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「発達障害の子の学び」孤立する親 つながりで作る情報サイト

  • 2023年5月19日

「発達障害の子どもを持つ親は孤立しやすい」(埼玉県 母親)
「保護者にとって、同じ発達障害の子を持つ仲間がいることが大切だ」(匿名)

シリーズでお伝えしている「発達障害の子の学び」の記事に対して、寄せられた投稿です。発達障害のある子どもが急増するなか、自治体は相談できる場の整備を進めていますが、取材をすると、相談しても必要な情報が得られないという声が聞かれます。

投稿を寄せてくれた親の1人に、実際に孤立を感じた経験や、当事者の親どうしで交流し、支援につながる情報サイトを作ったその取り組みを取材しました。
(首都圏局/都庁クラブ記者 尾垣和幸)

医療機関や勉強法わからず 「詰んだな」

私が訪ねたのは都内に住む竹内さん(仮名)です。
小学6年生の娘が、発達障害の1つ、学習障害だと診断されています。娘に発達障害があるのではないかと気付いたのは3年前だったと言います。

字を書くのが苦手だった娘が、落ち込みながら帰ってくることが続いていました。
「私、クラスで一番ばかだから」などと言うようになったと言います。

さらに鉛筆を強くかんだり、足の指の皮をむいてしまったりする状況を見て、娘に起きている異変を確信したといいます。

竹内さんは、まず発達障害の検査ができる医療機関を探しました。自治体の担当者に教わった病院で知能の検査はできましたが、学習障害などの発達障害かどうかわかる検査ではないと説明されました。

その後、娘の小学校で偶然話した養護教諭の1人から検査を受けられる医療機関を聞くことができ、診断が出ましたが、探し始めてから10か月がたっていたといいます。

そして次は、学習障害の診療ができる医療機関探しです。

しかし、自治体の担当者から提示された医療機関には「コロナ中のためやっていません」や「学習障害の診療は今はやっていません」などと言われ、受診できませんでした。

竹内さんは娘にとって適切な勉強方法も分からないまま、時間が過ぎ、孤立感や孤独感を感じたと言います。

竹内さん
「3年生の終わりころ、都のアドバイザーがいることを知って相談したら、4、5個のリストをくれたんですけども、1つ1つ電話していったんですが、結局もらったリストの全部に電話したんですけど『なし』っていう感じ。もう『詰んだな』と思いました。どうしたらいいか全くわからないけど、子どもはどんどん成長しちゃってて、そのときは一番、真っ暗闇の中でした」

思い切ってSNSでダイレクトメッセージ

竹内さんが、最後に頼ったのがSNSでした。
同じような体験談を発信する相手に、思い切ってダイレクトメールを送ってみることに。
SNSはほとんど使ったことがなく、知らない相手に連絡することに、恐怖心もありましたが、娘のためにと決意しました。

意外にも、そこで知り合った同じ立場の親が丁寧に接してくれ、学習障害を診療してくれる医療機関を教えてもらうことができたといいます。

また、学習障害のある子どもにとって、タブレットを利用して、黒板の写真を撮ったり、キーボードで文字を打ちノートを取ったりする方法で、授業をスムーズに受けることができる場合があることや、勉強方法についてのセミナーの情報も教えてもらい、娘の学習にも役立ったといいます。

竹内さん
「つながりができたから、私もどうすればいいかがわかって、教えられたし、子どももそういうことやってる人がいるっていうのも知ることができました。かなり助かりました」

親どうしでつながる大切さ

当事者どうしで交流するうちに、竹内さんは、多くの親が、どこに何を聞けば必要な情報が手に入るのか分からず困った経験があることを知りました。

そこで、情報発信と交流の場をつくろうと、SNSを通じて知り合った保護者と協力し、ことし3月、WEBサイトを立ち上げました。

オンラインなどでつながった親たちから、医療機関や勉強方法などの情報を集め、掲載しているほか、SNSで寄せられた悩みに答えることもしています。

5月中旬、WEBサイトを立ち上げたメンバーがオンラインを含めて集まり、サイトの編集作業が行われました。
サイトに掲載している医療機関に更新できる情報がないかなどが話し合われました。オンラインで参加していた母親は、当事者がつながることで勇気を持てたといいます。

母親
「まず病院探しにしても、子どもが困ってることにしても、何していいのかわからなかった。自分たちはやっぱり孤独だったし、調べられる手段がわからなかったところがあって。そこはつながりが持てたことで、勇気が出たし、わかってきたかなと思う」

竹内さんは、発達障害の子どもを育てているだけで疲弊している保護者も多いとして、手軽に情報を得られるサイトを、当事者たちのネットワークで作っていきたいと考えています。

竹内さん
「特に発達障害のある子どもの子育てをしているだけで疲弊している母親たちからすると、情報を得ようとするだけでも、ものすごいエネルギーがかかると思う。いろいろな人とつながると、少しでも使えることが、いっぱいあるので、もっと気軽に、もっと頑張らなくても、支援につながれると親も含めて、子どもも幸せに学校で楽しく過ごせるのではないかと思っています」

発達障害のある子どもの教育に詳しい全国特別支援教育推進連盟の宮崎英憲理事長は、「子どもの発達障害では、支援や将来の進路など先行きが不透明だと感じる親もいて、同じ立場の親に話を聞くことで、将来をイメージでき、安心感につながることもあります。子どもへの接し方で気持ちに余裕ができることが、子どもの心の安定にもつながり自己肯定感や学習意欲を高めることにつながるだろう」としています。

行政が用意する相談の場 しかし…

一方で、なぜ当事者たちに情報が不足する事態になるのか。

保護者が相談できる場所としては、それぞれの学校に配置されている「特別支援教育コーディネーター」や、自治体に設置されている「児童発達支援センター」などがあります。

しかし、宮崎理事長によりますと、教育、医療、福祉のそれぞれの分野の間で情報共有が不十分になっているケースが考えられるといいます。
このため保護者が、どこに相談しても、情報が不足し、次の支援につながることが難しくなってしまうということです。

国は、教育と福祉の分野の連携は重要だとして、今後は、4月に発足したこども家庭庁が中心となって推進していくことにしています。

宮崎理事長は、今後、国に求められる対応を次のように指摘します。

全国特別支援教育推進連盟 宮崎英憲理事長
「懸案事項は、それぞれでかなり整理されていると思う。そこを保護者たちが有効に利用できるような仕組みを作らなければならないのが一番だと思う。
そういう点では、当事者がどういうところで悩んでいたり、要望が強いのかということを吸い上げる仕組みを作るべきだ。そうでないと、せっかく作っても、支援の手だてが十分でないという組織になっても困る」

発達障害の子どもと、その保護者に孤立を感じさせない仕組みのあり方について、今後も取材していきたいと思います。皆さんからのご意見を引き続き募集しています。ぜひこちらの投稿フォームよりお寄せください。

竹内さんが作った支援情報サイト「カラフルバード~CBLD~」は、こちらから閲覧できます。(NHKのサイトを離れます)

  • 尾垣和幸

    首都圏局 記者

    尾垣和幸

    都庁担当 東京オリンピック・パラリンピック競技会場のレガシー活用などを取材。小学生の長男は学習障害とADHDと診断されている。

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