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水難事故から命を守るカギは? 東京・あきる野市の小学校で“特別授業”

  • 2023年7月14日

「水の事故は、海と川とプールどこで一番起きていると思いますか?」
「川かなぁ」「海じゃないかなぁ」

都内西部の小学校の教室。私たち「潜水取材班」は、毎年各地で繰り返される水難事故を少しでも減らしたいという思いで、子どもたちのもとを訪れ“特別授業”を行いました。
伝えるのは、これまで私たちが専門家とともに調査を重ねてきた水辺のさまざまな危険。
一見わからない“落とし穴”を可視化した水中映像も交え、大切な命を守るためのカギを子どもたちと一緒に探りました。
(【潜水取材班】竹岡直幸、浅石啓介、高橋大輔)

夏には川遊び「秋川」の隣にある小学校で“特別授業”

秋川の隣にある あきる野市立一の谷小学校

私たちが訪ねたのは、東京・あきる野市にある一の谷小学校。学校の目の前には、多摩川の支流のひとつ「秋川」が流れています。
秋川は、都心から1時間あまりで、身近なアウトドアエリアとして人気があり、毎年夏になると、川遊びやバーベキューなどを楽しむ人たちであふれます。

子どもたちにとっても、秋川は、授業の体験学習や休日の遊び場として身近な存在です。
“特別授業”では、私たちがこの秋川で撮影した水中映像などを見せながら、水辺にはどんな危険があるのか、子どもたちと一緒に考えました。

水辺の事故は「川」で一番起きている

まずはじめに子どもたちに問いかけたのは、水難事故が起きている場所についてです。

潜水取材班

子どもの事故が最も多く起きているのは海・川・プールどこだと思いますか?

児童

川!

児童

川は急に流れが強くなったりすると危ないから!

ほとんどの子どもたちが、「川での事故が多い」と答えました。

これは警察庁が過去12年間の水難事故のデータをまとめたグラフです。川の事故では310人が亡くなっていて、2番目に多い海よりも2倍以上多いことがわかっています。

どうして川の事故が多いかというと、これは行動範囲が影響しています。川はわりと自転車とか歩いてすぐに行ける距離にあることが多くて、子どもたちの足でも簡単に行けてしまいますよね。

川の“急な深み”に落ちた経験がある子どもも…

この小学校では、川との正しいつきあい方についての授業を行ったり、川に行くときは、必ず保護者などの大人と一緒に遊んだりすることをルールとしていますが、それでもヒヤっとした経験があると話す子どももいました。

児童

家族で川遊びをしたときに、急な深みがあって溺れかけたけど、お父さんと一緒に遊んでいたので、助けてもらった。怖かった。

この、“急な深み”で溺れかけたと話してくれた児童。「ここは大丈夫だろう」と川の中に入っていくと、思わぬ深みが現れて、一気に沈んでしまったといいます。

いったいそれはどのような状況だったのか、去年私たちが撮影した秋川の水中映像を子どもたちに見てもらいました。

潜水取材班が撮影「見えない“急な深み”」

急な深みに吸い込まれるようにして、水の中に落ちていった様子を目の当たりにした子どもたちは、驚いた表情を見せ、ことばを失っていました。

さらに、子どもたちには、川底の様子を撮影した動画も…。

潜水取材班が撮影「のぼることのできない川底」

深みにはまってしまい、川岸に引き返そうと必死に足を動かしますが、砂利の斜面に足を取られ、のぼることができません。

焦って戻ろうとしても、川底の砂利が崩れてしまうことがあります。まるで“アリジゴク”みたいだよね。

“急な深み”は川のどこにある?

 

潜水取材班

次はこちらの写真を見てほしいんですけど、どこに急な深みがあると思いますか?

児童

水が流れているところかなあ?

児童

川が曲がっているところが深くなってるんじゃないかな?

