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千葉 長生村議会の混乱から見えた議員と職員の"いびつな関係"

地方議会のリアル(3)
  • 2023年8月2日

私たちの身近にある地方議会の実態に迫る「地方議会のリアル」。
シリーズ3回目は、議員と自治体職員の関係についてです。

議長による傷害事件、そして、その進退をめぐり、話題となった千葉県長生村の議会。
取材を通して見えてきたのは、議員と自治体職員のいびつな関係でした。

(千葉放送局/記者 荻原芽生、首都圏局/記者 鵜澤正貴)

職員は言いなり? 千葉県長生村

長生村議会の議長が、ことし4月、職員の歓送迎会に出席して自宅に帰る途中、車を運転していた村役場の20代の女性職員を後部座席からたたいてけがを負わせた問題。
議長は、傷害の罪で略式起訴され、裁判所から罰金20万円の略式命令を受けました。

「『酒はやめろ』と言われたが、『議員はやめろ』とは言われなかった」

繰り返し辞職勧告を受けても、議長はこのように弁明しました。
批判を受けた末、ようやく辞職しましたが、覚えている方もいると思います。

実は、この問題を取材していて強い違和感がありました。

それは、送迎に使われた公用車の手配を指示していたのが、長生村の議会事務局の局長だったからです。局長は、長生村の職員です。

当日はみずからハンドルを握り、議長の自宅まで迎えに行くなど、いわば「足」になっていたのです。

この局長は、公用車を不適切に使ったとして懲戒処分を受けましたが、そこには議員と自治体職員のいびつな関係があるように思えました。

議員による職員へのハラスメントとは

こうした議員と職員の関係は例外的なものなのでしょうか。
取材すると、必ずしもそうとはいえない実態が見えてきました。

東京・世田谷区議会の桃野芳文議員です。
今回、かつての同僚議員による目に余る行動について、証言してくれました。

世田谷区議会 桃野芳文 議員
「職員に対してかなり高圧的な言動をする議員がいました。それを日常的に見聞きするような状況だったんです。『ふざけるな』とか、『出て行け』とか、大きな声でどなりつける。議員の控え室は横並びですから、隣の部屋から壁越しに怒声が聞こえてくるというのはよくあったんです」

こうしたパワハラ言動はなぜ引き起こされるのでしょう。

桃野議員に問うと、議員が議会で区の施策について質問をする過程にその萌芽があるといいます。
職員は、議会の前にあらかじめ質問する議員からその内容を聞き取ります。
議会では、間違いのない正確な行政側の答弁が求められるため、万全な準備をしたいからです。
ただ、桃野議員は、そこに落とし穴があるといいます。

「議会の前になると、課長クラスの管理職がたくさん来るわけですね。どういう質問を予定しているのか、どういう問題意識を持っているのかと聞き取りに来るわけですが、それに対して、廊下でずっと待たせる。何時何分から、これぐらいの時間話そうというふうに調整すればいいのですけど、ずらっと部屋の外に並ばせて、『あんなの待たせとけばいいんだ』と、部屋の中で弁当を食っているみたいなこともありました」

「職員は、質問内容を聞いて帰らないと自分の仕事が進まないので『待っていろ』と言われれば、ただひたすら待つしかない。私も議員になる前は会社員でしたが、議員になると浮世離れしているというか、ちょっと信じられない、異様な場面を見ることもありましたね」

さらに、こんな話も聞いたといいます。

「区の職員側が議員に説明に来たとき、何か意に沿わないことがあったんでしょうね。書類をぶちまけて、『拾って持って帰れ』みたいなことを言った議員がいたという話もありました。ひどいというか、やっちゃいけないことですよね。そう感じていた議員は多かったんじゃないですかね」

