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おにぎり専門店なぜ急増?最大6時間待ちの店(東京豊島区)も 出店の意外な事情は

  • 2023年10月13日

おにぎり専門店が首都圏で急増。最大6時間待ちの行列ができることもある人気店や、多様なトッピングや見栄えにもこだわった「進化系おにぎり」を売りにする店などが続々と登場しています。

競争が過熱し、「おにぎり戦国時代」とも言える状況だと指摘する専門家も。なぜ、いまおにぎりなのか。独自取材で浮かび上がってきたおにぎりの可能性や、家庭でもおいしく食べられるコツも取材しました。
(首都圏局/ディレクター 高橋祥)

並んででも食べたい“ごちそう”

都内の人気おにぎり専門店。値段は、ひとつ350円から、トッピングを組み合わせると700円ほどまで。

店舗のあるJR大塚駅前には、連日長蛇の列が伸び、休日には6時間待ちになることもあるといいます。

店のこだわりは大きく3つ。そこには、家庭でのおにぎり作りのヒントもありました。

その1. 炊き方の工夫
米どころ新潟から仕入れたコシヒカリを、長年の研究の末にたどり着いた水加減で炊き上げています。少なめの水に2時間ほどたっぷり浸し、少し硬めに炊くのがポイントです。

その2. なるべく“にぎらない”
にぎりは型を使って成形し、間に具材を挟んで手で軽く抑える程度。ふんわりと柔らかいけど崩れないように仕上げるのがコツだといいます。

その3. 豊富な具材の組み合わせ
具材は魚介から肉まで58種類。お好みで具材を組み合わせることもできます。組み合わせによって楽しめる味は1600通り以上にのぼります。

一番人気があるのが、店内で焼き上げたさけに、たっぷりの筋子を併せた組み合わせ。

次に人気なのが、しょうゆ漬けした卵黄と肉そぼろの組み合わせです。

家庭でのおにぎり作りの参考になる、トッピングの人気トップ10はこちら。

1位 すじこ+さけ
2位 卵黄+肉そぼろ
3位 豚キムチ+納豆
4位 まぐろ角煮+葉とうがらし
5位 ベーコン+チーズ
6位 ホッキサラダ+焼きたらこ
7位 しそ昆布+明太マヨネーズ
8位 山ごぼう+青しそ
9位 牛すじ+カレー
10位 明太子+高菜

お客さん

具材がおいしいのと、食べたときにほわっと。握り方がやわらかくておいしい。並ん
でも食べたい。

お客さん

何時間待ったかわからないけど、待ってよかったというおいしさ。

 

この店の創業は1960年。3年ほど前からSNSなどで話題となり、全国的に知られる存在になりました。

その人気は外国人観光客にも。この日訪れていたドイツからの観光客は、SNSで偶然この店の情報を目にしたことがきっかけだったといいます。

ドイツからの観光客

めっちゃうまい。I like curry (カレー味が好き)

 

店主の右近由美子さんも、思わぬ人気ぶりに日々驚かされているといいます。

おにぎり専門店ぼんご 代表取締役社長 右近由美子さん
「ディズニーランドのようにいろんなアトラクションがあって、いろいろ楽しめるわけではなくて、おにぎりじゃないですか。なんでそんなに並ぶのか私も聞きたいくらいです」

物価高の中での高“コスパ”

さらに取材を進めると、おにぎりブームの背景に、近年の物価高の影響も見えてきました。

首都圏で50店舗以上を展開するおにぎり専門チェーンでは、今年の売り上げは既に30億円を上回り、過去最高のペースを記録しています。

この店がこだわっているのは、冷めてもおいしい炊き加減。コンビニよりも大きいことをうたうボリューム感。そして毎日食べても飽きない100円台からの豊富なメニューです。

顧客の6割は女性。近年、駅ビルでの出店に力を入れ売り上げを大きく伸ばしています。

週3回ほど、最寄りの駅にあるこの店を利用している麻生侑希さんです。

100円ショップで働く麻生さん。もともとはパンが好きでしたが、今年に入っておにぎりをよく購入するようになったといいます。

麻生侑希さん
「パンもそうですし、パスタもそうですが、値段が若干上がっているなという感じがすごくあったので、値段のわりに、量が少なかったり、おなかがすきやすかったりしていました」

麻生さんの外食予算は1日500円。この日購入した2つのおにぎりはそれぞれ130円と150円で、袋代を入れても合計285円でした。

あらゆる物価が高騰するなかで、腹持ちがよく選択肢の豊富な専門店のおにぎりはコストパフォーマンスが高いと感じています。

「余計なものを、こまごましたお菓子とか、買わなくなったので、すごく節約になっているという感じがします。ただ、節約しているからといって我慢している感じもしないので、とても満足感があっていいです」

おにぎり店“働き方”の魅力

さらに、新たにおにぎり業界に参入する人の増加も、ブームを後押ししています。

なぜ、おにぎりなのか。そこからは、日本人の働き方についての価値観の変化が見えてきました。

10年前からおにぎりの魅力を国内外に広める活動を続けてきた中村祐介さんです。

今年に入り、これまでほとんどなかった、開業についての相談が急増。多い時には月に10件ほど寄せられ、その多くが、これまで飲食業とは無縁だった人からの相談だといいます。