 

 

水の流れは川を削ったりするから、みんなが答えた黄色い丸の部分も、もしかしたら深い場所や浅い場所があるかもしれないですよね。でも、実は水の流れが目に見えるところではなくて、まるで水たまりのように穏やかな、この赤い丸に囲まれたところに急な深みがあることが多いんです。

児童

え~。そうなんだぁ

子どもたちからは意外そうな声がもれていました。

意外だよね。僕たちからみんなに、一番気を付けてほしいことは、思い込みをしないことです。『ここは浅いだろう』と思って川に入ってしまうことが大きな事故につながってしまう可能性があるので、川などの水辺で遊ぶときは、その前に必ず一度立ち止まってどこに危険があるのかなって考えてください。

“急な深み”がある場所

子どもたちが思っていた深みの場所は、実は私たちもこの取材を始めるまで知りませんでした。
「水の流れがないから、ここなら安心だろう」という思い込みをしていました。川とうまくつきあっていくためには、危険がどこにあるのかをまず知り、さらに一歩立ち止まって考えることが何より大切だと感じています。

もし“急な深み”に落ちてしまったら…「ういてまて」

しかし、いくら気を付けていても、事故は起きてしまうものです。

もしも、川の急な深みに落ちてしまったらみんなならどうするかな?

児童

助けを呼ぶ!

児童

泳いで岸まで行く!

実は『助けて!』と声を出して、さらに手を振って自分の位置を誰かに伝えようとすると、次の動画のように一気に沈んでしまうんです。

水中では「助けて」と声を上げてしまうと肺から空気が抜けてしまい、手を挙げることによって、手の重みで、沈んでしまうのです。
万が一、溺れてしまった場合は、まずは落ち着いて、水面であおむけになるような体勢になって、呼吸を整えることが大切です。運良く、浮力のあるペットボトルなどを持っていればいいのですが、ほとんどの場合、水に浮くようなものを持っていることはないので、まずは慌てず、呼吸の確保に努めることを最優先にしてください。

これまで私たち潜水班と一緒に、水辺の危険を検証してきた水難学会では、万が一の時は「ういて まて」というフレーズを思い出すように、呼びかけています。

実際に溺れたらどうする?

子どもたちと水辺の危険について学んだ3週間後。今度は水難学会の専門家たちと一緒に、再びあきる野市の一の谷小学校を訪ねました。この日は、実際に溺れた時を想定して、プールで命を守るための術を実践形式で学びました。

水難学会
斎藤秀俊理事

みなさん、こんにちは。水難学会の斎藤です。ことしの夏、みんなも川や海に行くと思うけど、水辺で楽しく安全に遊べるように、“ういて まて”をプールで覚えましょう。

プールに集まった子どもたちは、水辺に遊びに来た時を想定して、服やサンダルを身につけた状態で、特別授業に臨みました。

まず専門家が教えたのは、溺れても焦ってすぐに助けを呼ばないこと。子どもたちは教室の授業で習っていましたが、専門家が実際に手を挙げて助けを呼んで沈んでしまった姿を目の当たりにすると、びっくりした表情を見せながら、真剣なまなざしで話を聞いていました。

専門家からは3つのポイントを伝えられました。

▼靴や服は浮力になるので脱がない
▼深い呼吸で肺に空気をためて浮く
▼腕と足を少し広げて水面に浮く

ポイントを聞いた子どもたちは早速実践です。

はじめに、浮く感覚をつかんでもらうために、何も入っていないペットボトルをへその辺りに持って、水面に浮いてみました。

児童

浮いた!浮いた!

ペットボトルは空気が入っているからちゃんと浮きます。みんな、サンダルも履いてるからちゃんと足も浮いてるね。靴を履いてないと足の重さで沈んじゃうので脱がないようにしてください!

ペットボトルを持つことで、ほとんどの子どもたちが、水面で浮くことができました。

しかし、実際に川で溺れてしまうときは、何も持っていない状況がほとんどです。次は手に何も持たずに浮くことにチャレンジです。

ペットボトルを持たずにみんなはどれだけ浮くことができるかな?
それでは、よーいスタート!

