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定時制高校のいま 増える外国ルーツ生徒の受け皿に

  • 2023年8月3日

定時制高校にどのようなイメージを持っていますか?「働きながら授業を受ける生徒が多い学校」。こうしたイメージの人が多いのではないでしょうか。
しかし今、外国の出身で日本語を母国語としない子どもなど、外国にルーツがある生徒の受け皿の1つとなっているのです。ただ、授業はすべて日本語。苦労する生徒も多いといいます。一方の教員も、全員が日本語指導ができる訳ではありません。定時制高校は、いま、どうなっているのか、取材しました。
(首都圏局/記者 古本湖美)

外国ルーツの生徒のための進学説明会

多くの受験生が志望校を定めて猛勉強を始める夏休み。7月23日、ある「高校進学説明会」が東京・大田区で開かれました。集まっていたのは、日本語を母国語としない、いわゆる外国にルーツを持つ生徒たちです。

この高校進学説明会、日本に住む外国人を支援する民間団体や教員の有志などが共同で毎年開いています。
この日は、中国やネパールの出身者などおよそ30組が参加し、高校入試の種類や、入試の問題の漢字に読みがながふられる措置があることなどが8か国語の通訳付きで説明されていました。

主催者によると、日本に住む外国人が増えてきているのに伴って、年々参加者の数は増加傾向にあるといいます。


ネパール出身の18歳
「外国人が少ない高校に行って、日本語を学びたいです。そのために受験勉強を頑張りたい」

背景に外国ルーツの生徒の増加

外国出身だったり、日本で生まれても両親が外国出身だったりして、日本語が母国語ではない外国ルーツの生徒。進学説明会が行われる背景には、こうした生徒が年々増加していることにあります。
うまく日本語を話したり、書いたり、読んだりすることができず、学校の授業でも苦労している生徒が多いといいます。
こうした生徒が含まれる「日本語の指導が必要な生徒」は、定時制に限らず都立高校全体で、2012年は359人だったのに対し、去年(2022)の時点で792人と、10年間で2.2倍に増加しました。

都内の定時制高校に通うバングラデシュ出身のスラボンさん(19)。4年前(2019年)、スラボンさんが15歳の時に親の仕事のため来日しました。来日当初、日本語は全く話せなかったといいます。

バングラデシュ出身 スラボンさん
「(日本語は)全然分かりませんでした。日本はどんな国かな、日本語はどんな言葉かな、コミュニケーションどうやってするかな、それはちょっと不安でした」

その後、3年間夜間中学校に通って日本語を必死に勉強。
夜間中学校の先生のすすめなどもあって、東京・北区にある都立飛鳥高校の定時制課程に進学しました。

現場では試行錯誤

スラボンさんが通うのは都立飛鳥高校の定時制課程です。ここ数年で外国ルーツの生徒が増え続け、ことし入学した1年生32人では、およそ8割を占める25人が外国にルーツがある生徒です。ほとんどの生徒は、高校卒業後、日本の専門学校や大学に進学したり、日本での就職を希望したりしています。
ただ、入学時点での日本語力は生徒によって異なるため、すべて日本語で行われる授業が理解できず、途中でやめる生徒も相次いでいたといいます。

そのため、学校現場では試行錯誤しながら「日本語指導」を進めています。当初この学校では、外国ルーツの生徒が増え始めたおよそ10年前から、補習などの形で日本語を教え始めていましたが、卒業の単位にならない補習には参加する生徒は少なかったといいます。
そこで、3年前(2020年度)から日本語を授業として設け、専任の教員が教えるなど、集中的に日本語の指導に取り組み始めました。初級から上級まで、生徒のレベルに応じてクラスを設け、実用的な日本語の使い方を教えています。

都立飛鳥高校で日本語担当・紺野敦志主任教諭
「生徒によっては日本語を勉強するのがしんどいというか、勉強してみるものの、話せない読めない、漢字が難しいという生徒はたくさんいる。だけど、勉強すれば仕事の選択が広がる、勉強すれば自分の夢が近づくということをちゃんと伝えてあげたいと思っています」

ほかの授業での工夫とは

日本語以外の授業、例えば理科の授業ではこの日、地震に関する難しい日本語がたくさん出てきていました。それらを教員がすべて訳したり、やさしい日本語で教えるのかと思いきや、活用していたのはタブレット端末でした。
1人1台配布されているタブレット端末のソフトを使い、漢字で書かれた日本語の読み上げツールを使っていました。

たとえ難しい漢字に読みがなが振られていなくても、音声で聞くことができれば、なんと読むのかが分かるのです。

さらに、教科書を自分の母国語に翻訳するツールを使うことで、生徒それぞれがより意味を理解できるようにしています。

生徒によって使う言語がさまざまなため、自分で学習を進めていくためにこうしたツールも積極的に活用してもらうよう指導しているといいます。

都立飛鳥高校で理科担当・向川顕秀教諭
「日本語で書かれた教科書だと外国にルーツをもつ生徒が学習するにはさまざまなハードルがある。日本語を母語とする生徒を前提とした教材でも、うまく自分の勉強に取り入れられるような環境を提供できたらなと思っています」

こうしたさまざまな工夫で、この学校では昨年度、外国ルーツ生徒の中退者ゼロを実現しました。また、大学や専門学校への進学率も、昨年度は76.9%で、2年前の2020年度の21.5%から大幅に上昇しています。

現在2年生のスラボンさん。高校を卒業したら車の専門学校などを目指し、将来は日本の車を母国の人に販売するセールスマンになりたいという夢を抱いています。

バングラデシュ出身 スラボンさん
「将来は日本でずっと生活していきたいと思っています。そのために日本語を一生懸命勉強したい。そして、コミュニケーション通して、いい仕事みつけて、働きたい。それを頑張りたいなと思っています」

取材後記

都立飛鳥高校は、さまざまな工夫で中退者ゼロを実現しましたが、全国に目を向けると「日本語指導が必要な生徒」の高校中退率は、全高校生の5.5倍と高いのが現実です。国が外国から労働者を受け入れる政策を進める裏で、こうした外国ルーツの子どもの教育現場では、日本語指導を始め課題が山積していると取材を通して感じました。

今後も外国ルーツの子どもが増え続けることが見込まれる中、現場の工夫任せにせず、国などが率先して日本語指導の体制を充実させていくことが求められていると思います。

  • 古本湖美

    首都圏局 記者

    古本湖美

    2011年入局。教育をテーマに取材する中で日本に住む外国人の子どもの教育に関心を持つ。今回の取材で、日本語が母国語でも日本語を外国人に教える難しさを痛感。

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