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「こいつ…動くぞ!」 “搭乗型ロボット”アーカックス開発現場 ロマンが現実に

  • 2023年9月5日

「巨大ロボットに乗って操縦したい!」
子どもの頃に夢見たSFアニメのような世界が現実のものになろうとしている。

都内のベンチャー企業が開発している“搭乗型ロボット”。
高さは4.5メートル、重さは3.5トンでパイロットはコックピットに乗り込んで操縦する。
若き社長が追い続ける巨大ロボットの夢。そして、エンジニアたちの光る技…。

見せてもらおうか。搭乗型ロボットの性能とやらを。
(首都圏局/ディレクター 新野高史)

ついに完成!搭乗型ロボット「アーカックス」

8月19日、横浜市内の倉庫で行われたメディア向けの内覧会。

現われたのは、都内のベンチャー企業「ツバメインダストリ」が開発した“搭乗型ロボット”の初号機「アーカックス(ARCHAX)」だ。社名の「ツバメ」にちなんで鳥の名前、アルファベットの「A」から始まるものをということで、古代の鳥“始祖鳥”(Archaeopteryx)が名前の由来である。

今回、私たちは内覧会の前に開発現場を取材することができた。

初めて見た時の率直な感想は「かっこいい…」のひとことに尽きる。

なかでも感動したのは機体の胸部にあるコックピットだ。

パイロットはここに乗り込み、気分はまるでロボットアニメの主人公のよう。
機体の外部には9つのカメラが取り付けられていて、コックピットではモニターに映し出された映像を見ながら操縦する。

上半身は2本のコントローラーで操作。腕や手を自由自在に動かすることができる。
下半身は四輪駆動で自動車のように走る。重心を低くした「ビークルモード」に変形すると、最大時速
10キロメートルで走行することが可能だ。

25歳社長が描いた“ロマン”

このロボットを開発したベンチャー企業の社長、吉田龍央さん。なんと25歳の若者だ。

鉄工所を営んでいた祖父の影響で幼い頃から機械に慣れ親しみ、ロボットに憧れていた吉田さん。
大学ではロボットハンドの技術を学び、福祉に役立つ“ものづくり”がしたいと、在学中に筋肉の電気信号を検知して動かす「筋電義手」の会社を立ち上げた。

夢は膨らんで、今度は巨大ロボットに挑戦。開発資金と従業員を集め、2021年に新たな会社を設立した。

吉田龍央社長
「機械が好き、ものづくりが好きということもあるが、多くの人が子どもの頃から夢みた“大きなロボットに乗ってみたい”“操縦してみたい”という夢をかなえたい。究極の体験ができる製品を作りたかった。
日本は『ロボット産業』『アニメ産業』『自動車産業』など技術大国。それらの要素を圧縮させた“ディス・イズ・ジャパン”が、このロボットだと思う。世界に日本の技術を発信していきたい」

若手社長を支える“レジェンド”

プロジェクトのはじまりは、吉田さんと同世代の仲間で考えた機体のデザインからだった。
技術的に実現するためには、多くのエンジニアの力を要したが、そこに1人の助っ人が現れた。
石井啓範さん、49歳だ。

石井さんは大手建設機械メーカーで、まるで腕のように動く「双腕重機」を開発。
退社したのちに横浜に展示されている「動くガンダム」のテクニカルディレクターを務めた経歴を持つ。
現在はこの会社のCTO(最高技術責任者)として、設計から工程の管理など全体を取り仕切っている。

吉田さんと石井さんの出会いは突然だった。
エンジニアをSNSで募集していたところ、石井さんからダイレクトメールが届いたのだ。
ロボット業界では有名人なだけに、吉田さんは目を疑った。
石井さんは、次の挑戦の舞台を探していて、搭乗型ロボットのプロジェクトに心が揺さぶられたという。

石井啓範さん
「自分はガンダム世代。いつか作ってみたいという思いで学生時代からロボットの研究を続けてきた。今回のロボットは自分の夢の形に一番近い。約30年間、エンジニアをやっていて、その結晶だと思っている」

倍近く年が離れた2人だが、吉田さんのチャレンジ精神と石井さんの経験値がちょうどいいバランスで働いているようだ。作業が連日連夜続いているにもかかわらず、2人が機体と向き合う姿は、プラモデルを作る子どもの姿を彷彿させる。

石井啓範さん
「吉田さんのような“やっちゃえ!”みたいな人が旗を立てて、“どう実現するか”をベテランのエンジニアが注力するという形でうまくいっている。自分には直接会社を立ち上げる気もなかったし、エンジニアだけでは突拍子もないアイデアはなかなか出てこなかった」

吉田龍央社長
「“メンバーに恵まれた”本当にそれに尽きると思う。学生時代に起業したので、どこかの会社に勤めた経験がない。その経験を、石井さんからノウハウを凝縮した状態で教えてもらっているので、人間としての成長をすごく感じている」

“日本の技術”を結集

今回の搭乗型ロボットには日本企業が世界に誇るさまざまな技術が集まっている。

例えば、動力源となっているバッテリーは、電気自動車にも使われる最先端の製品を搭載。ロボットのアームは吉田さんの義手の技術が応用されるとともに、国内メーカーのモーターなどが使われている。
骨組みは建設用の重機などを手がける鉄工所、外装はF1カーにも使われる繊維強化プラスチックの職人が協力し、中小企業の技も光る。

このロボットは、富裕層をターゲットにエンターテインメント向けとして販売する。公道を走らせることはできないが、私有地で乗ったり、飾ってもらったりするイメージだ。

そして、気になる価格は“4億円”。
まずは富裕層の市場を開拓して量産化を図り、会社の経営を安定させることでさらなる技術開発に挑む。将来的には建設現場や災害復旧、宇宙開発などで活用するロボットの開発を目指している。

そして、この秋に「ジャパンモビリティショー(旧東京モーターショー)」で一般公開される予定だ。

石井啓範さん
「技術的にはすごくおもしろいものができたと自信を持っている。乗って動かせるロボットを作りたいと思って、そのために必要な技術は何かを考えていろいろ仕事してきた。自分のやりたいことや思いを持ち続けることが大切だということを伝えたい」

吉田龍央社長
「搭乗型ロボットをつくるために駆け抜けてきたが、売るためにつくっているので、やっとスタート位置に立てた段階。今後は“日本の技術力”を世界に届けるとともに、自分たちのロボットを見た子どもたちがものづくりに少しでも興味を持ってくれたらいいなと思う」

取材した私自身もロボットアニメが大好きで、理系ではないけれど「いつかガンダムみたいなロボットが開発されたら伝える側にはなれるかな」という思いもあって、テレビの業界を志した。今回、そんな夢の一つがかなった取材だった。

吉田さんや石井さんたちが追い求めてきた夢が、次の世代の夢にもつながっていってほしい。
そして、日本のものづくりが活気づくきっかけになることを期待し、これからも取材を続けたい。

  • 新野高史

    首都圏局 ディレクター

    新野高史

    2011年入局。京都局、おはよう日本、経済番組などを経て、現在は「首都圏ネットワーク」を担当。

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