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文京区議会にピクニック? 若手議員たちの挑戦 「もっと議会に関心持って!」

地方議会のリアル(5)
  • 2023年9月25日

「ピクニック」。夏の暑さもひと段落し、山へ、公園へ、いらっしゃる方も多いと思います。そのピクニックの行き先が、地方の議会だとしたら、みなさんどうしますか。

家から議会まで歩くの? 傍聴席でお弁当を食べるの?

実際、東京・文京区議会では「議会ピクニック」という催しが開かれました。党派を超えた若手議員が企画したというこの催し。そこには、切実な願いが込められていました。

この記事を書いている私は、地方議会には取材以外で行ったことがありませんが、今回、文京区議会に「ピクニック」をしてきました。
(首都圏局/記者 鵜澤正貴)

議会は遠い存在? 文京区民の声は

東京ドーム近くにある東京・文京区役所。まず、私はその議会を訪ねる前に、区内に住む人たちに区議会について聞いてみました。

30代女性

全く知らないです。自分の生活とどうつながっているのかが見えにくくて、興味がないですね。そこまで考える余裕が自分自身にないというのもあります。

20代男性

遠い存在ですね。別に特に不自由もないですし、あまり何か求めることもないといえばないので。

70代女性

ずっと前ですが、友達に誘われて、1回だけ議会を見に行ったことがあります。あまり身近じゃないから、やっぱりなかなか自分から行こうとはちょっと思わないですね。

70代男性

政治家の利害みたいなことばかりが報道されるからね。政治に期待することがない。関心を持たなくても普通に生きていけるし、それだけ平和ということなのかな。

これは長く選挙報道に携わる私にとって少し意外な結果でした。文京区は国政選挙の際、他と比べて投票率が高いことで知られ、去年の参議院選挙でも都内の区や市の中では1位で、政治にも関心が高い地域だと思っていたからです。

動き出した若手の議員たち

しかし、文京区議会の若手の議員たちは議会に対する住民の関心の低さに危機感を覚えていました。

沢田圭司議員(右側)

2期目の沢田圭司議員です。この春の統一地方選挙に立候補した際、地元の町内会の人など支援者から「区議会がふだん何をしているのかわからない」という声をよく聞いたといいます。
そこで、区民に議会の傍聴に来てもらう催しを企画しました。気軽に参加してもらおうと、「議会ピクニック」と名付け、議会の傍聴に加えて、軽食をとりながら議員と意見交換する場も設けることにしました。

文京区議会 沢田圭司 議員
「僕は議員になる前、保育士だったんですが、議員も議会そのものも、何か縁遠い存在だなって思っていたんですよね。議員になってからもずっと考えていて、誰かが『1回でいいから議会を見に来てよ』って声をかけないとだめなんじゃないかなと。もっと政治を身近に感じたり、自分たちのものだと感じたりしてほしいと思ったんです」

議会を知ってもらう取り組みに、党派は関係ないと考え、幅広く議員たちに声をかけたところ、党派を超えて、同期の議員やこの春当選した1期目の議員が数人、賛同してくれたということです。

子育て世代も参加 有休利用の人も

先日開かれた議会ピクニックには、沢田議員の地元の町内会の関係者や、子育て世代の人たちなど10人ほどが参加しました。

「前にも傍聴したことはあるが、議員から解説を聞いてみたい」という人もいましたが、議会の傍聴は初めてだという人たちもいました。参加者に話を聞いてみました。

参加した伊東静香さん
「議会を見に行けるっていうのは知っていましたけど、わざわざ時間を取って見に行っても、別に自分が意見を何か言えるわけじゃないので、これまでは行こうとは思わなかったですね。でも、PTAの活動などをする中で、区議会にも興味はあったので、今回お誘いを受けて参加することにしました」

参加した竹嶋斎さん
「政治に全く興味がないわけではなかったんですけど、仕事も忙しいし、実際に議会を見に行くような時間は全く取れなくて、正直ほったらかしみたいな感じになっていました。どうやって絡んだらいいかもわからないし、選挙で選ばれた議員さんにお任せって言った方がいいんですかね。今回は町内会経由で知って、有給休暇を取って参加しました」

