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詰め込みでいいの?学童保育の質を見て「部屋は座るだけ…」

シリーズ保育現場のリアル
  • 2023年4月25日

ある学童保育の様子です。子どもがひしめき合い、動き回ることが難しいほど混み合っている状況がわかります。撮影した放課後児童支援員によると、スペースが手狭なため、雨の日も外に出て遊ばざるを得ないということです。
私たちが学童保育の“質”について取り上げたところ、『狭すぎてテーブルが置けず、床でお弁当やおやつを食べている』など、多くの子どもを受け入れるのに十分な環境が整っていないとして、改善を求める声がいくつも寄せられました。
(首都圏局/記者 氏家寛子)

詰め込まれた子どもたち

千葉県内の学童保育で働く60代の放課後児童支援員です。学童保育の現場で、およそ40年働いてきました。今の職場は、学校近接の学童保育専用施設ですが、受け入れている子どもは90人。子どもの数に対して施設が手狭のため、問題があるといいます。

女性
「子どもが自分のパーソナルスペースを保てないので、ぶつかってケンカになったり、こまやけん玉で遊ぶ場所さえなかったりします。声も張り上げないと聞こえない。晴れていればもちろん外に出ますし、部屋の中だとほぼ座るだけしかできないので雨の日でさえ外に出ます。良い環境だとは思えないですね」

さらに、子どもたちの体調が悪いときに休めるスペースもないといいます。私たちが取材で話を聞いた前日も、入学後まもない1年生2人が「疲れた、寝たい」と声を上げましたが、部屋の一角に布団を敷くしかなかったそうです。

国の基準はあるけれど

学童保育について、国はその広さと人数について、以下のような※参酌基準を定めています。

学童保育
○児童1人あたりおよそ1.65平方メートル以上の面積を確保すること
○「支援の単位」といわれる1つのクラスあたりの人数をおおむね40人以下にすること

※参酌基準
自治体が、国の法令を十分に参照した上で、判断しなければならない基準を指します。ただ、地域の実情に応じて異なる内容を定めることもできます。
一方、国で一律に定めるものは「従うべき基準」とされ、自治体はこれに従う必要があります。

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女性の学童保育は90人を受け入れているので、支援の単位は3つですが、部屋を分けることは難しく、実態はすべての子どもをいっしょに保育しているといいます。

学校の空き教室は

一方、話を聞いていて、疑問に感じたことがありました。“この学童保育施設は学校に近いのならば、なぜ空き教室を借りないのか“ということです。そう思って話を聞くと、その活用がうまくいかない事情があることがわかりました。

学童保育が、空き教室として学校から借りることができるのは、主に、家庭科室や理科室などの特別教室です。普通教室が解放されない背景には、子どもの私物が多くあり紛失のリスクがあるほか、先生が放課後に教室を使うことがあるからだといいます。

ただ、利用にあたっては、学童専用の部屋ではないため、準備や片づけが欠かせません。近隣の学校では、学童が家庭科室を利用しようとしたところ、針が落ちていたり包丁があったりして、ひやりとした経験があったそうです。

スペース不足でどんな弊害が

学童保育のスペースが十分でないと、“管理する保育”になりかねないと女性は危機感を募らせます。とにかく安全に、ケガがないように見守ることが最優先され、子どもを自由に遊ばせることが難しくなってしまうからだといいます。

女性
「あれはダメ、これはダメ、やっちゃいけないことばかりをやめさせるっていう形になります。けががないように見ているだけになってしまいます。自分の頭で考えることもできない、言われたことしかできなくなってしまうのではないかと思います。できれば管理でなく、子どもたちと一緒に遊んで、遊びを通じて信頼関係を築きたいです」

家庭に代わる保育がしたい

学童は、家庭に代わる“生活の場”。
子どもたちは、「ただいま」と帰ってきて「おかえり」と迎えます。
女性は、まだ学童保育の利用者が少なかったころ、“家にいたらやってみようか”と思うことに、積極的に取り組んできたといいます。

子どもたちと作ったケーキ

その1つがケーキづくりです。子どもたちが自ら材料のアイディアを出したり買い出しに行ったりして、分担して調理しました。ケーキを食べた子どもたちは、「お店の味よりおいしい!」と喜んだそうです。

また、子どもたちと信頼関係を築くことで、学童は、学校や家では言えないことを相談できるところにもなるといいます。問題行動が多いとされていた子どもが大人の関わりによって変わったケースも何例も見てきたといい、専門性が高くやりがいのある仕事だといいます。

子どもたちからの手紙

女性が「指導員冥利(みょうり)につきる」といって私たちに見せてくれたのは、手紙の山です。学童保育を卒業する際に、子どもたちや保護者からもらったものなどで、楽しい時間を過ごしたことへの感謝の気持ちがつづられていました。

しかし、こうした関係を築くのは時間がかかります。その前に、保育環境や処遇の問題に耐えきれずに離職してしまう人も少なくないといいます。

女性
「やりたい保育が子どもの人数が多くてできない、できなくなったというのは、指導員としていちばん悲しいかなと思います。耐えきれないで辞めた人もいるので、ゆったりと子どもと笑いながら楽しい保育ができるための条件が整えばそういう人は減るんじゃないかなと思います。学童保育の量だけではなく中身にもっと関心が集まって、子どもたちが楽しく通える学童をみんなでつくっていきたいです」

取材後記

学童のニーズはさらに高まっています。共働き家庭の増加はもとより、昔よりも親どうしのつながりも希薄になって、ほかの子どもを預かって面倒を見ることが難しくなっているところもあります。学童だけが子どもの居場所ではありませんが、「『ボール禁止』など公園も注意書きばかりで面白くない」、「習い事など決まったことをやるのではなく、自由に過ごせる時間が欲しい」という思いの子どももいて、学童がその受け皿になっているともいわれます。

小学生が学校で過ごす時間は、およそ年間1200時間です。これに対して、放課後と長期休みを合わせた時間は、およそ1600時間を上回るといわれ、とても膨大です。子どもたちが楽しく過ごすために、わたしたち大人はなにができるか引き続き考えていきたいと思います。 

みなさんの子どもたちが通う学童保育や放課後の居場所はどんな状況でしょうか。 また、学童保育の現場で働くみなさんの意見もぜひこちらよりお聞かせください。

  • 氏家寛子

    首都圏局 記者

    氏家寛子

    岡山局、新潟局などを経て首都圏局 医療・教育・福祉分野を幅広く取材。

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