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中学受験 向いている子?誰のため?小4の息子のチャレンジ 不安感じる母「軽い気持ちで始めたはずなのに…」

中学受験のリアル(2)
  • 2023年11月24日

「とりあえずやってみようか」

埼玉県に住む小学4年生の子どもを持つ母親は、「中学受験をしたい」と子どもから伝えられ、中学受験の世界に足を踏み入れました。そこで待っていたのは、難しい勉強内容に、増える通塾。遊び盛りの子どもはこれから先、耐えられるのか。“軽い気持ち”で始めたはずの中学受験に、いま不安を感じ始めています。    

過熱する中学受験。皆さんの抱えている悩みやご意見、体験談などをもとに取材を進めていきます。投稿はこちらまでお寄せください。

(首都圏局/記者 桑原阿希)

ある日“中学受験したい”と告げられて

埼玉県に暮らす那須香織さん(38)です。
息子の城司さんは小学4年生で、放課後は同級生と遊ぶのが一番の楽しみだという遊び盛りの男の子です。

そんな親子が、中学受験に踏み出すきっかけになったのは、ことし5月。
家族で訪れた私立中学の学校見学でした。校内を見て回ったり、在校生と一緒に実験をしたり、学食にも足を運びました。それからまもなくして、城司さんから「受験したい」と伝えられたといいます。

母親の那須香織さん
“あの中学校に行ってみたい”と言われたので“とりあえずじゃあやってみよう”ということで始めました。勉強を早く始めて損はないという気持ちもあって、あまり深くは考えていなかったです。子どもなのでその気持ちが萎えることもあると思うし、“やめたかったらいつでもやめていいよ”と伝えていました」

香織さんも夫も中学受験の経験はありませんが、魅力的な教育方針を掲げる私立中学に憧れを持っていました。

香織さん
「小学生の時、中学受験をしてみたいという気持ちはありました。クラスに2人ぐらい受験する子がいて別世界のようなイメージがありました。親が子どもに与えてあげられるのは『教育』だと思っていたので、その中から好きなことを選べるようにしてあげたいと思っていました」

“中学受験の世界”へ わが子は耐えられる?

中学受験の世界に足を踏み入れたものの、受験勉強をどう進めたらよいか。
香織さんがまず選択したのは、通信教育を使った自宅での学習でした。城司さんが得意とする習い事の書道を続けながら、遊ぶ時間も大切にしたいという思いからでした。

通信教育のテキストについているカレンダーです。
その日の勉強内容が記され、終えたら印をつける仕組みですが、印が付いていない日もちらほら。1人での勉強は思うようには進まず、香織さんが教えようとすると、親子げんかが絶えなくなったといいます。

香織さん
「一緒に勉強しようと子どもに声をかけてやるんですが、分からない問題が出るとしょげてしまう。“そんな教え方じゃわからない”と言われて、よくけんかになってしまい、本当に苦労しました」

“いつでもやめていいよ”複雑な思いを抱えて

この状況を変えたい。親子で相談し、9月から塾に通うことを決めました。
今は週1回算数のみですが、内容は想像以上に難しく、宿題もこなさないといけません。
来年の春からは5年生になります。
塾から、来年は科目を増やして週4回通うことを勧められていますが、遊びや習い事と両立できるのか。まだ10歳の子どもが、受験勉強に耐えられるのか。
“軽い気持ち”で始めたはずの中学受験に、香織さんは不安を感じ始めています。

香織さん
「勉強内容が難しいので“難しい、できない”と言っていることが多い。率直に不安ですね。この子は遊びたい子なので、きょうは遊ぶから塾に行かないとかたぶん言うんじゃないかなって。子どものモチベーションを保つのはすごく難しいので、お互いが不幸になるんだったら中学受験はしなくてもいいよと伝えています」

その一方で、かけるお金や時間、そして何より本人の頑張りをむだにしたくない、という思いも拭いきれずにいます。

香織さん
「毎日これくらいは勉強をしてほしいなとか、せっかくテキストを買ったんだから、これやってほしいなっていうのは正直あります。“勉強虐待”と言われるくらい親が一生懸命になりすぎてしまって、子どもが辛い思いをしてしまうという話も聞いたことがあるので、そうならないように気をつけようと思っています。未知の世界なので不安でしかないです」

“中学受験”大切にすべきことは

那須さんと同じような悩みを抱えている家庭は多いのではないでしょうか。
進学個別塾を経営するかたわら、保護者の相談にも乗っている亀山卓郎さんに話を聞きました。

<中学受験?高校受験?成長の度合いを考慮して>
Q.まさに今、中学受験をするかどうか、あるいは続けようかどうか悩んでいる家庭に、大切にしてほしいことはなんですか。

