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“やらされPTA”さよなら(1)PTA外注で負担減?!

  • 2023年11月20日

「PTAに入らない」などと敬遠する声がネット上でよく見られます。
平日に学校に集まって会議するなど慣例的な運営スタイルは、共働きの増加などで時代に合わなくなっているからです。コロナ5類移行後、行事が例年どおり復活するなかで「負担も元どおり」だと嘆く声も。
こうした中、各地で令和の時代にあったスタイルに改革しようという動きも相次いでいます。“やらされPTA”と決別するためにはどうしたらいいか考えます。

今、注目されているPTA業務の外注化の動きを追ってみました。
                              (首都圏局/記者 氏家寛子)

PTAの運動会の手伝いは

コロナが5類に移行し、この秋、多くの学校行事が例年どおり、復活しました。目玉のひとつ、運動会では我が子の雄姿を見届けるのを楽しみに訪れた保護者も多いでしょう。
一方、大変な思いをしているのがPTAの役員です。もちろん学校ごとに違いはありますが、競技の運営係になるとテントの設営や参観に来る保護者の受け付け、学校周辺の不審者の見回りを担当することもあるからです。

SNSには負担を嘆く声も・・・。

PTA大変。
役員の仕事があって、なんだかじっくり見たって感じがしなかった。
子供の競技が駐輪場の担当になっている時間で、観られないのか…。

PTAは「任意団体・入退会自由」

ここで、そもそもPTAという組織の成り立ちについて簡単にまとめます。

1957年(昭和32)年に開かれた第5回全国PTA大会の様子

◯歴史は
戦後から始まります。アメリカが日本の民主主義教育を推進するために結成を指導。当時の文部省がPTAの設置を推奨したことから全国の学校に広がりました。

◯目的は
Parent-Teacher Associationという名前のとおり、「保護者と教職員が協力して子どもの健全な育成をする」こと。
なんとなく誰もが入らないといけないと思われていますが、政府も「PTAは任意団体であり、入退会は保護者の自由」としています。

◯具体的な活動例は
さきほどの運動会以外にも、バザーの手伝い、登下校の見守りなどがありますが、いつ、どのような活動をするかはPTAごとに決めることができます。

変わる社会・家族によって…

参加した保護者に聞くと、学校や子どもの様子がわかったり、地域の人とのつながりができたりするなどのメリットを口にしています。
ただ、その活動に参加することを負担に感じるという声も少なくありません。
東京都小学校PTA協議会が去年(2022)9月、保護者およそ5400人に行ったアンケートでは、『PTA活動で変えたいこと』として「スリム化」をあげた人が最も多く70.8%、次いで、「活動の柔軟性」が58.6%となりました。
夫婦共働きの家庭が7割に上る一方、学校側も教員不足という深刻な問題に直面するなど、PTAという組織ができた時代とは前提となる条件が大きく変わるなか、このままでは、参加する保護者、学校側とも立ちゆかなくなるというジレンマがあります。

PTA業務の外注化とは

こうしたなか、PTAの業務を一部を外注化することで負担を軽減しようという動きが始まっています。

10月下旬に開かれた、茨城県つくばみらい市の小学校で開かれた運動会。ここでは、入り口付近に立った紫色のベストの女性たちが、訪れた保護者をテキパキと誘導していました。

実は、この誘導係は人材派遣会社のイベントスタッフです。
去年までPTAがこの係を担当していましたが、負担が大きかったといいます。
この学校の児童がおよそ1200人というマンモス校。運動会に参観に来る保護者の数が多いので、PTAによるサポートが欠かせませんでした。
しかし、去年の運動会では、PTAの担当者が同じ保護者に対して、出入り口への順路や立ち入りの制限を守るよう注意することで雰囲気が悪くなることもあったといいます。

そこで、ことしは、PTA総会を経て、この誘導係を外注化。

スタッフ6人に6時間半依頼して費用は10万円程度です。参加者が威圧的に感じないよう、保護者と同じ年代のスタッフが手配されました。

つくばらみらい市立富士見ヶ丘小学校PTA 牟田聡子会長
「保護者が保護者に注意するというのはどうなのかなというか、気まずい部分があったり、ご近所の方は注意しにくかったり。そういう意味では、第三者であまり地域になじみのない方に入っていただいた方が精神的に楽になるのではないかと考えました」

ことしの運動会は、コロナの5類移行もあり、去年よりも多くの人が訪れましたが、混乱もなくスムーズな誘導ができたといいます。
保護者にも外注への受け止めを聞いてみました。

