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20歳の新人保育士 奮闘中 卒園した保育園で夢の保育士になりました

シリーズ保育現場のリアル
  • 2023年5月1日

「すごく楽しくて。毎日疲れて帰ってくるんですけど、やっぱり朝、子どもたちの顔を見ると、“よし、頑張ろう”って思えるんです」

ことし4月から働き始めた新人保育士は、はじけるような笑顔で答えてくれました。過酷な労働環境や不適切保育など、何かと厳しい現状を伝えることが多い保育の現場。
今回私が出会った彼女は、大好きだった卒園した保育園で、保育士になりました。

私たちは保育現場を引き続き取材しています。ご意見・ご感想は、こちらまでお寄せください。
 (首都圏局/記者 浜平夏子 おはよう日本/ディレクター 後田麟太郎

奮闘する新人保育士~直面した現実

その新人保育士は原口ひばりさん、20歳です。
ことし3月、短大を卒業して、4月に埼玉県鴻巣市の認可保育園「どんぐり保育園」で保育士として働き始めました。

念願だった保育士となった原口さん。働き始めて仕事の大変さを目の当たりにしました。
0歳児を担任し、先輩の保育士と2人で3人の子どもをみています。
これは、国の配置基準(0歳児は保育士1人あたり3人の子ども)からすると手厚い状態です。
しかし、子どものおむつを替えて、抱っこしてあやし、またおむつを替えて、離乳食を食べさせて…。
原口さんは、手いっぱいになってしまいます。そうしたときは、すかさず先輩保育士がフォロー。5月以降、新たに入園する子どもがいるということで、預かる子どもはさらに増える予定です。

原口ひばりさん
「0歳児だと、月齢によっても動きや食べるものが違います。寝返りがようやくできるようになった子もいれば、ハイハイして動き回る子、まだミルク中心の子どももいれば、離乳食が進んでいる子などさまざまです。常に緊張感があり、やらなければいけない仕事も多いので、仕事が終わって帰宅するとすぐに寝てしまうくらいです。さらに預かる子どもが増えると思うと大変なことだと改めて思います」

保育士になりたいと思った原体験は…

原口さんが働く保育園。実は14年前、原口さん自身が卒園した保育園です。原口さんが保育士になりたいと思った原点も、まさにそこにあったといいます。

原口さん
「一年中はだしで過ごしていて、土の感触や水遊びを楽しんだりしていました。保育園のホールで走り回ったり、ぞうきんがけで競争したり。楽しい思い出がたくさんあります。のびのびと育ててもらいました。今度はわたしが子どもたちを楽しませたいな」

小児がんを克服して念願の保育士に

原口さんは、小学1年生の時、小児がんが見つかり半年間入院しました。つらい治療を経て、完治しましたが、今も疲れやすかったり左半身にまひがあったりと後遺症があります。

そんな原口さんが「保育士になりたい」といった時、周囲の人たちからは大変な仕事だからと心配する声もあったといいます。それでも、子どもたちと笑顔で過ごす保育士の姿が忘れられず自分の意志を貫きました。

“職場として魅力的”~園の工夫

原口さんが、卒園した保育園を就職先として選んだのは、楽しい思い出があったからだけではありません。職場としても魅力的だと感じたからです。

この保育園では、近くの系列園と連携しながら保育士が休みをとりやすいよう工夫していただけでなく、持ち帰りの仕事がありません。園内の壁の装飾は保育士が自宅で作る保育所が今も多くありますが、この園の飾りつけは、子どもたちの作品だけにしていました。

円滑なコミュニケーションとロールモデルも

さらに、働く前に、園長や運営法人の理事から、園の運営理念から働き方まで納得いく説明があったことで、原口さんは新人であっても意見交換ができる職場だと感じたといいます。
また、この保育園には10年以上働き続けるロールモデルになる先輩保育士がいたことも魅力的だったということです。

原口さん
「長く働いている先輩がいることは心強いですし、持ち帰り仕事がないことなど保育士が働きやすいようにしている職場だと思っています。この園で子どもたちが1年1年で年を重ねていくごとに成長できる場面をずっと見ていきたいですし、それを通しながら、私も成長を続けていきたい。ここで長く働きたいです」

園長の石川結里さん(左)と原口さん

保育園も、新人の原口さんにかける期待は大きいものがあります。

園長の石川結里さんは、保育士歴17年。実は、原口さんが保育園に通っていた当時から、この保育園で働いています。全国で保育園をめぐるさまざまな問題が起きるなか、卒園児である原口さんが職場の同僚になることがとてもうれしかったといいます。

石川園長
「原口さんは、保育園児のときから一つ一つ丁寧にやる子どもで、すごく誠実で友達の信頼も厚かったと記憶しています。そういう子が大人になって、同志として仲間として一緒に働けるってことがすごくうれしくて、本当に喜びもひとしおだなと思っています」

石川さんは、原口さんをサポートする体制を整えながら、保育士としての成長を見守りたいと考えています。

石川園長
「保育に一番大事な環境は、人間だなって思っています。“保育者と子どもの響き合い”なので、1年、2年では身につかないと思っています。できるだけ長く働いてほしいと思っていて、園でできる限り努力はしていきたい。ただ、園だけの努力では限界はあります。ずっと変わらない配置基準で保育続けていくのは無理だよねっていうことも国にも訴えていきたい。すごく本当にやりがいもあって楽しい仕事なんですけども、心が疲れちゃったりとか、低賃金で生活が成り立たなかったりして大事な仲間が現場を離れていってしまうのは、すごくもったいない。」

現場の笑顔をなくさないために

新人保育士としておよそ1か月。
先輩や上司に時にサポートしてもらいながら、原口さんはきょうも笑顔で子どもたちと向き合っています。

私は「保育現場のリアル」として、現場の保育士たちから寄せられた保育の課題や問題をお伝えしてきましたが、原口さんの笑顔は、“希望“だと感じました。
国の「異次元の少子化対策」で示された保育士の配置基準の改善だけでは、まだ不十分だという声もあります。
新人保育士たちの笑顔が失われないよう、私たちも取材を続けます。
ぜひ皆さんからの意見や投稿をこちらまでお寄せください。

  • 浜平夏子

    首都圏局 記者

    浜平夏子

    2004年(平成16年)入局。宮崎局、福岡局、さいたま局を経て、2020年から首都圏局。医療取材を担当。

  • 後田麟太郎

    ディレクター

    後田麟太郎

    2015年入局。松山局を経て2019年から首都圏局。 これまで医療や介護・貧困に関心を持ち取材。

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