「うわーできない」 「さっきよりも難しくて、沈んじゃう」
ペットボトルを持たなくなったとたん、お尻から沈んでしまう子やバランスを崩して体が反転してしまう子がほとんどでした。

両手、両足を少し開くと波が来ても安定して浮くことができますよ。呼吸も気を付けてね。息をたくさん吸って~、止めます。苦しくなったら息を吐いて、すぐにまた吸います。

専門家からのアドバイスをひとつひとつ丁寧におこなっていくと、子どもたちはみるみる浮くことができるようになりました。中には2分間、沈むことなく、きれいな姿勢で“ういて まて”を身につけた子もいました。

児童

最初はうまく浮けなかったけど、落ち着いて正しい姿勢を保ったらできるようになった。

児童

ちゃんと呼吸をしないと沈んじゃうということがわかりました。これから川遊びに行く機会があって、万が一溺れてしまった時は、きょうのことを思い出してちゃんと“ういて まて”ができるようにしたいと思いました。

ライフジャケットを正しくつけないと…

子どもたちが授業の最後に学んだのが、ライフジャケットの正しい付け方。水難学会は川や海などの水辺で遊ぶときは身につけることを推奨しています。
しかし、ライフジャケットは正しく着用しないと…

ライフジャケットは、ファスナーをあげていなかったり、体に固定するひもをしっかり締めていなかったりすると、動画のようにすっぽりと脱げてしまう恐れがあるのです。

ライフジャケットの付け方の良い例

ライフジャケットのひもを強く締めたあとは、正しく着用できているか、確かめるために、上から引っ張ってもらってください。こちらが良い例です。体に密着しているのがわかります。
しかし、ひもがしっかり締められていないと…

ライフジャケットの付け方の悪い例

このように襟の部分があごにあたってしまいます。
これではせっかくライフジャケットを身につけても、意味がありません。

子どもたちにも正しいライフジャケットの身に付け方を学んでもらいました。
しっかり固定するには大人の手を借りることも大切です。

水辺で遊ぶときはライフジャケットを身につけて、自分の命を守るための準備が必要です。

児童

頭が浮くから、怖くて浮くことができない人でも、これなら絶対沈まないし、怖くない。

水難学会 斎藤秀俊理事
「この授業で1番伝えたかったことは、命を守る方法。自分で自分の命を守れるんだという方法を伝えたかった。今回の授業をきっかけに、ことしの夏休み、もっと浮いてみたいという子どもたちは、これからもっと練習すると思います。溺れるのが怖いという子は、ひざ下の水深のところで遊ぼうかなと思うきっかけがこの授業から学べたかなと思います」

  • 竹岡直幸

    【潜水取材班】

    竹岡直幸

    水俣の海や水質問題で揺れるお台場の海など、環境をテーマとした潜水取材をしてきました。私自身は、水泳歴20年で泳ぎには自信がありますが、水難事故をなくすための取材を通し、決して泳ぎに慢心してはいけないことを学びました。これからも取材を続けていきます。

  • 浅石啓介

    【潜水取材班】

    浅石啓介

    これまで、北海道の「流氷の海」や三重・福井の「海女文化」など、日本各地を潜水取材してきました。 私も子どもを連れて川や海に出かけることが多いので、水辺の事故は他人事ではありません。 現在、水難事故をなくすためのプロジェクトを立ち上げ、取材を進めています。

  • 高橋大輔

    【潜水取材班】

    高橋大輔

    これまで、被災地の海などを取材してきました。 潜水取材時には、しっかりと安全対策を行います。 こうした安全への意識を届けることで、悲しい事故を1つでも減らしたいです。 子どもたちが水に慣れるよう、ことしは海や川で一緒に遊びたいと思います。

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