WEBリポート
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. WEBリポート
  4. 医師の働き方改革 2024年に迫る 影響は?看護師の活用も

医師の働き方改革 2024年に迫る 影響は?看護師の活用も

  • 2023年1月27日

61時間、自宅に帰らず働く。私たちが密着した勤務医の労働実態です。
こうした医師の働き方が大きく変わろうとしています。
これまで、勤務医は労働時間が厳しく制限されていませんでしたが、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されることになったのです。医師の働き方改革が1年後に迫る中、残業を減らそうと、休日の外来診療を休止する病院などが出ており、患者にも影響が及んでいます。
勤務医の過酷な労働実態や、看護師が医師の業務の一部を代行することで負担を減らす取り組みなど、働き方改革の最前線を取材しました。
(首都圏局/ディレクター 髙橋弦、解説委員 牛田正史)

61時間自宅に帰らず働く…過酷な勤務医の仕事

働き方改革の背景には、勤務医の深刻な長時間労働があります。その実態を知ってほしいと、千葉大学医学部附属病院が取材に応じてくれました。私たちは、外科医の仲田真一郎医師に密着取材しました。

千葉大学医学部附属病院 仲田真一郎医師

所属するのは、肝臓などの手術を専門とする肝胆すい外科。月の平均残業時間が120時間を超えることもある、特に忙しい診療科の1つです。

密着1日目。朝6時45分に出勤した仲田さんは、着替えをして病室の患者を見回ります。7時30分からは、患者の治療方針などについて話し合うカンファレンスに出席。毎朝1時間ほど行われています。

9時30分から外来患者を診察。この日は2時間半で13人の患者を診ることになっていました。その合間に、入院患者の検査も並行して行わなければなりません。

正午過ぎ、診察を終えると昼ごはんを食べる間もなく、車を運転して別の病院に向かいます。地域の病院を支援するため、週に2回ほど、派遣の依頼に応えているのです。

仲田さん

人手が足りていない病院は結構あるんですよ。やっぱり医者が足りないと思います。

派遣先の病院につくと、すぐに診察にあたります。この日、仲田さんは当直も担当しました。

20時。勤務開始から13時間。初めての落ち着いた食事の時間です。いつもコンビニ弁当や出前ですませるといいます。

 

すごくおいしいですけどね。コンビニ弁当は、毎日は食べたくないですね。

仲田さんには、妻と3人の子どもがいます。

 

子どもからしたら、父親が家にいたほうがいいのかなと思いますので、家族にはちょっと悪いなと思っています。

当直に入ると、急患の対応が深夜から早朝まで続くこともあります。
患者の中には、3日間、便が出ていないという人もいました。

つらいときは病院行った方がいいと思います。でも、昼に病院に行けるのに、夜、時間外に行くというのはちょっと…

仮眠についたのは24時。ただ、そのあとも患者への対応がありました。

当直明け 家に帰らず翌日も勤務

密着2日目、6時前に起床した仲田さん。家には帰らず、車を運転して大学病院に戻ります。

 

つらいです。拘束時間が長いですね。当直のベッドではちゃんと寝られないですし。自分が思っている以上に、疲れているだろうなとは思います。

いつものカンファレンスや診察をこなしたあと、9時45分から、腹腔鏡を使った肝臓の手術に臨みます。当直の次の日に手術を担当するのは、よくあることだといいます。

さらに診療以外の仕事にも追われます。手術の予定を打ち込む事務作業や、大学の入試関連の説明会も仲田さんの仕事です。

23時なのに、こんなにいっぱい医師が働いているんですよ。まるで平日の昼間のようですけれど、すごい時間ですよね。

そしてこの日も、2日連続の当直勤務。仮眠室に向かったのは深夜24時ごろでした。

密着3日目。
朝7時からカンファレンスや回診、外来などをほとんど休みなくこなした仲田さんは、夜8時に退勤しました。実に61時間ぶりの帰宅です。

早く家に帰りたいですね。家に帰ったら風呂に入って寝ます…

翌日は土曜日でしたが、この日も仲田さんは、朝8時から病棟で診察にあたっていました。

このような働き方は、決して特別なことではありません。他の病院でも同じような長時間労働が相次いでいます。その背景には、医師の労働時間がこれまで厳しく制限されてこなかったことがあります。