子どもによって成長の度合いが異なるので、自分の子どもの成長を加味して、受験のタイミングを考えてほしいです。中学でぐんと伸びる子もいます。中学受験か高校受験、どちらをするかだけの話で、中学受験の方が向いているのであれば、中学受験でいいですが、まだやりたいことがあったり、今チャレンジしていることがあったりすれば、高校受験でいいです。中学受験を“する”“しない”にとらわれすぎて、あまり近視眼的に考えてしまうと、子どもの将来を考える上で、目が曇ってしまいます。

Q.子どものうちから勉強させすぎることには抵抗があります。

以前は、幼い子どもに勉強を教えることに疑問を感じていました。でも、いざ子どもたちと向き合うと、子どもたちは勉強するんです。しかも、教えてくれと楽しそうに勉強する子どももいるんです。大人が勝手に、難しいからできないだろうと躊躇していた面もあると思います。知りたいことや見たいことについては、幼ければ幼いほど無制限に望みを叶えてあげたり、いろんな知識を増やしてあげたりしたほうがいいと思います。そういう意味では、中学受験は、子どもの能力を開発するための面白いきっかけという側面もあると思います。

Q.中学受験に向いていると感じる子どもは?

好奇心旺盛な子どもです。「それって何?」と聞きたがる子は、早い段階で受験勉強にとりかかっても、楽しみながら取り組めると思います。また、ガッツがある子どもや負けず嫌いの子どもも向いていると思います。勉強以外の何かにはまりこんでいる子どもは、意外に受験勉強にもはまり込んで結構頑張ります。

<受験すると決めたらコンセプトを決めて>
Q.もし中学受験にチャレンジしてみようとなった時、大切なことは何ですか?

親自身が気持ちを整理するために、以下の3つのコンセプトを決めた方がいいです。
▼何のために受験するのか
▼中高でどんな生活を送ってほしいのか
▼どんな大人に成長してほしいのか

当初の思いを書き留めておくことは、進路を見失いかけたとき、親子関係がギクシャクしてしまったときなど、行き詰まった際に、受験への向き合い方を見直すきっかけにもなります。

皆さんは最初は、“受験で高得点をとってほしい”とか“上位校に受かってエリートコースを歩んでほしい”なんて書きません。“中高でやりたいことを見つけて打ち込んでほしい”“自分でやりたい仕事を見つけてほしい”といったことを書きます。それがいつの間にか偏差値至上主義に変わっていってしまうということが多いので、原点を忘れないということがすごく大切です。

<“ゆる中学受験”とは>
Q.亀山さんが掲げる「ゆる中学受験」に注目する人も少なくありません。どういう受験なのでしょうか?

習い事などやりたいことを諦めて、全力で中学受験に向かうのではなくて、その子の持つ勉強以外の可能性を残しながら、勉強と両立させて、のびのびと受験していきましょうという考えです。受験レースで親子が疲弊しないことを大切にしています。世間が持つ中学受験のイメージは、遊びから習い事から全て捨てて、夏休みも全て勉強、という過酷な感じだと思います。偏差値が高い難関校を目指す従来からの受験がある一方で、偏差値で測らない異なる価値観の受験もあっていいと思うんです。社会や生き方が多様化する中で、中堅の学校には、学習内容やカリキュラム内容などをリニューアルして、新しい価値観を提示する学校も増えてきています。

取材後記

今回取材させていただいた家庭からは、子どもを勉強漬けにしたくない、でもがんばってほしい。この狭間で戸惑う気持ちがひしひしと伝わってきました。あまり無理をせず、子どもに合った私立中学を探したいと話していました。
亀山さんが掲げる「ゆる中学受験」が共感を得る背景には、価値観が多様化する中でも、子どもに一番大切なものは何かと模索する、保護者側の変わらない思いがあるように感じます。引き続き、様々な角度から中学受験の取材を進めていきます。

みなさんは「中学受験」についてどのように考えていますか?私たちは「中学受験のリアル」と題して、皆さんからの情報や意見をもとに、取材を進めます。悩みや体験談、情報などぜひこちらまで投稿をお寄せください。

  • 桑原阿希

    首都圏局 記者

    桑原阿希

    平成27年入局。富山局を経て首都圏局に。学校現場の取材を続ける 約20年前に中学受験を経験。結果は厳しく公立中へ。

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