WEBリポート
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. WEBリポート
  4. 児童相談所の一時保護所とは?生活の実態 期間は?元職員・入所者の証言

児童相談所の一時保護所とは?生活の実態 期間は?元職員・入所者の証言

  • 2023年4月14日

「児相の一時保護所には行きたくない」
虐待やいじめなどを理由に生きづらさを感じ、新宿歌舞伎町に集う子どもたちが口々に語った言葉です。児童相談所の支援対象になった子どもが、家庭で過ごすことが難しい場合、まず過ごすことになる場所が「一時保護所」です。

かつて入所したことがある人や元職員からは、「私語は禁止で、男子と目を合わせたら反省文を書かされた。刑務所みたいだった」「定員を大幅に超えた子どもが入っていて職員がピリピリしていた」という声があがっています。

一時保護所の実態とは?子どもたちに支援を届けるために必要なこととは?
(前編・後編の全2回/前編の記事へ
(首都圏局/ディレクター 二階堂はるか・竹前麻里子)

“一時保護所”でいったい何が…

前編の記事 では、家や学校などに居場所がないと感じる子どもたちが、新宿歌舞伎町に集まり、野宿、パパ活、オーバードーズなどの経験をしながらも、歌舞伎町で暮らし続ける実態を取材しました。

暴力や育児放棄などで、家庭などに居場所がない子どもなどの支援に当たるのは児童相談所です。児童相談所は子どもの安全を確保した上で、本人に話を聞いたり、家庭状況を調査したりして、家に戻るのか、それとも児童養護施設や里親などの元で暮らすのか、調整を行います。

それが決まるまでの間、まず子どもが暮らすことになるのが、児童相談所が運営する「一時保護所」です。原則2か月まで、ここで過ごします。いわば“支援の入り口”とも言える場所です。

しかし、私たちが歌舞伎町で出会った子どもたちは一様に「行きたくない」と話していました。いったいなぜなのか。子どものころ「一時保護所」を利用していた女性に、その実態を聞きました。

希咲未來さん(23歳)は家庭内で暴力などがあり、10代の時に4回、一時保護所に入所したといいます。疑問を抱いたのは8年前、およそ3か月過ごした一時保護所での生活でした。

希咲未來さん
「雑魚寝で十何人、布団がびっしり敷かれたところで寝ないといけない。寝るときは職員さんが監視しているから、他の子と話もできない。何だ、ここは、と思いました。

食堂が一応あるんですけど、整列して行かないといけない。幼児さんも。食事中はしゃべっちゃいけないし、全部食べろという教育だったので、食事の時間は、食事や箸の音しかしない」

当時の希咲さんの1日のスケジュールです。起床や食事など時間ごとに行動が決められ、入所者はそれに従うよう求められたといいます。

学校には通えず、施設の中でプリント学習をしていたといいます。ほとんどの一時保護所では、子どもの安全確保などを理由に通学は認めていません。

自由時間もありましたが、許されていたのは読書やテレビ視聴などで、スマートフォンは使えなかったといいます。さらに希咲さんにとって「理解できない」と感じるルールもあったといいます。

希咲未來さん
「職員がいる前では私語厳禁。男子と目を合わせちゃいけない。目を合わせたのがバレたら個室で作文(反省文)を書かないといけない。それが嫌だから、みんな下を向いていました。もう刑務所じゃん。感情を持っていたら、しんどいとかきついとか思っていたら、生活できなくなっちゃうと思って、感情を殺して生きてきました」

“定員を超える子どもを見るため職員が疲弊”との声も

職員の中にも疑問を感じていた人がいます。おととし児童相談所を退職した飯島章太さんです。幼いころから家に居づらさを感じていた飯島さん。自分と同じような子どもたちに寄り添いたいと、大学卒業後、地元の児童相談所に就職しました。

 

4年前に配属された一時保護所では、定員を超える子どもが入所していて、多忙を極めたといいます。

飯島章太さん
「休む時間はなかったですね。気持ち的にも体力的にも。定員が20人のところに、子どもが40人ぐらいいたので、何か起きるだろうというのは、職員はみんな思っていたわけです。ピリピリして、目を配らせて、死角がないように。子どもたちから目を離さないようにしていました」

次第に子どもと向き合う余裕はなくなっていったといいます。

飯島章太さん
「パジャマに着替える時間があるのですが、それを全くせずにゴロゴロしている子がいました。それは子どもらしくいられる時間として大事だと思うんですけど、私は当時、夜勤が連続してあって、体力が全然なくて。『いや、そこは着替えて』とわりと強く言ってしまいました。子どもの話を聞くことを大事にしたいと思ってこの仕事に就いたのに、それが一瞬にして崩れてしまった」