中村さんに相談を寄せた、小澤めぐみさん。いまは子育てをしながら物流倉庫で働いています。

小澤さんがおにぎり店を選んだのは、子どもとの時間を作るため。ことし、息子が中学校に進学し、部活動や塾通いを支えたいと考えていました。

小澤めぐみさん
「今は本当に時間いっぱいいっぱい働いているのですが、おにぎり店は主体的に動いていくことができるので、うまく時間をやりくりすれば余裕ができるかなと。理想は、息子をきちんと送り出して、帰ってきても迎えることができる時間帯です」

中村さんによると、おにぎり店の繁忙な時間帯は昼食の時間に集中するため、工夫次第で柔軟な働き方も可能だといいます。

さらに、多くの人をひきつけているもう一つの要因が、出店のハードルの低さです。

一般的な飲食店に比べて、大がかりな設備が必要なく、初期投資を抑えられることも参入者が相次ぐ要因だといいます。

一般社団法人おにぎり協会 代表理事 中村祐介さん
「手軽さというか、大量生産はできないけれど、一人でまかなえる範囲で一定の利益をあげていくことを考えやすい。テイクアウトだけのお店であれば、2坪とか少ないスペースでも開業できるというのはメリットです」

弟子入りする若者たち

記事の冒頭で取り上げた、行列ができる都内の人気店にも、2年ほど前から自ら店を出したいと弟子入りを希望する人が相次いでいます。

その多くが、一般企業に勤めていた20代から30代の若者たちです。

その一人、北九州出身の野村満樹さん(26歳)です。一人で東京に食べに来て衝撃を受け、右近さんが店主を務めるおにぎり専門店で学びたいと考えました。

野村さんは高校卒業後、地元の製鉄会社に就職し、工場のラインに入って働いていました。この店のことを知ったのは、職場でのつきあいも少なく、同じ仕事を繰り返す毎日に疲れ、将来に不安を感じ始めたときでした。

野村満樹さん
「自分の地元でおにぎり屋さんをやりたい。小さい子どもから大人までみんなが食べられるものがおにぎりだと思います。そういうところも含めてすごくいいと思います」

これまでにこの店で修行を積み独立した人はすでに10人以上。店主の右近さんは時代の大きな変化を感じています。

右近由美子さん
「これだけ世の中は目まぐるしく、しかもデジタル化しているじゃないですか。顔の見えない商売とかも多いじゃないですか。スーパーに行っても、機械でお金を精算するなど、人と人というのが少なくなってきている。あえてこういう商売を経験したいのではないかなと思う」

ONIGIRIで世界のトップへ

新規出店者の中には、壮大な夢をおにぎりに託した人もいます。

川原田美雪さん。世界のトップに立つという目標を掲げ去年、この店の社長になりました。

店の売りは味に加えて見た目も味も豪華な「進化系」と呼ばれるおにぎり。

こちらは、青森県産ホタテを店舗でバターソテーしたものに、塩こんぶと青のりを合わせた商品。各地の特色ある具材を使いながらも、1つ300円程という値段も人気を呼んでいます。

東京の一等地に出した1号店は女性客を中心に連日にぎわい、おみやげとして購入する人も多いといいます。

商品のコンセプトは、こだわり具材の「マリアージュ」(=組み合わせ)。

米はどんな具材とも相性がよいため、世界各地の食材と組み合わせれば可能性は無限に広がると考えたのです。

大学院で人工知能を研究し、世界に影響を与える仕事がしたいと大手IT企業に入社した川原田さん。営業担当として結果を残したものの、技術革新で海外に先を越される現状に無力感も感じていました。そんなとき、知人から持ちかけられたのがおにぎり店の出店計画。夢をかなえられるのはこの仕事だと直感したといいます。

開店からおよそ1年。店には近隣の会社に勤める外国人や海外からの観光客も多く訪れるようになりました。

川原田さんは4年後までに海外で70店舗の出店を目指しています。

TARO TOKYO ONIGIRI取締役社長 川原田美雪さん
「ITの世界では日本は出遅れていて、大きな技術革新がないかぎりは難しいと思っていたのですが、おにぎりなら日本発の会社で世界を取れる可能性があると思ったのが一番大きな要素です。おにぎりという文化が世界の定番やカルチャーになればいいなと思っているので、世界に向けて出店していきたい」

 

専門家は、海外でも、日本の漫画やアニメをきっかけに「おにぎりを一度食べてみたい」という需要も高まってきていると指摘します。

作家・生活史研究家 阿古真理さん
「日本食が健康にいいというイメージがすでに広がる中で、おいしくて、手軽に日本食が食べられるというニーズは、今後さらに海外の方に受け入れられる可能性があります。これまでコメ食の文化がそこまで根づいていなかった地域でも、需要が拡大できるのではないかと思います」

  • 高橋祥

    首都圏局 ディレクター

    高橋祥

    首都圏局 ディレクター 高橋祥 2015年入局。大阪局、報道局を経て2021年から首都圏局。首都圏の企業を中心に取材。

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