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“議員と職員は対等なパートナー”~横須賀市議会の取り組み~

地方議会のリアル(4)
  • 2023年9月7日

千葉県長生村で明らかになった議員による自治体職員に対するハラスメント行為。
私たちが、こうした地方議員と自治体職員の間のいびつな関係を伝えたところ、1人の地方議員が「私たちは、両者の上下関係を見直す取り組みを進めています」と情報を寄せてくれました。いったいどんな取り組みなのか。さっそく話を聞いてきました。
(首都圏局/記者 鵜澤正貴)

議会事務局→議会局 “ただの書記ではない”

地方議会のリアルを取材している私たちに情報を寄せてくれたのは、横須賀市議会の小林伸行議員です。小林議員によると、横須賀市では条例を改正し、おととし(2021年)4月から「議会事務局」を「議会局」という名称に変更したといいます。

この春から4期目となった小林議員は当時の議論をこう振り返りました。

横須賀市議会 小林伸行議員
「当時は『名前を変えても、中身をどうするかが先じゃないの』という意見や、『いやいや変えていこう、メッセージとして名前から変えるんだ』という意見の両方がありました。でも、結局、ただの書記という扱いではないんだということを明確にするために、『議会局』にしようということになったんです」

かつてあった上下関係 それが…

話を聞き、どういうきっかけで始めたのか気になりました。
それについては、小林議員はこう証言しました。

小林議員
「昔は議会事務局の職員が、議員が飲んだお茶の茶わんを洗うということをやっていたんですよね。でも、コロナ禍を経て、名前も変わって、もうそういう小間使いみたいなことはやりませんというふうになったんです。
また、従来は議員たちは職員を『おう、事務局』みたいに呼んでいたわけですよね。何というか、やっぱり上下の関係であった気がしますね。今は議会局というと、上下ではなく、一緒に仕事するスタッフという感じがより明確になった。心なしか職員も誇らしげに見えます。何か格上げされたような感じはあったんじゃないでしょうか」

責任を伴う 名称変更の重み

当時、議論を中心となって進めたひとりで、現在は市議会の議長を務める大野忠之氏にも話を聞きました。大野議長もまた、かつては職員はあくまで受動的なサポート役という認識だったと振り返ります。

横須賀市議会 大野忠之議長
「基本は、われわれ議員が物事を決めて、職員には『じゃあ、あと手続き頼むね』というのがそれまでの流れでした。だから、職員は言われたことを、ただやるという形だったんですね。それが当たり前だった。議員になった時からあまり意識することもなく、そういうもんだというふう感じていました。
それから、例えば『これ頼むよ』と言うにしても、言い方ってありますよね。これは議員さまざまで、あうんの呼吸でできる場合もあれば、そうじゃない場合もありました」

しかし、4年前、議員を対象とした研修会で、他の自治体が議会改革の一例として、議会事務局を議会局と名称変更していることを知り、議員の間で取り入れようと議論を進めたといいます。
一方、名称を変えることが、実際にどんな効果をもたらすのか。そこについては疑問も残りました。それについて聞くと「名称を変えることには重みがある」という答えが返ってきました。

大野議長
「変化をもたらす意味では、『議会局』に変えるということが大事だったというふうに思います。議会局になって、やはり職員も自分たちから能動的に私たちにアドバイスをくれて、議員の活動をサポートしていくという姿勢に変わっていったし、われわれ議員側も相談しやすくなった。いい相乗効果だと思っています。名称変更の重みというのは議員も職員も感じています。それには責任を伴いますけど、職員の皆さんには、やりがいを持って仕事をしてもらっていて、本当に頭の下がる思いで、ありがたいです」

過去には“余計な口は出すな”の声も

私たちは職員の側にも「議会局」になったことの受け止めを聞きました。

取材に応じてくれたのは、議会局の小菅勝利局長です。
もともとは市役所の福祉関係の部署での勤務が長かったということですが、40代の時に、係長として初めて議会事務局に勤務。課長を経て、議会事務局と議会局あわせて10年以上の勤務となります。
小菅局長も、議会事務局での勤務を始めた頃は、議員との関係に悩むこともあったと打ち明けました。

横須賀市議会議会局 小菅勝利局長
「10年以上前ですかね、係長の時に、今はもう勇退された議員なんですが、あることについてご提案をしたところ、それは議員が決めることだ。余計な口は出すなと一喝されたことが何度かありまして、なかなかこれは難しいなと悩んだ時期はありました。
法的な側面や過去の事例など、議員でも気づかないような部分はありますので、より良い情報を提供して、いい判断をしてもらいたいという思いが強かったのですが、これが議員と職員の関係なんだなと思って、その場は引いたことを記憶しています」

