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明治神宮外苑再開発 樹木伐採は延期に どう考える? QA形式で解説

  • 2023年10月3日

東京の明治神宮外苑の再開発について、事業者は9月にも始めるとしていた樹木の伐採について、年明け以降にずれ込む予定であることを、ぎりぎりとなる9月29日に発表しました。
神宮外苑の再開発をめぐっては、ユネスコの諮問機関が、中止を求める警告文書を出したり、サザンオールスターズが再開発への思いを表現した新曲を発表したりといろいろな動きが起きています。
なぜ、樹木の伐採は延期となったのか。再開発について、いろいろな意見がある中で、この間、どういったことが必要になるのか。専門家の指摘などをもとに解説します。
(首都圏局 都庁記者クラブ/記者 尾垣和幸)

樹木伐採開始の延期 都の要請受けて

Q. なぜ、樹木の伐採は延期されたのでしょうか?

明治神宮外苑の再開発では、高さ3メートル以上の樹木1904本のうち743本が伐採される計画です。事業者は、9月以降、このうちおよそ50本の伐採とおよそ90本の移植を始める予定だとしていました。
これに対し、言わば、待ったをかけたのが東京都でした。事業を認可した立場の都は、極力、樹木を保全するよう事業者側に求めていて、9月12日、伐採を始める前に、具体的な保全方法の見直し案を示すよう要請していたのです。
これを受け、9月にも伐採を始めるとしていた事業者側は、ぎりぎりとなる9月29日になって、見直し案を示すのは、ことしの年末から年明けになり、これに伴って伐採や移植を開始するのは年明け以降にずれ込む予定だと説明しました。
見直し案では、現在予定されている新しいラグビー場の設計を変更することなどで、伐採本数を減らすことを検討しているということです。

都の要請はなぜこの時期に?

Q. そもそも、なぜ、都は、伐採が始まるかもしれない9月になって、見直し案を示すよう要請したのでしょうか?

この9月は、サザンオールスターズが再開発への思いを表現した新曲を発表したり、市民グループが、作家の浅田次郎さんや、椎名誠さん、俳優の秋吉久美子さんなどおよそ80人の賛同者を集め、再開発に反対する声明も出したりして、神宮外苑再開発への関心が高まった時期でもあります。
ただ、都の幹部への取材を進めると、都が事業者に見直し案を示すよう求めた要因については「アラートがやはり大きかった」と打ち明けてくれました。

「アラート」とは?

ユネスコの諮問機関「イコモス」が、9月7日に出した「ヘリテージアラート」と呼ばれる、再開発の中止を求めて出した警告のことです。

「イコモス」は世界遺産の認定や登録に関わる専門家たちの団体で、「ヘリテージアラート」は「文化的資産が直面している危機に対して、保全と継承のために出される声明」です。
今回の開発の経緯を問題視したイコモスの日本国内の委員会が、シドニーで行われたイコモスの「文化的景観委員会」の総会に提案し、審議され、発せられました。

イコモスは、大正時代に造られた神宮外苑について「近代化が進む東京で、緑地を確保するために整備され、東京の都市公園や庭園の中核を担い、そして、多くの国民の献木などによって造られた」ことなどを理由に「世界の公園の歴史においても例のない文化的資産」と指摘しました。
イコモスの文化的景観委員会のエリザベス・ブラベック会長は、アラート後に開かれた記者会見で神宮外苑の再開発の話を聞いた時の印象について語っています。

オンラインで会見

エリザベス・ブラベック イコモス文化的景観委員会会長
「全員ショックを受けたということ。その理由ですが、東京のような世界の主要都市では、こういうことは聞いたことがなかったからだ。公園として用いられてきた空間に、高層ビルが建てられるというのが今回の問題のより具体的なポイント。私が知る限り、また、我々ネットワークが知る限り、これまでなかった。極めて異例のことであるということだ」

ヘリテージアラートは、法的な強制力はありませんが、都には、認可につながる手続きのやり直しなどを、また、事業者に対しては事業の撤回を求めています。
都の幹部の取材からは、再開発への関心が高まる中でこうしたイコモス側の動きを無視できないと判断したと見ることもできます。

