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給付型奨学金が続々と 条件・種類・申し込みは?貸与型との違いは?

  • 2023年4月18日

“返済不要の奨学金のおかげで、あこがれの大学に入学できた”
東京都出身の男性(19)は企業が創設した“給付型”の奨学金を受け取り、去年、大学に進学しました。

大学の授業料はこの30年で1.5倍に増加しています。大学生の少なくとも2人に1人が国の“奨学金”を利用していて、そのうち8割は、返済義務のある“貸与”型で、返済に苦しむ方々への支援が欠かせない状況になっています。

そんな中、いま企業などが続々と返済の必要のない“給付型”奨学金を創設、学生を直接支援するケースが増えています。取材をすると、学生だけでなく企業にとってもメリットがあることがわかってきました。
(首都圏局/ディレクター 岩井信行)

“給付”型奨学金 申請する学生は

東京都出身の引田尚希さん(19)です。高校2年生のとき、数学とコンピューターサイエンスを、多様性のある環境で学びたいと、海外の大学に憧れました。年の近い姉と妹もいる中、定年退職直前の両親に学費の工面を依頼するのがためらわれ、少しでも自分で賄いたいと、奨学金を探し始めたといいます。

親から教えてもらった奨学金の情報をまとめたサイトで見つけたのが、従業員50名ほどの中小企業が給付している奨学金でした。自転車販売やシェアサイクル事業を行う会社が設立したもので、大学生を対象に1人につき5万円を支給。選考は課題文を提出することで行われ、このときのテーマは「あなたが奨学金の運営者だったらどんな学生に支給しますか」というものでした。

引田さんは、海外進学を希望する自分にピッタリなテーマだと考え、投稿フォームに以下の文章を入力して応募しました。

「私が思う奨学生のあるべき姿とは、後輩に向けて自分の進路を一例として示すことのできる人です。多くの学生が進路選択に不安を感じているからこそ、自分はこのように今の道を選んだと示してあげることで、彼らの悩みを解消したり、目標を立てる、再確認することができたりします。後輩たちが目指す将来像に向けてサポートできる人こそ奨学生に相応しい人材だと感じております」

この文章が、「次の世代につなげる姿勢がうかがえた」と評価され、みごと5万円の奨学金を手にしました。

他の企業からの給付型奨学金も得て進学を果たした引田さん。現在、アメリカの大学で数学とコンピューターサイエンスを学んでいます。自分の進路を実現するための、情報をつかみ取ることの大切さを学んだといいます。

引田尚希さん
「生活費・学費は高額なので、親の負担をわずかでも減らしたいと思い申請しました。まだまだ自分に自信はないけど、奨学金という形で企業が応援してくれることがとてもうれしく、期待に応えたいと感じました。将来はなにかしらの形で恩返しができる人材になりたいし、アメリカの能力主義的な社会に身を置き、今後の人生で役立てることを身につけたいです」

企業にもメリットが 事業拡大のアイデアや認知度のアップにも

引田さんに奨学金を支給した自転車販売店が、奨学金事業を設けたのは2年前。購買層となる若い世代とつながりを持ち、会社の知名度アップにつなげる狙いがありました。

1年間で奨学金に申し込んだ人は6000人を超え、予想以上の反響があったといいます。これまで1人5万円を、大学生など10名以上に支給してきました。
さらに、課題として事業拡大のアイデアを募集したところ、役立つものも寄せられたといいます。

レンタルしているヘルメットと自転車

たとえば「シェアサイクルを流行らせるには?」という課題に対しては、「シェアサイクルの際に、安全面を不安に思う人もいるので、ヘルメットもレンタルしてはどうか」というアイデアが寄せられました。
この4月から、ヘルメットの着用が努力義務になったこともあり、この会社ではレンタルを開始しました。

自転車販売店 谷口創太代表
「奨学金事業をやっている団体は名だたる企業が多いので、今回、我々のような中小企業が奨学金の募集をして、そんなに応募が来るのかなと思っていました。結果的には多くの応募をしていただいて、会社のブランディングにもつながったと思うので、もっと活用できる可能性は十分あるなと思ってます」

“給付型”奨学金で留学生との接点を

さらに、大手の企業でも、“給付型”奨学金の仕組みを活用し、海外に留学する日本人学生にタッチポイントを作ろうとする動きもあります。

大手飲料メーカーでは、日本独自の商品を海外で幅広く販売していくために、語学力や現地の消費者の生活感覚をつかみやすい留学生の採用をしたいと考えていました。しかし、海外では日本のような就職活動の機会がないため、学生との接点の少なさが課題だったといいます。

そんな中、注目したのが海外にいる日本人留学生向けの奨学金です。
奨学金の情報をまとめたサイト「ガクシー」を運営するベンチャー企業がとりまとめを行うもので、円安や物価の高騰など国際的な経済状況の中で、学費や生活費の支払いに苦労する留学生たちに緊急支援を届ける目的で、先月(3月)創設されました。

その仕組みです。ベンチャー企業が協賛金を企業から集め、海外にいる留学生に奨学金として渡します。一方企業は、応募のあった学生に会社の取り組みなどを知らせることができるのです。
協賛金を出した大手飲料メーカーの採用者は「海外に留学している学生に直接アプローチできることがメリットだ」といいます。

大手飲料メーカー 人事担当 橋本八洋さん
「物価上昇などに苦しむ日本人留学生に貢献したいという企業は多いと思うのですが、『日本人留学生向けの奨学金』というスキームを作ってくれたので参画しやすかったです。この奨学金事業に参画することで、入り口としては学生のみなさんへ貢献する一方で、会社に興味を持っていただき、ブランドのファンになってもらうことや将来の進路の1つとして考えてもらう機会につながればと考えています」

この奨学金の企画をとりまとめたベンチャー企業の担当者は、奨学金というシステムを使って、若い世代と企業の新しい結びつきを作りたかったといいます。

奨学金の情報をとりまとめるベンチャー企業 取締役 大工原靖宜さん
「海外に暮らす学生は、物価の急上昇に困っており支援がない学生も多いと聞いたので、ここに対して奨学金で応援ができないかということを考えました。先月立ち上がったばかりの奨学金ですが、これまでに3社が参画予定です」

奨学金の「情報格差」を減らすため「金融教育」を

国の奨学金の制度設計に携わってきた桜美林大学の小林雅之教授は、こうした“給付型”奨学金が増えることを歓迎しつつも、「情報格差」と「金融教育」が課題だと指摘しています。

桜美林大学 小林雅之教授
「企業も含め奨学金事業を運営する団体は少なくとも3800ほどありますが、学生に奨学金の情報が十分に行き届いていません。高校はすでに国の奨学金を案内することに手一杯の状況で、学生にとって『情報格差』が課題です。

こうした情報格差を是正するために、アメリカでは、高等教育機関は入学時などに学資ローンや奨学金などについて、ガイダンスを行うことが義務化されています。

日本でも大学はもちろん、高校や家庭などで子どもたちに早い時期から金融教育をおこない、自分の将来のためのお金は自分で調べ、自分の希望を実現していく力を養うことが重要です」

  • 岩井信行

    首都圏局 ディレクター

    岩井信行

    2012年入局。さいたま局などを経て2021年から首都圏局。子どもの貧困や社会的養護、ヤングケアラーなど、家族に関わるテーマで取材を続ける。

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