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  • 2023年10月31日

発達障害の子どもの学び “情緒学級”を求める声

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「自閉症・情緒障害特別支援学級」、いわゆる「情緒学級」。特別支援学級の中でも、自閉症や対人関係の形成が困難な子どもなどが通って、少人数で教科の授業を受けられる教室です。在籍者は全国で増加していますが、都内では半分以上の自治体で情緒学級が設置されていません。NHKには、「住んでいる自治体に情緒学級がない。実態を知ってほしい」など、情緒学級に関する意見が複数寄せられました。     
現場の取材を進めると、いまの学校に居場所がなく、情緒学級を求める切実な声が聞こえてきました。     
(首都圏局/ディレクター 實絢子)

情緒学級とは

情緒学級(自閉症・情緒学級特別支援学級)とは何なのか。簡単にまとめました。

・「特別支援学級」のひとつで、自閉症や対人関係の形成が困難な子どもなどが通って、少人数で授業を受けるもの。

・各教科の授業は、基本的に通常の学級に準ずる内容のものが行われる他、困難さを改善するための「自立活動」や、通常学級との交流・共同学習などが組み込まれる。

“学校に行きたいけど行けない” 学び場を探す親子

発達障害や不登校の子どもを育てる「親の会」です。東京・小平市内で月に一度、お互いの悩みを話し合っています。

 

自閉症スペクトラムの子どもを育てる母親     
テーブルの上にあるものは触らないとか。声がかかる前にきっと触らないだろうって先生も思ってるけど、触ったりするじゃないですか。触るイコールいたずらしたねって言われるんですよ。

 

自閉症スペクトラムの子どもを育てる母親     
衝動性があるのも止められないんだよ。止めたいんだけど、止められなくて手が出ちゃうんだよって。この手を縛ってくれみたいな子もいるわけじゃん。

「親の会」の参加者たちの子どもの多くが、学校に通えていません。そのため、この会では市民体育館を借りて、遊び場を提供。少しでも外に出る機会を増やそうとしています。     
子どもたちに、学校について聞いてみると…。

小学1年生

学校にまあまあ行けてない。ちょっと頭混乱中で、行きたいか行きたくないか混乱中で、どうしようって迷っております。

小学3年生

真面目に勉強していたのに、『うるさい』っ言われて。『廊下に立っとれ!』って言われた。学校に行っていたときは、お友達もいて楽しかった。

ディレクター

これからどうしたいかな?

 

頑張って、学校に行きたい。

「親の会」の参加者のひとり、小林さん(仮名)です。     
小学4年生の息子は、自閉症スペクトラム症と診断されています。こだわりが強く、周りと同じようにできないことがあると、かんしゃくを起こすようになりました。1年生の2学期、「学校がつらい。死にたい。」と口にするようになったといいます。

小林さん(仮名)     
「他人と同じようにできないということを責めてしまうのが特性のひとつで、どんどん自分を責めるようになっててしまったことから、ドクターストップで学校に行けなくなりました」

息子と話し合いながら、再び登校を試みた小林さん。担任とは別に、様子を見てくれる先生を付けてもらうなどの対応を学校に相談しましたが、難しいと言われたといいます。     
仕事をやめ、フリースクールなど、息子が日中過ごせる場所を探して回りましたが、近くに通える場所がなかなか見つかっていません。

「大人の余裕のなさが全部子どもの方に来てしまっていて、それをうまく流せる子もいれば我慢できる子もいるんですけど、繊細だったり発達にでこぼこがある子なんかは助けてもらえなかったり。『僕はだめなんだ』が上書きされないんですよね。学校に行ってないから」

情緒学級を求めて 動き出した親たち

子どもが学校に通う上で、選択肢を増やすことはできないか。当事者の親たちは「情緒学級」の設置を小平市に求めることにしました。

「親の会」の主催者、濱村美紀子さんです。自身も発達障害の息子を育てた経験がある濱村さん。親たちとの対話から、情緒学級の必要性を感じました。     
2年前、濱村さんたちは小平市で署名活動を行い、市に提出。     
来年度から、市内の小学校に初めて「情緒学級」が設置されることになりました。

開設に向け、準備が進められている教室です。黒板のチョークの粉や音などが苦手な子どものために、ホワイトボードを設置しました。また、子どもが感情を落ち着かせることができるスペースを作るための間仕切りを用意するなど、さまざまな配慮がされています。

親の会「ぷらっときっず」代表 濱村美紀子さん     
「色んな親たちの話を聞いていると『本当に子どもの居場所ないや』って。だから情緒学級は絶対あるべきだと思います。避難所的じゃないですか。もうそこしか居場所がないっていう、ギリギリの選択じゃないですかね。せめてそこがあれば行けるかもしれないという、保護者の思いだと思います」

3年以上、息子の学び場を探し続けている小林さんも、情緒学級に申し込みました。

小林さん(仮名)     
「チャンスがあるんだったらみんなと一緒にできるんだよということが、子どもの自信にもつながるっていうチャンスに懸けています。親も先生も地域も協力して子どもを育てることができたら、安心して通える学級になるんじゃないかな」

分かれる自治体の対応

通常の学級で学ぶことが困難な子どもたちにとって、学校に通うためのひとつの選択肢となる「情緒学級」。しかし、大阪府の小学校には「情緒学級」が2687学級設置されている一方で、都内では167学級に留まっています。     
都は、発達障害のある子どもへの支援として、「すべての小中学校で、週に数回、別の教室で学ぶ通級指導を受けられる体制を整えている」とした上で、「情緒学級の設置は自治体が判断すること」という立場です。

しかし、取材した親御さんたちの声の中には、「不登校の子どもには、通級だけでは解決策にはなっていない」「子どもの特性に合った支援のひとつとして、情緒学級に期待している」といったものがありました。     
専門家も、通常学級や通級指導だけでは支援しきれない子どもが多くいる中で、情緒学級を含め、多様な選択肢を確保することが必要だと指摘しています。

滋賀大学 窪島 務 名誉教授      
「いろいろな特性や性格を持っている子が、できるだけみんな一緒に学ぶということが原則としてありますが、それが本当に子どもにとって適切な支援になっているかという議論が、常に必要だと思います。多様な学びの場と、多様な専門性を持った先生が確保されて、選択肢があるという部分での制度的な保障が今後必要になってくると思います」

学校に通えない、発達障害のある子どもの居場所を確保していくため、行政に柔軟な対応が求められています。皆さんからのご意見や体験談などは引き続き募集しています。ぜひこちらの投稿フォームよりお寄せください。

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