東京都と事業者はアラートに懐疑的

一方、東京都の小池知事は9月にあった定例の記者会見で、ヘリテージアラートについて所感を述べました。

小池知事
「かなり一方的な情報しか、入っていないのではないかと思います。しっかりと事業者の方でも説明をより丹念にすべきだと、改めて思いました」

 

Q. なぜ、小池知事は「一方的な情報」だと指摘したのですか?

イコモスがアラートを出すことになったもとの資料や情報は、イコモスの日本国内の委員会からのものです。この国内の委員会はこれまで度々、都の環境アセスメントの方法に誤りがあるなどとして再開発に反対してきました。アラートは、そうした意見だけを基にしており、海外のイコモスのメンバーが現場の視察をしていないことや、事業者へのヒアリングを行なっていないことなどから指摘したとみられます。
一方、再開発を行う事業者は9月末、より具体的に、アラートに対して反論しました。

例えば、アラートでは、再開発によって、名所となっている4列のイチョウ並木の「健全性に決定的な影響を与える」と指摘しています。このことについて、事業者は「確実に保全するために必要な計画の見直しに取り組んでいく」などと主張しました。
また、アラートでは、再開発が「過去100年にわたって形成され、育まれてきた都市の森を完全に破壊することにつながる」と指摘していますが、事業者は、新たな植樹によって樹木の本数を増加させることなどから「『森を完全に破壊する』という記述は事実からかけ離れており、多くの方の誤解を生みかねない」と反論しました。
このように、東京都と事業者は、いずれもアラートには懐疑的です。

アラートをどう受け止める?

ただ、海外の都市計画に詳しい静岡文化芸術大学の松田達准教授は、ヘリテージアラートが出されたことには意義があると感じています。

静岡文化芸術大学 松田達 准教授
「おそらく、アラートが発せられたことで海外のメディアも、このことの意味を次第に取り上げて行くんじゃないかと思います。ただ、ジャニーズの性加害問題もそうですが、海外から指摘されて初めて国内が動くというと、残念だなと思います。現段階のアラートで議論できることはできるだけしたほうがいいと思います。この開発は非常に巨大なものなので、ここまできたものを止めたくないという人たちの気持ちは、もちろんよく分かりますが、一旦進んでしまうと不可逆的な、元に戻すことができないような大きな開発ではあるので、ここで少しでも、アラートの意味も含め、再開発について議論できないのかなと、非常に強く思います」

 

Q. 専門家が指摘するような議論の場は今後も設けられるのでしょうか?

事業者は、住民に対する説明会を7月と9月に開いていて今後も住民の要望があれば開催するとしています。その説明会では、いずれの場でも、再開発で建設予定の3棟の高層ビルについて疑問の声が上がっています。
この疑問について、事業者に取材したところ、「新たな収益の場所を生み出すことで、再開発事業全体の事業費をまかない、経済的に成立させるため」だと回答がありました。緑の保全や広場の整備、スポーツ施設の改修にはお金がかかるため、その事業費を収益性の高い高層ビルなどで捻出するということだと考えられます。
ただ、この回答だけでは、住民側の疑問も解消されたとは言い難いと思います。こうしたことを、住民説明会などで議論していくことは必要ではないかと感じました。

どうやって議論を?

Q. どのように再開発に向けた議論を進めるべきなのでしょうか?

松田准教授は「中立的な視点を踏まえることが大事です。具体的には、再開発することの意義に加え、再開発の計画を修正したり、さらには中止したりすることなど、いろいろな方向性を、同じ土俵にあげて議論をすることができればいいと思います」と指摘しています。
すべての人が納得する再開発計画はないとは思いますが、樹木伐採の開始時期が数か月は延期となったいま、再開発の意義や、計画の修正で守ることができるものについて、この期間で新たに議論する場を設けることも必要ではないかと思います。

 

明治神宮外苑再開発に関して、皆さんからの意見を引き続き募集しています。
こちらの投稿フォームよりお寄せください。 

  • 尾垣和幸

    首都圏局 記者

    尾垣和幸

    都庁担当 東京オリンピック・パラリンピック競技会場のレガシー活用などを取材。神宮球場にはプロ野球観戦で足繁く通う。

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