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副業する人が増加 正社員・公務員で副業する人も 課題は二極化

  • 2023年7月21日

「副業」する人は、およそ5年で約64万人増えたことが明らかになりました。背景には、この5年の間、国が副業を推進してきたことがあり、そこには人材交流を活発化させ、人手不足を補うなどの狙いがあります。

副業する人たちを取材すると、働くほど幸福度が増す人たちがいる一方、働いても働いても豊かになれない人たちがいることも見えてきました。副業にやりがいを感じる会社員や公務員のほか、副業のしすぎで体を壊した人などの実態を取材。

働いた人がその分の豊かさを得られる社会をどう築いていけばいいのか考えます。(全2回 前編)
(首都圏局/ディレクター 鷲野千遥・千葉柚子)

昼は会社員、夜は飲食店経営 副業の効果は…

大手不動産会社で都市開発を担当する、河賢男さん(33歳)です。商業施設などの開発を担当してきました。

会社に入って10年。チームで大きな仕事を成し遂げるだいご味を感じてきた一方、個人としても力を試したいと副業を持つことにしました。

三菱地所 都市開発部 河賢男さん
「本業で手がけている仕事は、ある程度規模が大きいですし、関わっている人たちも多いので、自分のもう少し身近なところで仕事ができたらもっといいのに、と思っていました。副業にチャレンジしてみる価値があるんじゃないかなと思いました」

夜7時過ぎ。本業を終えた河さんが向かったのは、副業先のカフェバル。去年、オーナーとして自ら店を始めたのです。

本業で多くのテナントと接する中、接客や、店舗経営を学びたいと考えていました。開業資金が限られていたため、テーブルやイスなどは全て手作り。内装にかかる費用を 極力抑えました。

副業を始めて1年。以前は知り得なかった飲食店側の気持ちを実感することができました。

「お店をオープンする際に、内装を作らないといけないんですけれど、やっぱりお金がかかる部分ではありますよね。ああ、これぐらいが相場なんだとか、これぐらいかかるよねということがわかってくるので、自分で店の経営をやってみることは大事だなと思っています」

こうした副業での経験は本業にも役立っているといいます。今月、河さんが担当する商業施設が新たにオープン。テナントを募集する際、内装費などは全て河さんの会社で負担することにしました。

すると、出店を希望する店が殺到。人気店や有名店も入り、施設の注目度をあげることができたと言います。出店を決めた寿司店のオーナーは「内装工事の負担をしてもらったので、出店の際にとても節約になった」と話していました。

「副業を始めてから、お店をオープンする苦労や、お店さんの気持ちが分かるようになりました。副業で自分が成長した分は本業の会社に還元できるかなと思うので、本業と副業のいい循環が生まれていくといいなと思います」

河さんが勤める大手不動産会社では、社員の働きがい向上や、ビジネスモデルの革新につなげたいと、2020年に副業を解禁。副業を申請する人は増え続け、社員全体の7%以上に上っています。

三菱地所 人事部 中尾勇祐さん
「本業では経験できないことを副業で経験することで、本業でいろいろな業務にトライするなど、前向きな気持ちを醸成するといった意味においては、非常に役立っていると思います」

成長したいと4つの副業掛け持ちする人も

本業に加え、4つの副業を掛け持ちすることで自らの成長を図ろうという人もいます。高千穂香織さん(28歳)です。

本業は、企業の経営の相談に乗る中小企業診断士。飲食店など中小企業の力になりたいと、補助金の申請を手伝うなど支援してきました。やりがいを感じていますが、他の仕事にも挑戦したいと副業を持つことにしたのです。

中小企業診断士 高千穂香織さん
「20代のうちはいろんな球を受けて、自分に合っていることや、向いてないことをいろいろ経験する中で、私も何かの分野でスペシャリストになりたいと考えています」

1つ目の副業は専門学校の講師。中小企業診断士の資格を生かし、毎週3時間、講義を行っています。「人にものごとを伝える力」を身につけたいと考えていました。

2つ目の副業はオンラインイベントの司会。月に3回程度、参加者の意見を聞きながら議論をまとめていく力を養いたいと考えています。

さらに、ウェブライターとして、副業の経験を記事にするなどして発信。他に企業セミナーの講師もしています。本業と4つの副業をかけ持ちする忙しい日々ですが、自らの成長を実感できているといいます。

