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東京23区でマンション供給最多 中央区でなにが? “タワマン”が集積

不動産のリアル(13)
  • 2023年5月10日

東京都心で、近年最もマンションの供給が盛んなのが中央区です。
なかでも湾岸エリアの「勝どき」周辺は、タワーマンションの集積地となっています。
いったいいつからかと調べてみると、1980年代に建てられたウォーターフロントの先駆けのタワーマンションに行き着きました。

※私たちは「不動産のリアル」と題して、空前の高騰が続く東京の不動産を取材しています。
皆さんの体験や意見をこちらまでお寄せください。(不動産のリアル取材班/記者 牧野慎太朗)

実は新築マンション供給最多の中央区

みなさんは中央区というと、どんなイメージを抱くでしょうか。日本有数の繁華街銀座や再開発が進む商業地日本橋などを思い浮かべるかもしれません。
ただ、不動産を取材している私たちは、この中央区で実はマンション開発が盛んに行われ、供給戸数が23区で最も多くなっていることが気になっていました。

1位 中央区 1万7870戸
2位 江東区 1万6295戸
3位 港区 1万1193戸

実際に、ことし1月には区の人口が70年ぶりに過去最多を更新しています。東京23区で2番目に面積が小さい中央区で、いったいなにが起きているのでしょうか。

タワマン集積する「勝どき」

大規模なタワーマンションが建ち並ぶ湾岸エリアにある「勝どき」周辺を歩いてみました。
ここは、もともと明治時代に埋め立てられた小さな人工島ですが、勝どき1丁目から6丁目の中だけでも、分譲と賃貸あわせて少なくとも9棟のタワーマンションが建っていました。
隣接する月島や晴海エリアも合わせると30棟以上のタワーマンションが立ち並ぶ、まさにタワマンが集積するエリアです。

「勝どき」では、マンション開発の影響で地価もこの10年で160%も上昇しています。同じエリアの中で新たなマンションに住み替える人も少なくないそうで、常にどこかのマンションの前に引っ越し業者のトラックが止まって作業しているといいます。

その人気の理由について、新築タワーマンションのモデルルームを訪れていた50代の男性に伺うと、「勝どきだからですかね」という答えが返ってきました。

住み替え検討の50代男性
「いまも勝どきのマンションに住んでいますが、子どもが中学校に進学するのにあわせて2LDKから3LDKに住みたいと思って、すぐ近所で物件を探しています。勝どきであれば、将来的にも資産価値が下がらないだろうし、友達も生活も変わらないし、都心に近い立地も気に入っています。新築マンションは1億円前後するので大きな買い物ですが、15年前に5000万円で買ったいまの自宅が1億2000万円ほどで売却できることもわかったので住み替えてもいいかなと思っています」

なぜ 勝どきにタワマン?

15年前の物件が2倍以上で売却可能と聞き、驚きしかありません。
では、なぜ「勝どき」に多くのタワーマンションが集積するようになったのか。その理由を調べてみると、実は中央区、その昔は人口減少に悩まされていたことが分かりました。

戦後まもない1947年に中央区は誕生しましたが1954年から40年あまりにわたって、人口が減り続けていました。高度経済成長期にかけて、企業が都心にオフィスを求めたことで、もともと区内にあった住宅が次々とオフィスビルに変わり、住民が区外に流出してしまったのです。 

中央区 吉田不曇副区長
「バブルの影響も加わり、区内では億を超える金額で土地が売買できる状態でした。住民も土地を売って郊外に行った方がいいじゃないかという動きもあって、そこにオフィスが作れて住宅が減っていきました。当時は、とめどなく人口が減っていくのではないかという恐怖感からやっぱりどこかで止めなければいけませんでした」

流れを変えた「大川端作戦」

どうやって人口流出を食い止めればいいのか。この打開策の1つとなったのが、官民共同で進められた湾岸エリアでのあるタワーマンションの開発。

当初、「大川端作戦」と名付けられました。
隅田川沿岸部や、いまの湾岸エリアにあった工場や倉庫などの土地を、大々的にマンションや住宅の開発をしようというものでした。
実は1980年代、人口流出は中央区以外の都心でも顕在化し、東京都の大きな課題になっていました。
そのため当時の鈴木俊一知事は「マイタウン東京構想」というものを打ち出しています。そこには、この大川端を含む湾岸エリアで住宅開発を進めることが盛り込まれました。

ウォーターフロントの先駆けに

「大川端作戦」は「大川端・リバーシティ21計画」と名前を変え、東京都や住宅・都市整備公団(現在のUR都市機構)、東京都住宅供給公社、三井不動産、そして中央区が関わる官民共同プロジェクトとしてスタート。1986年から、およそ30ヘクタールの造船所の跡地に、約2500戸の住宅のほか、商業施設や学校、それに道路や公園などが整備されることになりました。

最大の特徴が120メートルという当時日本一の高さとなった40階建てのタワーマンションがつくられることでした。
いまはタワマンの呼称で知られるタワーマンションですが、当時は全国的にもあまり例がありませんでした。計画の途中で、さらに54階建てと43階建てのタワーマンションが2棟建つことになり、合計で3900戸あまりの住宅が供給されました。

