと。

(2)子どもには性暴力についてきちんと教え、もし何かあったら必ず親やほかの先生に言うように伝える。その際、『あなたは悪くないからね』『誰も怒らないから言っていいんだよ』と繰り返し伝えること。

(3)子どもにふだんと違う様子が見られた時(例:急に学校や学童に行きたくないと言う/急に粗暴になる、等)は、子どものSOSだと思って、『何か困っていることや心配なことがあったら何でも言ってね』と、何かあったのかもしれないという前提で対応をすること。

“性暴力=人間の尊厳傷つける最低な行為” 社会で認識を

子どもへの性被害は、学校、塾、保育園とさまざまな場所で起きています。今回取材に応じた保護者は、子どもが安心して過ごせる社会を作るためにも、当事者の思いをひと事ではなく、自分事として感じてもらえたらと話しています。

母親
「性犯罪は人間の尊厳を傷つける最低な行為だと社会が認識して、起きた場合の対応や未然に防ぐための対応を、社会全体で作っていくことが必要だと思います。息子に起きた性犯罪は、今後心にどんな影響を及ぼして、大人になってどんな心の傷として出てくるか分かりません。きちんとした処罰がなされることを願っています」

取材後記

今回の取材で最も印象に残ったのは、両親の憤りです。費用は決して安くはないものの、質の高いサービスをうたう学童に期待し、子どもを安心して預けていた中で、今回のような事件が起きたという事実は、決して見過ごされるべきではないと感じます。
また、取材した多くの関係者が共通の問題意識として持っていたのが、支配的な立場にいる大人が、声を挙げにくい・被害を自覚しにくい子どもを狙った性暴力があとを絶たないことです。1つ1つの事件を無関係に見るのではなく、構造として事件が起きやすいことを社会で認識して、対策に取り組む必要があると感じました。

こうした子どもが巻き込まれる性暴力について、私たちは皆さんからの情報や意見をもとに、取材を進めます。ぜひこちらまで投稿をお寄せください。

  • 北城奏子

    首都圏局 記者

    北城奏子

    2018年入局。徳島局を経て首都圏局に。性暴力のテーマではデートDVについて過去に取材。

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