「こんな仕事もあるんだ、という経験させてもらっています。自分の幅を広げるために、副業は役に立っています。副業をはじめてから生き生きしています」

公務員の副業 地域の課題解決にも

公務員で副業をしている人もいます。神奈川県の横須賀市役所職員として働く髙橋正和さん(40歳)です。この14年、総務や市長の秘書、予算に関わる仕事などを担当してきました。

さまざまな市民の悩みに触れてきましたが、個別には応じられない市役所ならではのもどかしさを感じてきたといいます。

横須賀市役所職員 髙橋正和さん
「公務員、自治体という立場だと、やっぱり難しいところがありました。公平性や公正性が保たれないと、企業に仕事をおろすことができないですし」

髙橋さんが副業として始めたのは市民と企業をつなぐ、コンサルティング業などを行う会社です。市民からさまざまな悩みを聞き取り、社会貢献に取り組む企業と交渉。支援につなげようという取り組みです。公務員の副業は任命権者の許可が必要で、市長に許可をもらうことで、法人設立を実現させました。

朝7時から午後4時ころまで市役所で働く髙橋さん。その後が、副業の時間です。悩みや課題がないか。市民のもとを回ります。この日訪ねたのは養殖業を営む人たちです。

育てているのは海藻の一種、海ブドウ。室内での養殖にかかる光熱費などに悩みを抱えていました。どんな企業が力になってくれるか、共に解決策を探ります。

養殖業を
営む人

こういう養殖ってやっぱりお金もかかるし。それを少しでも改善できれば。

 

実際に市民と企業とをつなげたケースもあります。食堂を営む金澤等さん。妻と2人の子どもと暮らしています。地域で少子化が進む中、地元のよさを子どもたちに伝えたいと考えていました。

金澤さん(左)と髙橋さん(右)

髙橋さんと相談する中で持ち上がったのが、漁業体験など海を楽しんでもらうイベントのアイデアです。髙橋さんは、資金を提供してくれる企業を探し金澤さんに紹介。イベント実現にこぎ着けたのです。

食堂経営 金澤等さん
「僕たち個人では実現できないようなことが、できるようになりました。髙橋さんはすごく頼りになる存在だなと感じます」

髙橋正和さん
「やるべきことがあって、それで私が本業の立場だとできなくて、じゃあどういうふうにしたほうがいいのかなと思った1つの手段が副業です。志を達成するための1つの手段になっています。市民や企業にどんどん外に足を運んで、互いのニーズのギャップも埋められているなと感じています」

副業する際は、どのような点に注意したらいいのでしょうか。副業事故の分野を専門とし、AIの活用を通じた副業に関するリスク情報の収集や、副業に関するトラブルを防ぐためのサービスを展開する会社に聞きました。

フクスケ 小林大介社長
「副業のトラブルとして多いのは、副業をやり過ぎていて本業に支障をきたしてしまったという働きすぎ。そして情報漏洩です。本業先の守秘情報を副業先でも使ってしまったり、副業先の守秘情報を本業先に持ち込んでしまったりした事例がありました。

また、副業でやっている内容がそもそもコンプライアンス違反を犯すような内容だったというケースもあります。本業や副業先に迷惑かけずに、やりたい事業とか、成し遂げたいものをやることが重要だと思います。

さらに、副業をする人、本業先の企業、副業先の企業、それぞれが法令を順守した上で、トラブルが起きないよう配慮していくことが不可欠です」

副業する人の二極化も…

副業することで、やりがいや自己実現につながる人がいる一方、生活するために副業をせざるを得ない、いわば「副業プア」と言える人たちも数多くいます。こちらは副業している人の割合を、本業の年収別にグラフにしたものです。

年収400万円未満と、年収800万円以上の割合が高くなっており、二極化しています。専門家によると、年収200万円未満の層が、副業をしている人のおよそ半数を占めているといいます。

副業で働くことの難しさに直面する労働者や、労働管理などの課題を抱える企業の実情とは…。
(後編の記事を読む)

  • 鷲野千遥

    首都圏局 ディレクター

    鷲野千遥

    2022年入局。子ども・若者、外国人、ジェンダーなどのテーマに関心があります。

  • 千葉柚子

    首都圏局 ディレクター

    千葉柚子

    2017年入局。鹿児島局を経て2021年から首都圏局。文化や教育、防災などのテーマに関心を持ち取材。

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