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増える“ビジネスケアラー”(2)仕事と介護の両立に「保険外サービス」が頼みの綱?

  • 2023年10月12日

働きながら親などの介護をする人、「ビジネスケアラー」が、高齢化社会の中で増えています。経済産業省もことし、2030年には家族を介護する人のうち4割にあたる318万人がビジネスケアラーになり、その離職や労働生産性の低下に伴う経済損失額は、9兆円に上るという将来推計を公表しています。

介護の認定を受けた人が利用できる介護保険サービスは、利用できる内容や頻度が限られています。そこで、家族が仕事と両立するため、いま、介護保険外のサービスが注目を集めているといいます。現場を取材しました。
(首都圏局/記者 氏家寛子・ディレクター 岩井信行)

介護保険サービスでは足りない…

神奈川県の60代の男性は、教員の仕事を続けながら、母親の介護にあたっています。
91歳の母親は介護なしでは生活が難しい、要介護4の認定を受けていて、身のまわりのサポートが必要です。

母親の介護が始まったのはことし1月、自宅で転倒したことがきっかけでした。
介護保険サービスの訪問介護などを利用したうえで、男性自身も在宅勤務しながら介護にあたりますが、保険制度で定められたサービスだけでは、必要だと考える分まではまかなえない状況だったといいます。

そこで、頼りにしたのが、介護保険外の訪問介護サービス。
利用料の負担が一部にとどまる介護保険のサービスとは違い、全額自己負担にはなりますが、介護保険のサービスの隙間をうめる形で利用しようと考えました。

男性の勤め先では在宅勤務もできますが、対面の打ち合わせや授業のある日など週3日程度は職場に行かなければなりません。しかし、職場までの通勤時間は、片道2時間以上かかります。男性は、出勤の日も母親がひとりになる時間をできるだけ短くするため、帰宅が遅くなる平日の夕方に利用することにしました。

利用した介護保険外の訪問介護サービスは、その内容も自由に決めることができます。取材で訪ねた日は、母親の見守りとその合間に洗濯や掃除をしてもらうよう依頼していました。

月の利用は6万円ほど。費用は母の年金から工面しているといいます。経済的な負担は小さくありませんが、仕事と介護の両立にはこのサービスが欠かせないといいます。

保険外サービスを利用する男性
「絶えずどなたかがいないとちょっと心配だったので、仕事に行くときは、1日空けることになるので、どうしても誰かしら入っていただくような形になります。介護保険では限界があるので、保険外サービスは必要だと思いますね」

ビジネスケアラーの介護ニーズに即応

こうした介護保険外サービスを利用する人が今、注目を集めているといいます。

首都圏や大阪、愛知などで自費の訪問介護サービスを提供している都内の会社では、24時間365日いつでも利用でき、当日の申し込みでも介護士を手配できるといいます。

この会社の代表を務めるのは、自身も介護施設の職員として働いた経験を持つ水野友喜さんです。4年前にサービスを開始しました。要介護者の子どもなど、仕事をしながら介護する人からの依頼が多く、内容は、在宅介護や、掃除・調理・ペットの世話などの生活支援、通院・外出の付き添い、入院中の介護など多岐にわたるといいます。

なぜ、時間をかけずに介護士の手配ができるのでしょうか。
それは、介護士の情報をデータで管理し、要介護者の属性・ニーズに合致するよう、マッチングする仕組みを取り入れているからです。登録を希望する介護士とは業務委託契約を結びますが、事前に資格や経験のほか、適性検査でコミュニケーション力なども確認し数値化。こうしたデータに、これまでの利用者からの評価も加えながら、依頼にあった介護士を選定しているのです。

コロナ禍のあと在宅勤務が減っていることもあって利用者は急増し、利用者は去年の3倍に伸びているといいます。柔軟な働き方ができることなどが好まれ、登録する介護士も3000人を超えています。

イチロウ 水野友喜代表
「仕事の都合や緊急で介護が必要になってしまったが仕事の調整がうまくいかない、介護保険サービスでは足りない部分を埋めるなど、そういうニーズが強いです。公的保険でまかないきるのが難しい時代に入ってきているのではないかと思います」

介護保険外サービスとは?

介護保険サービスの例

介護保険外サービスは、民間企業のサービス以外にも、市町村や住民ボランティアが提供するものなどさまざまです。

メリットとしては、利用者だけでなく、家族の負担が軽減される点が大きいことです。
介護保険サービスにも、洗濯や調理、掃除といった生活支援は含まれていますが、あくまでも対象は利用者本人のみで、家族の分までは対象外です。それに、ペットのお世話や窓ふき、家の周りの草むしりなど、日常生活の援助に該当しないとみなされる家事も介護保険サービスの対象外です。
さまざまな制約にとらわれない保険外サービスを利用することで、生活の質の向上・維持が期待できます。

一方、注意することとしては費用の面があります。
事業者が自由に価格設定できるので、不当な内容で契約してしまうリスクも指摘されています。保険外サービスであることを理解し、丁寧に説明を聞くことが必要です。

民間サービス活用で 国もモデル事業始める

国も、こうした介護保険サービス以外の民間サービスを利用しやすくするよう後押しします。経済産業省は、今年度、高齢者の日常生活を支えるため、多様な受け皿の充実をはかろうというものです。

訪問介護やデイサービスなど介護保険サービスの事業者については、それぞれの自治体がガイドブックにまとめるなどして情報提供をしていますが、保険外のサービスについては、高齢者に情報が十分に行き届いていないことや信頼性の確保が課題となっています。そこで、市区町村ごとに、高齢者のニーズを掘り下げるとともに訪問理美容や配食サービスなどの民間業者とのマッチングを行って利用につなげようと、今年度、全国の9自治体でモデル事業を行い、事例を集めて全国の自治体に広げたい考えです。

専門家は

介護制度に詳しい、淑徳大学の結城康博教授は、介護保険外の自費サービスを利用する際は使い過ぎに注意するべきだと指摘します。

淑徳大学 結城康博教授
「介護保険はあくまで要介護者のためのサービスで、仕事との両立においては使いにくい面があるため、自費サービスが注目されています。ただ、提供する事業者も商売、営利的に使うよう促す可能性もあるので、必要な分だけ使うよう、ケアマネージャーと相談しながら自費の部分の利用について計画を立てていくと安心できるのではないでしょうか。一方で、保険外サービスは、費用負担や担い手不足の問題により、利用できる人が限られてしまう面があります。労働人口を確保するためにも、だれもが安心して働けるような両立支援策が急務です」

みなさんの経験・意見をお寄せください

高齢化時代、介護が身近な存在になる人はさらに多くなります。こうした時代に合わせて、だれもが働きやすい職場づくりを進めるためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。

仕事と介護の両立について、私たちは取材を続けながら、みなさんといっしょに考えていきたいと思います。
ビジネスケアラー当事者や元当事者の方の経験談、悩みや疑問なども、ぜひこちらの 投稿フォーム よりお寄せください。

  • 氏家寛子

    首都圏局 記者

    氏家寛子

    岡山局、新潟局などを経て首都圏局 医療・教育・福祉分野を幅広く取材。

  • 岩井信行

    首都圏局 ディレクター

    岩井信行

    2012年入局。さいたま局などを経て2021年から首都圏局。子どもの貧困や社会的養護、ヤングケアラーなど、家族に関わるテーマで取材を続ける。

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