飯島さんは現在、千葉県を相手取り「長時間労働でうつ病が再発し退職を余儀なくされた」として、慰謝料などの支払いを求めて民事訴訟を起こしています。

千葉県側は「係争中の案件なので回答は差し控えたい」とした上で、「これまで一時保護所の増設による定員の拡充や職員の積極的な増員などを行ってきた。引き続き、児童相談所の体制強化や職員の人材育成を図っていく」としています。

子どもたちが行きたいと思える居場所とは

一時保護にはさまざまな課題があり、国も次のようにあげています。
「子どもひとりひとりの状態に合わせた個別的な対応が十分にできていない」「職員の配置が不十分」などです。

こうした一時保護所の現状について、都内の児童相談所の開設などに携わってきた、日本大学大学院危機管理学研究科の鈴木秀洋教授に聞きました。

日本大学大学院 危機管理学研究科 鈴木秀洋教授 
「子どもたちが一時的に過ごす場所ではありますが、非日常的な空間で、気持ちが不安定になる子どもも多くいます。子どもたちが助けを求められるようにするためには、安心感が求められます。 

大切なのは、子どもたちの選択肢を増やすことです。子どもたちから話を聞くと、小さな選択については聞いてくれるが、大きな選択については聞かれたことがないという子が多いです。人間の基本は自分で選択できるということ。自分が自分のままで、条件や制限なく選択できるということが、『安心して相談できる』ということにつながります。 

そのためには、『一時的な場所だから我慢するのはしかたがない』という古い考えは変えていかなければなりません。多様な形の研修を繰り返すなどして現場に落とし込んでいくことが大切です」 

一時保護所を子どもたちが行きたい場所にするためには、職員の処遇を改善していくことも重要だといいます。

「一時保護所の職員には、高い専門性が求められます。虐待、発達障害、精神障害など多様な子どもたちが集まり、日々、入れ替わる特殊な場所だからです。子どもの権利を守っていくためには、医療、法律、福祉、心理、保育、保健などさまざまな視点が大切になります。 

職員が一人で対応するのでなく、チームで対応していくことが大切になります。何が自分たちに足りないのか、どこを補填すればよいのか、分析したりアドバイスしたりする人を置くことも効果があります。 

研修を行い専門性を高めていくこと、職員の給料や社会的地位を上げていくことも必要です。国は、財源を確保し、子どもの分野に対して、人、お金、物をもっと投資してほしいと思います」 

いま、全国の一時保護所では、子どもたちが過ごしやすい環境を整えようという動きも始まっています。今月新設された埼玉県熊谷市の一時保護所です。 

家庭的な環境で過ごせるように、大人数ではなく小人数のグループで生活をします。また、個室も用意され、ひとりの時間が過ごせるようにプライバシーが守られています。こうした改善によって、不安を抱えてやってくる子どもたちに少しでも安心してほしい、としています。

子どもたちはどんな”居場所“を求めているのか。一時保護所にかつて入所していた希咲未來さんは、職員の関わり方に救われたといいます。

希咲未來さん
「3回目、4回目に一時保護所に入所した時は、職員さんがすごく明るくなったというか、本当に変わっていました。管理する、されるみたいな関係性を出さずに、対人間として会話できたのが良かったです。

当時、欅坂46がすごくはやってて、職員さんが『どこが推しなの?』とか聞いてくれて。職員さんがアイドルの話をするわけないじゃん、何がいいのかなんてわかるわけないのに、わかろうとしてくれる姿勢がすごくよかったです。大人に対して不信感を抱いていたけど、少しでも信用して大丈夫なんだなという安心感につながるのかなって思います。

居場所作りっていうけど、居場所は場所じゃなくて、自分が本当にいてもいいなって思えたり、何気ない会話ができたり、安心できる空間、人とかがいたりだと思うから、どこにでもなりえると思います」

前編の記事「新宿歌舞伎町の子どもたち『トー横』に集まる理由は タワー開業で再開発進む」

  • 二階堂はるか

    首都圏局 ディレクター

    二階堂はるか

    2016年入局。沖縄局、ニュースウオッチ9を経て現職、2年ほど前から「性暴力」をテーマに取材。

  • 竹前麻里子

    首都圏局 ディレクター

    竹前麻里子

    2008年入局。旭川局、おはよう日本、クローズアップ現代などを経て2021年より首都圏局。福祉、労働、性暴力の取材や、デジタル展開を担当。

ページトップに戻る