WEBリポート
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. WEBリポート
  4. 課題山積の保育現場~現役保育士てぃ先生「現場の声を聞いて」

課題山積の保育現場~現役保育士てぃ先生「現場の声を聞いて」

  • 2023年6月19日

今、保育所では人手不足、不適切保育など多くの課題が山積みです。
こうしたなか、今、政府が来年度以降の本格導入を目指す「こども誰でも通園制度」をめぐり、賛否の声があがっています。
現役保育士として、SNSなどを通じて保育現場のいまを発信しているてぃ先生に、現場で今起きていること、そして保育士が何を求めているのか聞きました。

新たな「こども誰でも通園制度」をどう見る?

Q.まず、ずばり聞きます。政府が導入を目指す「こども誰でも通園制度」(注1)を、保育士としてどう思いますか?
(※注1 親が就労していなくても子どもを保育所などに預けられる制度。政府は来年度以降、本格導入することを目指すとしている。)

働く保護者のみを対象にするのではなく、さまざまな環境の家庭の子どもを預かれるようにするという制度自体はよいものだと思っています。一方、子どもを受け入れる側の保育所の体制が整っているのかというと全く整ってないといっても過言ではありません。
まず、保育士の人手が不足しています。保育現場のなかでは、現状でも業務の負担が大きい中で、さらに負担が増えるのではないかという懸念や不安があります。子どもを預けられる体制が整っていないにもかかわらず、制度の導入に向けて急ぎ足になっているのはよくないと思います。

Q.保育士たちはどういう思いを抱いているのでしょうか。

保育士側から見ると「保育士って後回しにされているんだな」っていう印象を覚えてしまいます。この制度は、保育所や保育士側をみた政策ではなくて、あくまで保護者のかたがたを優先した政策です。保育士側から見ると、職員の配置基準の問題なども、うやむやになっているという印象がある中で、自分たちは一体何なんだろうという気持ちを抱く人も少なくないと思います。

保育現場の根本課題は“業務負担増” “人手不足”

保育士歴15年目のてぃ先生。
すでにベテランの域ともいえますが、今の保育現場が抱える問題は何かと聞くと、業務負担の増加と、人手不足を理由にあげました。

僕の中では保育現場の問題は、基本的には人手不足が全ての始まりだと思っています。人が少ないわりに業務の負担があまりにも大きいですし、業務量が多いわりに賃金がよくないという不満も出て、こうした状況が保育士の余裕を奪いさまざまな問題を引きおこします。保育現場の問題点はすべてが連鎖していると思います。

Q.政府の「こども未来戦略方針」では、保育士の配置基準の改善や、さらなる処遇の改善を検討することも示されました。これについてはどう思いますか。

配置基準の改善は大切です。ただし、今、示されたものは“人を少し増やす”くらいのもので、劇的に保育の環境が変わるような改善ではありません。保育士の負担が何か変わるかといえば、正直そこまで変わらないのではないかと思います。また、配置基準が変わっても、そこで働く保育士は一切いませんということになると、何の解決にもなりません。やはり人手不足をなんとかしないといけないのだと思います。

“一斉退職”はなぜ起きると考える?

そう危機感を口にしたてぃ先生。
実は、今、全国各地で保育士が一斉に退職する事態が起きています。これについても自身の考えを聞いてみました。

どこでもあり得ると思います。保育士さんたちもすぐに“一斉退職”という判断を当然とってるわけではないんです。保育所側といろんな交渉とか話し合いをしてきているはずなんです。「こういうところがちょっと苦しいです」とか「こういうところの業務を見直したいです」、人が足りない部分に対して「人がほしいです」とかですね。保育所側との話し合いがあったけれど譲らなかった、あるいはどうにもならなかった。そうなると子どもたちの安全を守る立場にある保育士たちが、いまの園で保育を続けることに対して、“責任をとれない”というふうに考えたのではないかなと思います。そういう話を当事者からはよく聞きます。

