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CODA(コーダ)親が聴覚障害の子 社会全体で支えるには

  • 2023年9月25日

「親のどちらか、あるいは両方がきこえない・きこえにくい」という、耳がきこえる子どもたちは「CODA」と(コーダ)呼ばれます。「CODA」は、「Children of Deaf Adults」の略です。
国内には、およそ2万2000人いるという推計があります。
親を手話などで積極的にサポートしようという子どもたちに、結果として負担がかかっている現状を取材しました。
(首都圏局/記者 喜多美結)

手話で親の買い物を手伝う

小学5年生、松下理音さん(11)と4年生の妹、佳冬さん(9)はテニスが大好きなきょうだいです。

2人の両親、哲也さんと母親の恵さんは、生まれたときから耳が聞こえないろう者です。
親子の会話は、手話が中心です。
スーパーで買い物するときには、お会計のとき、手話を使って恵さんを手伝います。
この日は店員が「袋なくて大丈夫ですか?」と聞いたのを受けて、2人が手話で恵さんに伝えたあと、「いらない」と店員にこたえていました。

母親の恵さん
「店員さんに、ポイントカードとか、レジ袋とか、言われるけど聞こえなくて。時間がかかり後ろに並んでいる人が気になります。ふだんは1人で買い物をするのですが、子どもがいて通訳してくれるときは助かったりしますね」

子どもにとって責任が重いことも

恵さんは、大人の集まりのときにはたいてい、手話通訳を手配しています。
しかし、急な場合は、手配ができないこともあります。この日は地元のお祭りに向けた打ち合わせに急きょ参加することになったため、理音さんに通訳をお願いすることになりました。

会長

ききたいことはない?

恵さん

何?

理音さん

ききたいことはない?

打ち合わせでは祭りの衣装の話など、理音さんにとって初めて聞くことばもあり、手話でどう伝えれば良いか分からなくなってしまいました。理音さんは、頭を抱えてしまいました。

理音さん
「伝えられなかったところが悔しかったけど、分からない言葉を言われたから、どうやって伝えれば良いかわからなかったから、そこが難しかった」

葛藤を感じる母の思い

娘たちに大きな負担を負わせてしまっているのでは。
恵さんは、一生懸命手伝ってくれる娘たちに感謝する一方で、これからは、子どもたちの時間を大切に、応援していきたいといいます。

母親の恵さん
「通訳をしてもらうというようなプレッシャーを与えてしまっているのかなと申し訳ない気持ちがあります。(姉が)テニスと関係がある学校に行きたいというのがあって、これからもっと勉強をすることになるかもしれません。そう考えると、子どもの時間を作ってあげたいなと思います」

専門家 “まずはお互いに直接会話を”

自らもCODAである専門家は、親の近くに耳代わりになって通訳を担ってくれる子どもが近くにいると、どうしても、その子どもに頼ってしまい、子どもたちに負担がかかるとしています。そして、その負担を減らすことが大切だと指摘しています。

東京大学バリアフリー支援室 中津真美 特任助教
「どうしたら目の前にいる自分と異なるコミュニケーション手段を持つ人に伝えることが出来るか、思い巡らせてまずはやってみる。そうした考え方を社会全体で共有していくこともまた、コーダの負担を和らげていく事につながるものと考えています。子供はやっぱり親のために何かしたいっていう気持ちを持つこともあるから、コーダが頑張って通訳をしているなと思った時にまずは親と直接聞こえない親と直接会話をするということを周りの人はやってみてほしいなと思います」

中津さんは、いま、全国のCODAの中学生、高校生を対象に調査を進めています。その内容は、85項目にも及ぶもので、親との会話方法や、親の通訳をすることはあるか、どんな気持ちを持っているのかなどをたずねています。
中津さんは、今年度中に調査結果をまとめ、CODAが必要とする支援につなげていきたいとしています。

取材後記

今回取材した、小学5年生の松下理音さんは、母親の恵さんと一緒に行った地元の祭りの打ち合わせの中で、難しかったり知らなかったりすることばも、なんとか伝わるようにと一生懸命でした。
だから、頭を抱えた理音さんの様子をみてぽろりと涙を流す恵さんと、うまく伝えられなくてこぼした理音さんの涙が強く印象に残り、私もつらい気持ちになりました。

専門家の中津さんが指摘するように、まずは周りの大人が親に直接伝えようとすれば、手話がわからなくても、筆談や、指さしや身振り、または口元を大きく開けて会話をするだけでも伝わることが多いはずです。
CODAの子が親のそばにいたとしても、「筆談でもやり取りするから、大丈夫だよ」などと働きかけることで、子どもの負担を大きく減らすことができるのではないかと感じました。

まずは、CODAの子どもたちが、私たちの周りにもいること。
そして、お互いの会話の方法は、声と手話だけではないことを広く知ってもらい、CODAを社会全体で支えていくことにつながっていってほしいと思います。
そして、みんなが想像力を持って、すべてのひとに優しい世界になっていってほしいと感じました。

  • 喜多美結

    首都圏局 記者

    喜多美結

    2023年入局 共生社会やスポーツ、教育に関心があります。

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