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東京都世田谷区“空き家”を未然に防げ!独居高齢者を直接訪問

不動産のリアル(19)
  • 2023年8月18日

全国で空き家が最も多い東京・世田谷区。
その背景には、1人暮らしの高齢者が多いことが指摘されています。区では今、こうした高齢の持ち主たちに積極的にアウトリーチすることで、空き家が増えるのを防ごうとしています。
その対策の最前線を密着取材しました。
(不動産のリアル取材班/記者 竹岡直幸)

空き家予防に動く自治体

私たちは以前、東京の中でも高級住宅街が多い世田谷区で空き家が約5万戸に上っている実態を取材しました。

こうした現状に、世田谷区も危機感を持って対策に乗り出していました。
2016年に空き家対策の専門チームを設置。
倒壊の恐れがある空き家の所有者に働きかけて解体を促したり、所有者を割り出して交渉したりしてきました。

ただ、担当する千葉妙子係長に聞くと、「こうした対策は一筋縄ではいきません」と口にしました。

その理由は、新たな空き家の存在です。

これまで区は、把握する1000件近くの戸建ての空き家のうち、8割近くを減らしたといいます。
ところが全体の数は、新たな空き家の増殖により減らすことができていないというのです。

大切なのは“空き家”になる前~手段はアウトリーチ

そこで今、千葉さんたちのチームが力を入れているのが、空き家となる前の予防的な活動だといいます。

千葉妙子係長
「減らしてもまたどこかで空き家が増えるのです。そのため、いつまでたっても空き家そのものを無くすことはできません。空き家になる前の“予防”が最も重要になると思います。特にいま、世田谷区は1人暮らしの高齢者が増えていて、それに伴って将来的に空き家になりそうな物件が多くあります。それを防ぎたい」

その活動の一つとして、対策チームは空き家になる可能性がある1人暮らしの高齢者の住宅に足を運び、家の将来について直接話し合いをしているといいます。
許可を得て、そうした訪問に同行取材させてもらいました。

ただ、なかなか会えない…

この日、最初に訪れたのは、建物が木で覆われた2階建ての家。
しかし、家主は不在。すると、千葉さんは訪問したことを紙に記し、ポストに投函しました。
実際に訪問活動をしても、こうした空振りはよくあるということです。

千葉さん
「訪問しても、ご不在だったり、出ていただけない場合もありますが、そういうときはお手紙を入れて、後日つながれるようにしています。そのくらいの労力が必要です」

会えたとしても・・・

続いて、訪ねたのは、築50年以上という一戸建ての家。今にも屋根瓦が落ちそうになっていました。
実際、不安を抱く近隣住民から区にも苦情が入っていました。

千葉さんが、壊れかけている玄関のドアをノックすると、中から高齢の女性が出てきました。
女性は90代。若いころに離婚して以来、ずっとこの家で1人暮らしをしているといいます。

女性のもとを訪ねるのは2回目。玄関先で2人のやりとりが始まりました。
千葉さんは「きょうはご自宅についてお話ができればと思ってきました」と切り出しました。
今の状態では、この家が空き家となるリスクが高くなると判断したからです。

丁寧な物腰で、親族と家の今後について話し合ったらどうかと持ちかけました。
女性は、じっと耳を傾けたあと、こう返答しました。

女性
「離れたところに親族がいるけど、保証人になってくれないからアパートも借りられない。もしほかに保証人を頼むにも10万円の年金から5万円だすのもきついのよ。そもそも高齢だから部屋を借りることもできないし、いまから部屋を片付けるのも気力がないの」

費用などの面から、この家から離れられないと伝えた女性。
しかし、千葉さんも簡単にはあきらめません。1時間ほど会話を続けると、女性は家を売却すれば数千万円にはなると打ち明けました。

女性
「最低価格、土地の価格やったら2200万円だったんですって」

これは費用だけの問題でなく、相続も絡むと考えた千葉さん。
そこで、「保証人を探す手伝いやきょうだいとの相談も手助けしますよ」と告げましたが、女性は首を縦には振りませんでした。

最後に、千葉さんは「これからも話を聞きにきてもいいですか?親戚に会えたか気になりますので」と話しかけたところ、女性は「本当に悪いんだけど、来てもらっても解決できないと思う。相談したいときには連絡します」と答えるにとどまりました。

空き家になる前に、独居する高齢者にアウトリーチする世田谷区の取り組み。
これまでに訪問した家は数え切れないといいますが、この女性のように、実際に接触して、説得できるのは年間に10件ほどだといいます。

取材したケースのように、住み慣れただけでなく、大事な資産でもあり、かつ相続の問題も絡む家の問題に行政が関わることの難しさがみてとれます。
これについて、千葉さんに聞くと、こう答えてくれました。

千葉さん
「信頼関係を築くのがそもそも難しいので、時間はどうしてもかかってしまう。お話はしてくれるんですけど、解決まで持っていくのは難しいですね。空き家になってから改善してもらうのはすごく労力がかかるんです。1軒あたり、数年単位でやることもあります。だからこそ、空き家になる前にアプローチすれば解決が早いと思って粘り強く活動しています」

個人情報の壁も

さらに、アウトリーチの難しさは別の要因もあります。

それが高齢者に関わる情報の入手です。本来なら、区の福祉部局には高齢者に関わる個人情報が蓄積されています。もし、そうした情報のやりとりができれば、効率的なアウトリーチができます。

しかし、個人情報保護の壁があり、こうした連携はなかなか進んでいないといいます。

頼りは“民間との連携”

そこで、対策チームが今、力を入れているのが高齢者支援に実績がある民間団体との連携です。

両者の打合せの場を取材させてもらいました。すると、NPO側が強調したのは高齢者が健康なうちに、家の相続をどうするか話し合うことの重要性と、本人の意思を示す遺言の大切さでした。

NPO担当者
「相続の時に“遺言”がないと、残された親族間で遺産分割協議を行わなければなりません。お子さんがいらっしゃらなかったり、ご両親がいない場合、きょうだいに相続権が移っていきます。しかし、本人が高齢ということもあり、相続権がさらに甥や姪に移ると、結局相続がまとまらず、その期間空き家となってしまうことが多いです」

千葉さん
「私たちが接触してきた空き家の中には、こんなにも家系図が広がってしまって、親族間でも連絡を取り合ったことがないことが多く、何年も話し合いが続いてしまっていることもあります。空き家になる前に、話し合いの場を設けていれば、みんな苦労しなくていいんですけどね」

NPO担当者
「家族で話し合いの場さえ設けられない人もいるので、そういった意味でも、生前で判断力がつくうちに遺言を作成しておくことが、スムーズな資産継承につながると思います。日本では遺言を作成するという意識が薄いので、地道にやっていかなければならないのが現状です」

みなさんの体験や意見をお寄せください

空き家の問題を取材すると、そこからみえてくるのは今の家族の形です。
都市部では核家族化が当たり前となり、親兄弟や親戚で集まる機会は年に数回といった方々も少なくないのではないでしょうか。そうした限られた場で、相続といったデリケートな問題を話し合う難しさは、私自身も感じています。
この夏の期間、こうした家の問題を話し合われた人はいますか?
また、かつてそうした経験をされた方でも結構です。ぜひ、みなさんの体験や意見をお待ちしてます。

ご意見はこちらにお願いします。

  • 竹岡直幸

    首都圏局 記者

    竹岡直幸

    2011年入局。昨年まで報道カメラマンとして取材に従事。現在は記者として”地上げ”や”不動産ビジネス”など不動産取材を担当。

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