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職場の評価に変化が やる気引き出す目標とは “上司の言葉”もポイントに

  • 2023年3月24日

「仕事で評価されないので疲れた」「評価の基準があいまいで、モチベーションがわかない…」
こうした不満を持ったことはありませんか。人手不足の中で、働く側は会社の評価をシビアに見るようになっています。また会社側も貴重な人材を逃さないよう、評価の満足度を高めようと模索しています。
「仕事を頑張っているか」という基準で評価せず、成果を徹底的に数値化した会社、評価は社員みずからが行い、それを元に給料を決めている会社など、評価の最前線を取材しました。
(「変わる評価」全2回のうち2回目/最初から読む

(首都圏局/ディレクター 高瀬 杏、竹前麻里子)

“頑張っているか”を基準にしない 成果を徹底的に数値化

去年7月に都内のコンサルティング会社に転職した、江部修堂さんです。前の職場では評価の基準が不明確だと感じていましたが、この会社の評価方法は、働きやすさにつながっているといいます。

会社が採用しているのは徹底した数値による評価です。仕事の内容ごとに細かく得点化し、その達成度合いを採点。及第点は60点で、満点の100点を目指します。

江部さんの仕事内容と評価の割合です。「内部監査計画の作成」は20点、「業務整理」は40点などとされ、合計で100点になるよう設定されています。

識学 経営推進部 江部修堂さん
「今の会社は目標に対して、結果がしっかり数値化されているので、迷いなく仕事ができます」

評価は3か月に1度行われ、すべて得点で伝えられます。江部さんと上司の面談の様子を取材しました。

まずは「内部監査計画の作成」について。配点は20点で、ミスなどがあればそこから減点される仕組みです。

上司

それでは第4四半期の、評価の確定をお願いします。

江部さん

内部監査計画の作成という目標に関しましては、基準のところがちょっと薄いですよという指摘を役員から受けました。

わかりました。指摘が1件ですので、こちらの項目から18点得られたということですね。

「内部監査計画の作成」と「運用評価手続きの対応」は減点式。「業務整理」「ルール整理」「その他」は加点式で採点します。当初、計画されていなかった仕事については、「その他」で点数に反映されました。その結果、江部さんは合わせて86点を獲得。この半年に受けた2回の評価の平均点が及第点以上だったため、昇進の対象者となり、3月に係長に昇進しました。

経営推進部 江部修堂さん
「ゲーム感覚で『次これを提案したら、これぐらいポイントもらえるかな』と考えたりしつつ、仕事しています。何をしたら給与があがるのか、何をしたら役職があがるのかというところが明確なのは、弊社のよいポイントなのかなと思いますね」

事業戦略本部 吉原将之本部長
「実績や結果を評価しています。人柄や人間性、頑張ってるとか頑張ってないということを評価することは、推奨していません。○と×がついて、社員が『あ、成長したな』と実感できる評価であれば、『じゃあもっと成長しよう』というモチベーションにつながると思います」

社員みずから評価 それを元に給料を決める

一方、評価は社員みずからが行い、それを元に給料を決めている会社もあります。社員およそ1100人のIT企業です。

営業担当の林裕子さんです。この日、上司との面談で、みずからが立てた目標の達成度合いの自己評価を伝えました。

上司

3つの項目を、それぞれ○×△で表すと、それぞれどんな感じですかね。

林さん

そうですね。“あくなき探究”のところは、まだそこには至ってないから△。“知識を増やす”ところは、今まさにめちゃくちゃ取り組んでるところなので、○の評価かなと思ってます。

林さんは3年前に別の会社から転職。当初は、みずから評価を下すことに戸惑いもありましたが、今は成長を実感しているといいます。

サイボウズ 営業本部 林裕子さん
「会社から求められる役割、成果はあるのですが、そこに向けたプロセスや、必要な経験・知識については、自分で考えて決められるので、納得感があります」

会社がこうした評価制度の導入に至った背景には、以前、離職率が3割近くにのぼっていたことがありました。働き方が多様になる中、納得して働いてもらえるよう、自主性を重んじるようになったのです。

