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異例の人気 晴海フラッグ 販売方法見直しへ 実効性は?

不動産のリアル(11)
  • 2023年4月12日

応募者が殺到し、最高倍率266倍という異例の人気を集めたオリンピックの元選手村の分譲マンション「晴海フラッグ」。
私たちは、その背景に投資家たちによる「転売目的」の購入がある実態を伝えてきました。
すると、都が販売を行う事業者に対して一般世帯が購入しやすくなるよう改善を求め、事業者側も販売方法の一部を見直したことがわかりました。その実効性を検証します。
(首都圏局/不動産のリアル取材班 記者 牧野慎太朗)

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新たに販売始まるタワーマンション

最終販売期には平均倍率が71.1倍、最高倍率266倍という異例の人気を集めた晴海フラッグ。ことし3月までに分譲マンション17棟2690戸の販売が終了しました。
ただ、現地では最後に建てられる2棟のタワーマンションが再開発のシンボルと目されています。

この2棟は地上50階建てで、総戸数は1455戸。
4月発表された販売予定価格を見てみると、最上階に位置する広さ161平方メートルの3LDKの部屋が3億4900万円台と最も高く、最低価格は1LDKの部屋で4800万円台でした。

また、販売戸数の最も多い70平方メートル台の3LDKの部屋では、35階で8100万円台から1億1400万円台と方角によっても価格に差が付けられていました。

都“一般世帯が購入できるよう特段の配慮を”

ことし6月下旬から販売が始まる2棟のタワーマンション。
ここでも投資家たちによる転売目的の購入で、一般世帯が手にしづらい状況が生まれてしまうのではないか…と頭をよぎりました。

しかし、前回の取材の時、都の担当者が「転売目的で購入する人がいるという指摘がある以上、コンセプトに沿った販売方法になるように民間事業者には検討を促す」と話していたため、私たちはその動向を注視していました。

すると、都が民間事業者の代表である三井不動産レジデンシャルに対して、文書で改善を促したことがわかりました。
こちらがNHKが入手した文書です。

東京都の文書

「一般世帯の申込が多数あることに加えて、個人や法人1者で複数戸の購入を希望されるケースがあると聞き及んでいるところです。
当地区のまちづくりの方針では、質の高い中高層住宅を整備し、多様な人々が交流するまちを創出することとしており、分譲住宅はファミリー層向けを中心に整備するとしています。
今後予定されている販売においては、出来る限り広く一般世帯の方に購入いただけるよう、例えば抽選の工夫など、特段の配慮をお願いいたします」

つまり、一般世帯が購入しやすくなるよう、販売方法の見直しを求めていることがわかります。

事業者 販売方法の一部見直し

なぜ、都がこうした要請ができるのでしょうか。
この場所は、もともと都有地であり、都は再開発事業を監督する立場にあります。
都が民間事業者と結んだ協定に、具体的な販売方法は書き込まれていませんでしたが、先述のように最高倍率が266倍にもなる事態をうけて、都も異例の対応をとったのです。
都の担当者に文書を送った狙いを聞きました。

東京都都市整備局 田中佐世子 公共再開発担当課長
「1人や1社で複数戸申し込まれているケースが多く、一般世帯が落選をされていると聞いておりました。東京都としては分譲住宅はファミリー層を中心に整備し、多様な方々に住んでいただきたいというコンセプトを持っておりますので、まちづくりのコンセプトに沿うように、一般世帯に1戸でも多く購入いただきたいという趣旨での要請になります」

都の要請をうけて、民間事業者は新たな販売方法をとることを決めました。
その内容は、抽選時の当選確率に差をつけるというものでした。

販売方法を記した文書

これまでは、一般世帯も、転売目的で複数戸申し込む投資家や不動産会社なども、抽選であたる確率は同じでした。

そのため、資金力がある投資家らの方が、多くの部屋に申し込むことができるため、抽選に当たりやすくなり、一般世帯が購入しづらい構造になっていました。

今後は、申し込んだ第1希望の部屋に限り、当選確率を2倍に設定。2部屋目以降はその確率を下げる方法に改めました。

少しわかりにくい仕組みですが、民間事業者に取材すると、「通常1部屋しか購入しない一般世帯への優遇措置です」という回答でした。

客からは歓迎の声も…

こうした対応を、購入を検討する人たちはどう受け止めたのでしょうか。
現地でタワーマンションのモデルルームの見学会が開かれていると聞き、4月8日、足を運びました。エントリー数はすでに1万件を超えているそうで、この日も家族連れなどが次々に会場を訪れていました。

モデルルームの見学会

訪れた人の中には、これまで晴海フラッグに3回、4回と申し込み落選し続けている人たちも多くいました。販売方法の見直しについては歓迎する声があった一方、苦言もありました。

購入検討中の女性
「これまでに販売したマンションも同じ方法をとってほしかったです。お金持ちが有利になって一般世帯が買いづらい状況には不公平感を感じていましたから」

購入検討中の男性
「一般世帯が少し有利になる方法だとは思いますが、2倍ではなくて3倍、4倍に上げるとか、もう少し優先してもらえるといいなと思いました。そもそも住むことを目的にした人に限って売ってもらえるといいんですけどね」

では、対応を促した東京都はどう受け止めているのでしょうか。
再び担当者に聞きました。

東京都都市整備局 田中佐世子 公共再開発担当課長
「一般世帯いわゆる実需層と呼ばれる方々に対して当選の機会をより多く得られる対応を取ったというふうに聞いておりまして、その効果が出ることを期待したいと考えているところです。
東京都としては、今回の対策で効果が出ることを期待しつつ、注視をしていきたいと考えております。
今後どういった販売経緯になるかについては、民間事業者側とも、よくコミュニケーションを取りながら確認をしたいと思います」

実効性はあるのか?

ただ、今回の方法は本当に一般世帯が買いやすい方法になっているのでしょうか。
湾岸部のマンション販売に詳しい専門家に聞いてみると「劇的に効果があるかは見通せない」という答えが返ってきました。

不動産コンサルタント 藤田祥吾さん
「これまでより多少一般世帯が手にしやすい方法にはなっているとは思います。ただ、投資家たちが複数の物件に申し込みできる状況は変わりないので、限定的な効果しかないという見方もできます。本当の意味で一般世帯に寄り添うのであれば、申し込み戸数に制限を設けたり、購入時に転売禁止を誓約したりするなどの対応もあったのではないかと思います」

確かに、事業者側に戸数制限や転売防止対策を講じることが一番効果的だと思います。そうしなかった理由を再度、事業者に尋ねましたが「販売戦略に関わるので詳細は差し控えます」という返答でした。

タワーマンションの販売が始まるのは6月からです。今回の見直しで、一般世帯が少しでも購入しやすくなるよう改善されればと思います。一方で、すでに販売された2600戸あまりについては、まだ詳しい販売実態はわかっていません。

選手村跡地の再開発がどのような経過をたどっていくのか引き続き取材を続けたいと思います。
私たちはこの晴海フラッグ以外にも、空前の高騰が続く東京の不動産事情を、皆さんからの情報や意見をもとに取材していきます。ぜひこちらから投稿をお寄せください。

  • 牧野慎太朗

    首都圏局 記者

    牧野慎太朗

    2015年(平成27年)入局。宮崎局、長野局を経て2022年から首都圏局。不動産取材を担当。

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