長時間労働は、医師の健康や命が脅かされるほか、私たちが受ける医療の質にも関わってきます。このため、働き方改革が迫られているのです。

働き方改革 ポイントは時間外労働の上限規制

2024年4月から始まる働き方改革のポイントは、時間外労働の上限規制です。
病院などに勤務する医師は、原則年間960時間(休日労働含む)、月の平均では80時間までが残業の上限となります(事業主にあたる開業医は制限の対象外)。この水準は一般の労働者とほぼ同じとされています。

一方、地域医療が担えなくなるなどやむをえない場合に限り、年間1860時間が上限となる特例があります。ただ、これはあくまでも暫定措置のため、一部を除いて、開始から10年程度で解消することが目標となっています。

4年前に行われた調査では、時間外労働が年960時間を超えていた勤務医は、全体の4割近く(38%)にのぼりました。

また連続勤務については、28時間以内にとどめるという制限が新たに設けられます(時間外労働が年960時間以下の医師は努力義務)。それ以降は一定の休息をとることが求められます。そうなると、仲田さんのように当直明けに手術を行うことができなくなるおそれも出てきています。

そこで、仲田さんの勤める千葉大学医学部附属病院では、2021年度から医師全員に発信器を配布し、病院内にセンサーを配置。医師の勤務実態を細かく分析し、業務で効率化できるところはないか、医師と話し合うことで、働き方改革を進めようとしています。

「診療看護師」活用で医師の負担を軽減

医師の過酷な長時間労働を改善するため、働き方改革は欠かせない取り組みですが、各地で改革が行われる中、患者にも影響が出始めています。休日に外来診療を休止する病院などが出てきているのです。

そうした中、患者への影響を最小限におさえながら、医師の負担も減らそうという取り組みが注目を集めています。

千葉県にある東京ベイ・浦安市川医療センターでは、「診療看護師」の重冨杏子さんが心臓血管外科の外来で患者に対応していました。

重冨さん

私は看護師なのですが、医師の指示にもとづいて、検査などをする資格を持っています。

日本におよそ700人しかいない「診療看護師」。看護師として5年以上の経験を積んだのち、2年間、大学院で実践的な医学知識などを学習し、「日本NP教育大学院協議会」によって認定される資格です。一定の診療行為の補助を、医師の包括的指示のもと行います。

本来、医師が時間をかけて準備する、手術方針を決めるための資料も、重冨さんが作成します。それを元に医師たちは、最終的な判断を下します。

さらに重冨さんは手術にも立ち会い、患者の経過を最前線で把握。術後は看護師と情報を共有し、その後の患者のケアについて確認します。

その間に、医師は次の手術の準備に取りかかっていました。「診療看護師」が、多岐にわたる医師の業務の一部を代行することで、手術など医師にしかできない業務に集中することができるのです。

医師

カルテを書いてたら夜中になった、みたいなことが、NP(診療看護師)がいない病院では日常茶飯事で起きていました。そういうのがなくなるので、働き方という点ですごく助かってます。

診療看護師は患者にもメリットがあります。医師が忙しい場合、患者に割ける時間は限られますが、この日、重冨さんは40分ほどかけて患者の話に耳を傾けていました。

患者

先生にお聞きできないようなことも気軽に質問できるので、すごくよいことですね。

診療看護師 重冨杏子さん
「働き方改革は、制約のある状況の中で診療の質を保ちながら生産性を上げていくことが目的だと思っています。医師がやるべきこと、看護師がやったほうがいいことの役割分担を一つ一つ吟味して、シェアしていくことが大事だと思います」

診療看護師だけでなく、一般の看護師も、医師の指示の範囲内で特定の処置などを行っている病院もあります。さらに、電子カルテの代行入力や書類の作成業務などを事務職員に任せることも広がってきています。

日本の医師は、他の医療先進国に比べ、担う業務が多いという指摘があり、こうした改革をさらに進めていくことが求められています。

患者にできることは

私たち患者にもできることがあります。

働き方改革の対象になる勤務医が多くいるのは、規模の大きな病院です。そうした病院では、できるだけ手術や救急などに力を注ぎ、初診や経過観察などは地域の診療所が担うという役割分担がますます重要になります。

症状が初期の時はできるだけ身近な診療所を受診する。緊急でなければ、夜間の救急ではなく、日中まで少し待つ。そうした意識を私たち一人ひとりが持つことが大切です。

  • 牛田正史

    解説委員

    牛田正史

    社会部記者、デスクなどを経て2021年から解説委員。社会保障、労働担当。

  • 髙橋 弦

    首都圏局 ディレクター

    髙橋 弦

    2017年入局。広島局を経て2021年から首都圏局。教育や不登校、災害・防災について取材。

ページトップに戻る