Q.“一斉退職”を決断する保育士に対して、厳しい意見がよせられることもあります。

「一斉退職」というワードだけ見てしまうと、保育士が一気に辞めて、迷惑をかけているというふうに思う人もいらっしゃるかもしれません。ただ、「自分たちが嫌だから辞めます」ということで退職しているのではなく、“一斉退職”する保育士たちは責任感が強いんです。責任感が強いからこそ、何回も交渉を重ねた上で、それでも保育所側が変わらないので、このままでは子どもや保護者にとって不利益になってしまう。だからやめたほうがいいっていう判断をとっているのだと思います。保育士にそういう判断を取らせてしまっている保育所側だけがよくないとは思いませんが、こういう保育現場の状況というのがそもそもよくないのではないかなと思います。

課題解決は?「お金をかけなくてもできることがある」

Q.この状況を打開するためにはどういう対策が必要ですか?

賃金や人手の話になるとお金がかかりますよね。ただ予算を少なくおさえる、もしくはゼロにおさえてでもできることはあると思っています。それは「保育士の業務の負担を減らすこと」だと思います。例えば、保育士が記す保育の計画があります。
長期と短期の計画などを記すもので、保育士たちは、子どもたちと1日を過ごす中で、昼寝中や子どもたちが帰ったあとのほか、時間が足りなければ、残業をして書いています。このほか行事や訓練など数え切れない書類の作成業務が保育士の負担になっているんです。

Q.それをどのように減らしたらいいのでしょうか。

保育士たちが一生懸命書いていた保育の計画の中で、内容の量や内容そのものについて見直したり、無くしたりする。そもそも保育士ではなく、事務作業を担う部署や外部を含め、どこかが書類の作成業務を引き取るような制度にすればよいと思います。
僕はこうした取り組みは実現できると思っています。あくまでも僕の実感ですが、子どもたちと遊んだり、触れ合ったりするのは全体の業務の1割で、残りの8割から9割は、書類を作成したり、様々な行事にともなう飾りを作ったりしていて、負担が大きいです。
 

Q.書類業務の負担を減らしたいと思う保育士は多いのですか。

保育士のあるあるなのですが、「どうやったら保育士を辞めなくて済むか」という話をすると、書類業務が少ないなら続けたい、あるいは、基本的に書類業務が少ないパート勤務であれば続けたいという保育士が多くいるんですね。保育士を続けるという前提であれば、給料が下がってもいいので書類業務をなくしたいという人が多いんです。仮に保育士の給料が数万円上がったとしても、結局業務の負担をきちんと減らしていかないと、保育現場が直面している状況は変わらないと思います。

現場の声を聞いてください

インタビューの最後に保育現場の課題の解決に向けて、必要な視点は何か?
現場の保育士の1人として、改めて聞いてみました。

本当に現場のリアルな人たちの話を聞いてほしいと思います。
今まさに働いてる保育士たちに話を聞けば、「ここが実は一番きついんです」とか「この業務はこうやってやれば減らすことができるんじゃないか」とかいろんなアイデアが出てくると思います。政府が進めているような、保育の質を向上させるという議論だと、どうしても、「今やってるものをどうやって維持向上させるか」という議論になると思います。それだと結局は保育士が抱えている多くの業務が減らせないし、捨てることもできない現状が続いてしまいます。当然、保育士の離職も止まらない。
保育士の余裕を奪っていることが、どれだけ子どもに対する保育の質を下げてしまっているかということ本当に考えてほしいです。現場の保育士は、働き続けたいっていう気持ちはある、だからこそ苦しんでいます。子どもたちが好きだし、保護者のためにも役に立ちたいという思いがあるから保育士を続けているわけです。今の現状をどうにかするためには、まずは保育士の生の声をきちんと聞いてもらって、それを政策や保育所の改善に生かしてほしいです。

“保育現場の実情”~あなたの声を聞かせてください~
投稿はこちらまでお寄せください。

ページトップに戻る