隅田川下流にそびえ立つタワーマンション群は、当時多くの人たちにインパクトを与え、ウォーターフロント開発の先駆けになったといわれています。工場や倉庫が建ち並ぶ工場地帯をタワーマンション群に一変させたこの開発は、周辺にも波及してきます。湾岸エリアの勝どきや月島、晴海でも、開発計画が次々と浮上しました。

中央区 吉田不曇副区長
「当時タワーマンションという形を採用したのは理由がありました。まず、都心区なので土地自体が高く効率的に建てないと多くの方に購入いただけるような住宅にならなかったこと、さらに近くで見たときに空間がないと窮屈な印象になることもあり、上の空間を使う必要があったことが影響しています。当時は、タワー・イン・ザ・パークという言い方をしましたが、タワーを公園の中に建てる発想で進めました」

開発の波 規制緩和が次々と

行政も、こうした開発を後押ししていきます。国は人口減少を見据えて都市機能をコンパクトに集約させ、土地や空間を有効活用していく方針を示し、高層建物が作りやすい法整備を進めました。
「公開空地」と呼ばれる一般解放された広場を確保することなどを条件に、容積率などの規制緩和を認め、より高い建物が建てられるようになる制度も確立されました。

過去最多の人口に…

そして現在。湾岸エリアにはいつの間にか30棟以上のタワーマンションが建ち並ぶようになりました。このあともすでに4棟の建設が見込まれています。最大の政策課題だった人口はV字回復。
中央区では、ことし1月に過去最多の17万4000人まで達した人口は、4年後には20万人、7年後の2030年には21万人を突破すると推計されています。 

大川端作戦の意義 課題は

現在の湾岸エリアの再開発のさきがけとなった大川端作戦。
デベロッパーの担当者は、その意義をこう強調します。

三井不動産レジデンシャル 齋田量穂 プロジェクト推進室長
「当時東京の湾岸エリアにはタワーマンションがない中で、まさにレガシーと呼べるプロジェクトでした。都心にいながら水辺や緑のすぐそばで暮らせる新しいライフスタイルを提供した意義は大きく、あの開発以降、同じような環境に住みたいというニーズが高まって、勝どきを含めた湾岸部でのタワーマンションの建設につながっていったと思います」

住民「コミュニティ形成に課題」

一方、課題はないのでしょうか。

開発当初から入居する70代の住民に話を聞くと、「コミュニティの形成に課題を感じています」という答えが返ってきました。

70代の住民
「リバーシティ21は一帯で整備されましたが、棟を越えて全体で交流する機会はほとんどありません。開発当初は自分の棟内の住民でイベントを開いて交流する機会を持っていましたが、20年ほど経つと住民も高齢化して入居者が入れ替わる世代交代が起き、一時つながりがリセットされたこともありました。

いまは自分の棟内でのコミュニティを維持するのが精一杯で、もっと世帯数の多い棟では、棟内のつながりも希薄化しているところもあります。

正直、1棟あたりの住民が1000人を超えると互いに顔もわからなくなり、交流も容易ではないと感じています。これまでの経験から住民自ら動かなければコミュニティを形成するのも維持するのも難しいと実感しています」

この住民は、東日本大震災の際に短時間ではあったもののタワーマンションのエレベーターが停止した経験から、災害が起きた時や広場などの「公開空地」を共同で維持していくためにも、棟を越えたつながりが大切だと感じているということです。近年は別の棟の住民と一緒に清掃活動を行うなど、交流の機会を増やせるよう努めているとも話していました。

また、タワーマンションの場合、経年による管理が難しいという指摘もあります。
この点についてマンション管理に詳しい専門家にも聞いてみました。

マンション管理に詳しい横浜市立大学 齊藤広子教授
「タワーマンションは、多様な共用施設や機械式車庫などがあり管理費が高い事例や修繕積立金の値上げが必要なケースもあります。住民は多いだけでなく、投資用で持っている人もいて合意形成が難しい特徴があります。そのため、継続的に維持・管理していくためにも、イベントやサークルなどで住民同士の交流や管理に関心を持つ機会を積極的に持つ必要があると思います」

開発続き人口増えた先には

タワマンというと、その見事な眺望や、価格に目がいきがちですが、1つの街ほどの規模なだけに、さまざまな課題があることに気づかれました。

中央区の湾岸エリアでは、30年あまり前の第1号のタワーマンション以降、都心の海や川のそばで暮らすライフスタイルが定着し、それに憧れて移り住んでくる人たちも少なくありません。

結果として、人口は急増しましたが、いまだにやむことがない開発は新たな課題も引き起こします。区ではいま、子どもの増加で学校の教室を増やす対応に追われていますが、近い将来には、高齢者施設などが必要になってくるといわれています。

私たちは、空前の高騰が続く東京(それ以外の地域でも歓迎です)の不動産事情を、皆さんからの情報や意見をもとに引き続き取材していきます。
ぜひこちらから投稿をお寄せください。

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