WEBリポート
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. WEBリポート
  4. 発達障害の子ども 何が困難? どう理解?

発達障害の子ども 何が困難? どう理解?

  • 2023年8月9日

「先生の対応で、意欲を失わせるような状況はなくしてほしい」(川崎市 母親)
「担任に理解がなく自信をなくして不登校になってしまった」(さいたま市 母親)

視聴者からは、先生の対応によって、発達障害の子どもが意欲をなくすような状況があるという声が寄せられました。
一方、先生側にとっては、子どもが何に困難さを感じているのか分かりづらく対応が難しいケースがあるようです。
こうしたなか、子どもへの理解を深めて適切な支援につなげようという取り組みが進められています。
(首都圏局 都庁クラブ/記者 尾垣和幸)

楽しいと暴れてしまう男の子

東京・中野区の区立小学校の教諭、小池雄逸さんです。特別支援教育を担当していて、学びに難しさを感じている子どものサポートにあたっています。

小池さんがサポートに当たっている1人、小学5年生のりょう君(仮名)です。
注意欠陥多動性障害と診断されていて、特性からか、楽しいことがあると、興奮してつい暴れてしまいます。
小学校に入ったばかりのころは、暴れてしまう理由をなかなか理解してもらえず、先生から「わがまま」とか「言うことを聞かない」などと叱られていたと言います。

りょう君

毎日ママのところに『いつも落ち着いていないです』って電話がかかってきて悲しかった。

楽しみな宿泊学習 でも不安が…

そんなりょう君にとって、ことし7月の、同級生と一緒に行く「宿泊学習」は悩みの種でした。2泊3日で長野県へ行くもので、この中には、大好きな鉄道の施設の見学があって、楽しみにしていましたが、暴れて先生や友だちに怒られないか、不安を感じていました。

りょう君
「心配だったのは、ぴょんぴょん跳ねないかなあと。みんなの迷惑になって、思い出がすごくグシャグシャになってしまうから」

小池さんは、りょう君の気持ちを察し、宿泊学習の前に、あるシートを書いてもらうことにしました。

状況を想像してシートに

自分が興奮する場面をあらかじめ想像し、周囲の人にもその特性を知ってもらうためのシートです。
小池さんは、りょう君と話し合いながら、興奮してしまう状況を、具体的に想像してもらいます。

 

小池さん

興奮するのは、レアな…

りょう君

電車が来た時! 電車を見る場所を変えたり、工夫したい

りょう君は大好きな鉄道の施設の見学の場面を思い描きながら、絵とともに「より近くで(鉄道の施設を)見るとテンションがあがるぞ」などと書きました。
このシートは、宿泊学習に一緒に行くクラスの担任に事前に共有されました。
興奮してしまう状況を整理できていたりょう君は宿泊学習で暴れることはありませんでした。
また、あらかじめ特性を理解していた先生たちにも見守られ、ストレスを感じず大好きな線路跡を見学できました。
小池さんは、その子どもの特性を理解することが支援につながると言います。

特別支援教育を担当 小池雄逸さん
「一番配慮したいなと思うことは、子どもたちが、不安を小さくして、安心して、その活動に取り組めるようになるための場作り、活動作りだと考えます。子どもたちが何に困難さを感じているのか想像しながら、どんな支援や配慮があったらいいのかなということを考えていきたいです」

なぜ困難さは理解されづらいのか

ただ、りょう君のようにうまくいったケースは、まだまだ多くないというのが、これまでの取材の実感です。なぜ、発達障害の子どもが抱える困難さは、先生に理解してもらいにくいのでしょうか。

専門家は「先生に怒られる」と子どもが思いこんでしまい、困っていることを素直に伝えづらくなっていることも1つの理由ではないかと指摘します。

東京大学バリアフリー教育開発研究センター特任准教授 飯野由里子さん
「先生はよく『何か困ってることある?』と聴くことがありますが、しんどい思いをしている子ほど、自分がみんなと同じようにできないのは自分のせいなんだと思い込んでいます。そのため、できないと伝えると、先生からまた注意されてしまうと思い、つい『大丈夫です』と、答えてしまいます。先生は、『ああしろ、こうしろ』と言わずに、子どもが自分に合った過ごし方を、自分で見つけられるようにサポートしていってほしい」

また、りょう君のケースで言うと、「暴れてしまう」ことではなく、「暴れて怒られてしまう」ことが、彼にとって学びの場での困難さを生んでいることをしっかり認識するべきだと指摘していました。
子どもに問題があるのではなくて、多様な子どもがいることを念頭に、教育現場では対応のあり方を見つめ直す必要があると話していました。

取材を終えて

今回の取材で、小池先生は「それは頑張ったね」、「よかったなあ」、「それはつらかったね」など、たびたびりょう君に対して共感するような言葉を投げかけていました。

小池先生が子どもの目線に立って語りかけてくれることで、りょう君はより困難さを表現しやすかったのではないかと感じました。

一方で、小池先生は1人で17人の子どもを受け持ち、国の配置基準を超えた人数を担当しています。「正直言うと大変です」と打ち明けてくれました。
そうしたなかでも、子どもの困難さを見逃さないように、今回のようなシートを使うなど「一工夫」しているようです。

先生や支援員の不足が叫ばれるなか、対応が難しい現状もあるとは思いますが、ちょっとした工夫で、子ども一人ひとりの思いをくみ取った支援が広がってほしいと思います。

皆さんからのご意見を引き続き募集しています。ぜひこちらの投稿フォームよりお寄せください。

  • 尾垣和幸

    首都圏局 記者

    尾垣和幸

    都庁担当 東京オリンピック・パラリンピック競技会場のレガシー活用などを取材。神宮球場にはプロ野球観戦で足繁く通う。

ページトップに戻る