社員はみずからの評価を踏まえ、給料の希望額も自己申告し、会社との交渉で決めることになっています。みずからの市場価値を自分で見極めることは、社員の自立にもつながっているといいます。

給与希望に関する自己申告画面

林さんは今年度、目標をクリアできたと評価し、会社側も承認。来年度、昇給することになりました。

営業本部 林裕子さん
「会社から評価というより、市場で評価をされる人になりたいと思ってるので、ちょうどよい評価制度だとすごく思います」

人事労務部 恩田志保部長
「それぞれの個人の価値観をベースに、個人の幸福とチームの生産性のバランスがとれるといいと思っています。私たちはどうあったらいいのか?いま足りないものはなんなのか?ということを、考え続けていきたいです」

相対評価をやめ社員・管理職に変化が…

大企業でも、長年続いてきた相対評価や“年功序列”といった制度を見直す動きが出ています。
社員およそ5000人が働く商社では、2年前に制度を一新しました。これまで採用していたのは相対評価。社員に順位を付け、あらかじめ決まっている枠に当てはめていました。

それを、絶対評価に変更。他者との比較ではなく、一人ひとりがノルマや目標をどれだけ達成しているか評価するようにしたのです。いわゆる“年功序列”の制度もやめました。

住友商事 人事部 人事チーム長 折原直樹さん
「『自分はしっかりやったのに、それに対する評価をされなかった。結果としてあなたは3番目の評価ですよといったフィードバックを受けた』という話も聞くことがありました。
しっかりと頑張れば、それに対して報いていきますよということを、新たな評価制度では示していきたいと思っています」

制度が変わったことで、新たな挑戦を始めた社員がいます。人材育成を担当する須田紫織さんです。

新しい情報発信手段を身につけたいとグラフィック技術などをみずから学び、部内の取り組みなどを効果的に伝える模索をしています。

モビリティ事業企画部 須田紫織さん
「今までは、すごく頑張っても、評価の面で納得感がなかなか得られない時もありました。今は自分がやればやるほど評価してもらえる土壌ができてるので『じゃあやってみようかな』という気持ちにはすごくなっていますね」

評価制度が変わったことで、管理職の意識も変わり始めています。

課長の宿谷弘樹さんです。部下の目標設定から業務の過程まで、より細かく目を配るようになりました。力をいれているのが、部下との面談です。宿谷さんが管理している部下は8 人。週に平均3回の予定が入ります。

自動車流通事業第二部 宿谷弘樹課長
「負担は増えます。増えますけど、丁寧に時間を惜しまず、労を惜まず、話をすることは心がけてます。やっぱりその一人一人の強み、持ち味も違いますので、そこに応じて、上司からの期待や役割について、部下との間で丁寧に話して、いかに個人の個性や強みが生かせる環境をつくっていくか、というところだと思ってます」

企業が評価制度を見直す背景について、人材マネジメントを研究している専門家は、働き方の多様化や、人手不足があると指摘しています。

学習院大学 守島基博教授
「かつて新卒一括採用・終身雇用・男性多数と同質性が高い社員で構成されていた会社では、一律の人事評価制度で成り立っていました。しかし近年、ひとつの企業で働き続けることが当たり前ではなくなり、女性や外国人も増え、キャリアや働き方も多様化したことで、画一的でない評価軸が必要になってきています。
さらに売り手市場と価値観の変化の中、働く側は会社を見定めて選ぶ意識が強くなっているため、企業側には人材をいかに獲得し逃さないようにできるかが求められています。このため、よりよい評価の形を模索する企業が増えているのではないでしょうか」

評価の変化は、学校でも起きています。中には通知表をなくした学校も…(記事の第一回を読む

  • 高瀬 杏

    首都圏局 ディレクター

    高瀬 杏

    2017年入局。大阪局を経て2021年から首都圏局。 ジェンダーや多様性の問題に関心を持ち取材。

  • 竹前麻里子

    首都圏局 ディレクター

    竹前麻里子

    2008年入局。旭川局、おはよう日本、クローズアップ現代などを経て2021年より首都圏局。福祉、労働、性暴力の取材や、デジタル展開を担当。

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