議会局に名称を変える議論があったのは、小菅局長がちょうど人事異動で議会事務局を離れていた時期でした。この議論を聞き、期待する部分もあったといいます。

小菅局長
「端的に言って、議員が決めたことに従ってサポートしていくというのがそれまでの基本的な関係だったのですが、物事が決まってからではなくて、決める段階でもう少し職員が関わって、伝えるべきことを伝えていく必要性があるというのは常に課題として捉えていました。ですので、『議会局』として、事務的なサポートだけではなくて、議員と職員が一緒になって進めていくというのは、職員の気持ちも変わるんじゃないかという印象がありました」

議員の提案を支援 職員が積極的に調査

名称変更から2年。

まだ、目に見える劇的な成果が出たわけではないとのことですが、足元の改革は着実に進んでいるといいます。その1つが調査業務の充実です。
それを担うのが、総務調査課。議員が政策を提案するなど議論するのにあたり、議論の下地となる、他の自治体の事例や対応といった情報を調べます。
最近も、調べてほしいテーマを議員に募る取り組みを始めたところだということです。

小菅局長
「それぞれの議員がいろいろな問題意識を持っていますので、それに対して議会局の職員が積極的に関わって効果的な調査をしていく。それをもとに、最終的に行政側に良い提案ができて、市民にとって良い効果をもたらすというのが最大の目的です」

“大事なのは議員と職員の信頼関係”

さらに、議員と職員が協力して、“開かれた市議会”を目指す動きも始まりました。
今年度から始まった町内会長が集まる場に議会局の職員が出向き、議会についてアピールする活動。これは局長が発案し、議員側の了承を得て、スタートしたということです。

名称変更をきっかけに始まったこれらの取り組み。議員と職員双方とも、今後、より本格化させたいとその意気込みを語りました。

横須賀市議会議会局 小菅勝利局長
「正直、まだまだ私も含めて道半ばだと感じています。今までは議員が言っているんだからその通りでというところもあったかと思うんですが、そこを積極的に一歩踏み込んで、提案していく。まず私自身がそういう姿を見せなきゃいけないという思いも強くあります。若い職員にとっては、議員という存在はハードルが高いという意識もあると思いますが、結果として、議員のためにも、市民のためにもなると伝えていきたい。そして、一番大事なのは、議員と職員の信頼関係の構築です。それによって一体感が生まれ、相談や助言ができる。それが議会局のあるべき姿だと思います」

横須賀市議会 大野忠之議長
「議会改革はまだまだ道半ばです。開かれた議会という形で市民の皆さんに議会のことを理解していただくには、たくさんやることが残っています。議会局の職員は、われわれの活動には必要不可欠な存在です。ぜひわれわれとともに一緒になって、市民の声を聞き、しっかりとした議会改革を進めていきたいと思っています」

「議会局」 全国には18自治体

早稲田大学マニフェスト研究所によりますと、この横須賀市のように、議会事務局の名称を議会局に改めた全国の自治体は、ことし4月の時点で、18あるということです。

東京都、神奈川県、福井県、横浜市、川崎市、相模原市、さいたま市、熊本市、東京・中央区、つくば市、横須賀市、平塚市、秦野市、甲府市、豊田市、氷見市、大津市、明石市

元三重県知事で、早稲田大学名誉教授の北川正恭さんは、このような動きをこう評価しています。

早稲田大学 北川正恭 名誉教授
「物事を変革する際、基本は理論や理屈から入ることが大事ですが、一方で、まずは名称を変える、形から変えることで、はっという気づきを与え、固定観念を打破していくということも重要です。『議会局』とすることは、単に事務を担当する庶務係ではないという気づきのきっかけを与え、議会改革につながる動きといえます」

皆さんの体験・意見お待ちしています

「たかが名称」と思った方もいらっしゃるかもしれません。私も当初、そう思った1人ですが、当事者たちの話を聞くにつれ、「されど名称」と考えを改めた取材でした。

私たちは「地方議会のリアル」を探る取材を今後も続けます。皆さんが日頃、議会について思うこと、または経験したことを、こちらまでお寄せください。私たちは皆さんの声をもとに取材したいと思います。

  • 鵜澤正貴

    首都圏局 記者

    鵜澤正貴

    2008年入局。秋田局、広島局、横浜局、報道局選挙プロジェクトを経て首都圏局。

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