委員会の質疑 生活に身近なテーマ

この日、傍聴したのは「建設委員会」です。委員会では、議員が質問し、担当の課長などが答えます。老朽化した地域の橋の補修工事や公園の整備など、生活に身近な話題が議論されていました。
このうち公園の整備では、暑さや雨への対策、緑を守る取り組み、それに、子どもたちがボール遊びをできる場所の確保などについて意見が交わされました。なかには、現場を視察して議論に臨んだり、区民の声を紹介しながら、質問したりする議員もいました。
ピクニックの参加者たちは、両者の間で交わされる質疑を熱心に見守りました。

“1人1人が地方自治の主役”

傍聴を終えたあとは、議員たちと軽食をとりながらの意見交換。
参加者からは、「こんなに身近なことをきちんと議論しているとは知らなかった」という声があがりました。
一方で、「もっと具体的な質問があってもよかった。議員の質問力が大事だということがよくわかった」という少し手厳しい意見もありました。

ただ、総じて参加者にとっても、今回の傍聴を通して新鮮な気づきがあったようです。

伊東さん
「予算に関する質問が出て、はっと感じたのは、何か家で新しいテレビを買う時とか、こう夫婦で話し合う、そういう内容とあんまり変わらないのかなということでした。私は身近に感じられたという意味で、ポジティブに捉えています。ハードル高く感じている友達も多いので、もっと身近になっていけば私たちも声を出しやすいし、区議の人たちも声を拾い上げやすくなって、よりよい文京区になるんじゃないかなと思います」

竹嶋さん
「ちゃんとここまで議論してくださっているんだっていうのがわかりました。でも、議員の質問力にも強弱があるので、その仕事ぶりもわかってよかったなっていうのもありますね。多数決でゼロかイチか判断しなきゃいけないこともあると思うんですけど、その時に、自分の意見が通らなかった時にもしょうがないよねって、納得できるような議論のプロセスがわかることが大事だと感じます」

沢田区議
「どうやったら若い人たちとか、子どもたちとか、これから生まれてくる子供たちも含めて、この国の政治をもっと自分たちのものにできるか。そのためには、民主主義の学校とも呼ばれる、地方議会の仕事をもっと知ってもらうことがまず最初の一歩だと思うんです。議員は代表って言いますけど、別に偉いわけじゃないんです。あなたも地方自治の一員だし、むしろ主役の1人なんだっていうことに気づいてもらえたら、これ以上、うれしいことはないですね」

文京区議会 今後は委員会もネット配信へ

手応えを感じた沢田議員たちは、今後も取り組みを続け、賛同する議員や参加する区民が増えてほしいと話しています。さらに、文京区議会は、議会の活動を広く知ってもらうため、委員会のインターネット配信も行う方針です。

総務省によりますと、ことし1月時点で、ネットで議会の様子の中継や録画を配信しているのは、全国1788の議会のうち、66.8%にあたる1195となっています。
ただ、「全国市議会議長会」の調査では、「本会議」は見られても、テーマごとに分かれて審議する「委員会」は見られない議会もまだ多いということです。
文京区も、現在配信しているのは本会議のみですが、ことし6月、委員会の配信を求める請願が全会一致で採択。今後の配信に向けて、現在、具体的な開始の時期や手順などを検討しているということです。

皆さんの体験・意見お待ちしています

今回の取材で、若手の議員たちが党派を問わず住民に関心を持ってもらえるような試行錯誤をしていることは、心強く感じました。
私たちも、地方議会が本当に身近な存在と感じられるように「地方議会のリアル」の取材を続けたいと思います。
皆さんが日頃、議会について思うこと、または経験したことを、こちらまでお寄せください。私たちは皆さんの声をもとに取材したいと思います。

  • 鵜澤正貴

    首都圏局 記者

    鵜澤正貴

    2008年入局。秋田局、広島局、横浜局、報道局選挙プロジェクトを経て首都圏局。

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