母親

保護者のお手伝いは好きで参加していますが、気をつかうところはあります。子どもの観覧に集中するという点では、運動会のお手伝いの一部を外部委託という選択肢はありなのかなと思いました。

父親

共働きで子どもが3人いるので調整が難しく手伝いができないことが多いです。手伝ってくださる方の負担を考えると、外にお願いできることはお願いしつつ、協力しながら進めるのがいいと思います。

 

牟田さん
「保護者がつらい思いでPTA活動をするのはよくないと思います。先生たちの手が回らないようなところに保護者が入ることは、授業参観以外の子どもの顔が見られるメリットがあると感じますが、手間とか負担が大きくて子どもに直接関わらないものについては“外注”という選択肢も検討しています」

注目集める“外注”サービス

今、PTAを外注化するためのサービスが広がりを見せています。
外注化を支援するサービスを3年前に立ち上げた、増島佐和子さん。紹介した、小学校行事の見守りや警備のスタッフの手配のほか、出張授業の講師や記念品の手配、IT導入支援など、PTA業務のサポートや商品の開発などを手がけています。全国およそ1500のPTAが利用しているといいます。
コロナ5類移行後、行事の復活とともに相談は増え、去年の2倍以上に上るといいます。

PTA'S(ピータス)を運営する「さかせる」増島佐和子代表
「毎年やっていたPTA活動のうち、コロナ禍で“やらなくても誰も困らなかった”ことがいくつかあったと思うんです。今、再開するかどうか検討したり、これまでどおりではなく効率化できないのか負担を減らせないのかと考えたりする中で、アウトソースが選択肢のひとつになっているのではないかと思います」

自身も、PTAの役員を経験し、そのあり方に疑問を持ったという増島さん。
この日は、小平市の小学校で「保護者の会」の委員長を務める女性とリモートで面談し、“保護者の負担を減らしたい”という相談に応じていました。

保護者

みんなが公平に仕事をやらなきゃいけないみたいなのがずっとあって。シングルや病気の人など事情がある人にも押しつけている状況で。見た目はみんなに一つずつ仕事をお願いしているのですが、それが“公平”なんだろうかと疑問です。

増島さん

公平であるべきは、子どものために何かしたいと思う気持ちを受け止める受け皿だと思うんです。今までどおりの人数や内容で運営することが目的ではなく、子どもたちのために活動することが目的だという共通認識を持つことができれば、ひとり1回というルールは必要ないですよね。

 

共働きや多様な考えの保護者が増える中で、昔どおりの仕事を引き継ぐのは難しいと思います。無駄な仕事も多いし、本当にそれいるのかなと感じることもあります。今、いろいろ精査して変えようとしているので、子どもを真ん中において活動できればいいなと思います。

専門家「大事なことはPTAを楽しめるかどうか」

PTA業務の外注化の動きを専門家はどのように見ているのでしょうか。専修大学法学部教授で、東京都内の公立小学校で3年間PTA会長を務めた岡田憲治さんに話を聞きました。

専修大学法学部 岡田憲治教授
「お金を使ってストレスを低減させることで、もっと楽しいことにエネルギーを活用するのであればPTAの外注もいいと思います。ただ、一番肝心なのは、当事者意識を手放さず、みんなで話し合って“私たちがそれを決めたんだ”ということころを担保すること。任意団体の自治はそういうものだと思います。PTAの活動を真面目に考えすぎて仕事のように完璧なものを追求するのではなく、楽しむことが大切ではないでしょうか。子どもは、大人がゲラゲラ笑いながらやっている姿を見ることで、“人は楽しく協力しながら生きていくんだ”と感じると思います」

みなさんの経験・意見お寄せください

取材した私(記者)もPTAの役員を務めていますが、今、PTAという組織が岐路に立っているのではないかと感じています。
全国組織の「日本PTA全国協議会(日P)」から各校のPTAを束ねる団体が退会する動きや、各校のPTAに解散する動きもあります。
1947年に当時の文部省が発表したPTA結成手引き書にはこう書かれています。「家庭と学校と社会とが、その教育の責任を分けあい、力を合わせて子供たちの幸せのために努力していく」。各地で模索が続いていますが、この趣旨を踏まえ、前向きな議論が進んでほしいと思います。

みなさんがPTAをやって良かったと感じたことやモヤモヤしていること、悩みや疑問なども、ぜひこちらよりお寄せください。そうした声をもとに取材を続けたいと思います。

  • 氏家寛子

    首都圏局 記者

    氏家寛子

    2010年入局。水戸局、岡山局、新潟局を経て首都圏局に。 今年度(2023)は息子の小学校のPTAで広報委員長を務めています。

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