どうして両者の間にこんないびつな上下関係が生じるのでしょう。

これについては、議員側と職員側双方に、ある意識が存在するからではないかといいます。

「われわれ議員は選挙で選ばれて、区民の代表であるという立ち位置にいるわけです。一方で、職員の方には、区民に選挙で選ばれた議員だから尊重して接しなきゃいけないという気持ちがベースとしてあるんだと思います。
地方議員の場合、4年に1回の選挙を通ると、それは完全にかなり大きな部分を任される立場になるので、勘違いする議員もいます。『俺は選挙に通ったんだ』と、これで有権者に支持されたんだから何やってもいいんだというような考えを持ってしまう議員も残念ながらいるんじゃないかなと。日本全国、国会を含めて、どこでも起きることだと思います

見えてきた“いびつな”関係

それでは、職員の側は、この問題をどのように見ているのでしょうか。
首都圏のある自治体で管理職を務めている職員が匿名を条件に取材に応じてくれました。

首都圏のある自治体の管理職
「議員の方から、職員に対して、『私は議員ですよ』とか、『住民の代表として来ているんですよ』と言ってくるので、やっぱり、議員の方が立場が上だと見ている職員が大半だと思います」

さらには、本来は自治体側にある“人事権”にまで影響をもたらすケースもあるといいます。

「特に議会事務局の職員の異動については、まず議長へお伺いをたてます。議長が『その人でいいよ』と言わない限り、異動はないんです。結果的に、議会なり議長なりがその人事権を握っていることになり、そうすると、議会事務局の局長や職員は、議長の言いなりにならざるを得ない。議長は手足のように職員を使ってくる」

ただ、いびつな関係に陥るのは、議会事務局の職員だけではないとも証言しました。

「窓口に来て、あれやってくれないか、これやってくれないかという要望があり、すぐには対応ができないものもあるので、そう伝えると、『次の議会に向けての打ち合わせをしないぞ』など、業務に支障が出るようなことを言われることもありました。そういうことを言われると、泣き寝入りせざるを得ないのです」

断ち切ろうにも断ち切れない

ただ、話を聞いていて疑問も浮かびました。なぜこうした関係を断ち切ることができないのか、と。それを聞くと、職員側にも責任があると口にしました。

「だいたい2、3年で人事異動がありますから、長い勤務生活で見れば2、3年我慢すれば、なんとかなるという思いや、穏便に済ませたいという気持ちが働きますから、そうするともう従わざるを得ない。責任の一端というのは、そういうところに、私たち側の方にもあるんだと思います」

「もちろん変えたい気持ちはありますけど、1人じゃ何もできませんし、声を上げてもみんなが賛同してくれるか、わかりません。それにみんな家族も持っていて、自分の身も大事ですし」

※注)法律上は、条例の定めるところにより、市町村の議会に事務局を置くことができ、事務局の職員は議長が任免するとされています。ただ、自治体全体の人事異動の中で、議会事務局の人事も検討されている場合が多いとみられます。

望ましい議員と職員の関係は

世田谷区の桃野議員。実はおととし、世田谷区議会でできたハラスメント防止条例の成立に関わった1人です。条例では、議員が職員の人格を尊重することなどを定めています。

桃野議員は、本来はこうした条例が必要ないのがあるべき姿だとした上で、望ましい議員と職員の関係をこう語りました。

世田谷区議会 桃野芳文 議員
「閉ざされた中での慣習みたいなものはやっぱりよくないですよね。社会一般のルールや世間感覚からは絶対に離れないように、議員も職員も、しっかり意識することが大事だと思います。時には厳しい議論も必要ですが、そのことと、人をおとしめる言葉を使うというのは全く別次元の話です」

皆さんの体験、意見お待ちしています

今回、話を聞いた職員は、「全国の地方自治体で苦しんでいる職員の皆さんの一助となれれば」と取材に応じてくれました。

皆さんはお住まいの地域の議会で同様の出来事を見聞きしたことはないですか?
ぜひこちらまで体験や意見をお寄せください。私たちはその意見をもとに取材したいと思います。

  • 荻原芽生

    千葉放送局 記者

    荻原芽生

    2019年入局。徳島局を経て千葉局。事件・司法のほか外房エリアを担当。

  • 鵜澤正貴

    首都圏局 記者

    鵜澤正貴

    2008年入局。秋田局、広島局、横浜局、報道局選挙プロジェクトを経て首都圏局。

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