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五輪汚職事件なぜ防げず?組織委の元コンプライアンス責任者が語る

  • 2022年11月25日

東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー選定などに関連した汚職事件では、大会組織委員会で理事を務めた電通の元専務がこれまでに4回起訴されました。
これを受け、スポーツ庁やJOC=日本オリンピック委員会などは大規模なスポーツ大会での運営組織のあり方を検討するプロジェクトチームを立ち上げ11月18日に初会合を開きました。
検討の過程では、今後、組織委員会の元職員へのヒアリングが行われる予定ですが、関係者の口が重いのも現状です。

こうしたなか、組織委員会でコンプライアンスの強化に取り組んだ元幹部が自責の念を感じながら、事件の背景について、NHKの取材に語りました。
(首都圏局/記者 尾垣和幸)

取材に応じたのは…組織委の元コンプラ責任者

取材に応じてくれたのは、組織委員会の元幹部、雑賀真さんです。
元都庁職員で大会の招致段階から関わり、組織委員会が発足した2014年1月からおよそ2年間、総務局長としてコンプライアンスの責任者などを務めました。

「エンブレム問題」とは

そのさなか、組織委員会の信頼を失墜させる問題が起きました。
2015年に盗作疑惑が浮上した「エンブレム問題」です。

電通から出向していた幹部らが身内で選考を進め、特定のデザイナーが有利になるよう
不正をしていたことが明らかになったのです。

このとき、雑賀さんはコンプライアンスの責任者として、組織の立て直しを図りました。こうした経験から今回の汚職事件について考えるヒントになればとの思いに至り、取材に応じてくれました。

元コンプラ責任者が語る事件の背景は

Q. エンブレム問題を受けて、どのように不正の再発防止に取り組んだのでしょうか。

A.
不正については組織委員会が弁護士などを入れて立ち上げた検証委員会から「結果第一主義にどっぷり浸かった仕事の進め方があった」、「手続きの公正さを軽視し、コンプライアンスに目をつぶる、なりふり構わぬ働きぶり」だったと指摘されました。これを受けて、オープンで透明性の高い組織に改革していくことが必要だと考えました。
そこで、総務や、財務、大会運営、マーケティングなどの各部局の幹部が集まって重要な事業について情報を共有する「経営会議」を作りました。
また、監査と法務の権限を強化して、経営会議にかけるすべての事業については法的な問題が無いか弁護士がチェックする仕組みを作りました。

対策は形骸化か 組織の複雑化も

Q. しかし、今回、スポンサー選定などをめぐって、事件が起きてしまいました。
なぜ起きたと考えていますか。

A.
残念ながら対策が月日を重ねるうちに風化して、ある意味、形骸化したのかなと感じています。
また、組織が非常に大きくなって、複雑化していったこともあると思います。
私がいたときは、職員がせいぜい1000人ほどでしたが、最終的にはおよそ7000人に達したと聞いています。

都庁や国、そして民間企業など、さまざまな組織から出向した人たちでできた各部局は、それぞれ専門性が高く、すべてを束ねて目を通すということが難しくなったのだと思います。
このほか、大会が終われば解散する組織なので、まずは大会を成功させるということが目的となり、監査やチェックが、どこか後回しになってしまったところもあったのではないかと思います。

スポンサーに関連した業務を行うマーケティング局のほかの部局に、守秘義務が伴う契約書や契約額などの情報が共有されないのはしかたない面もあると思います。
ただ、事件当時はすでに組織委員会にいなかったため具体的にどんな報告がされていたのかわかりませんが、明らかに法的なチェックが不十分だったことは結果から言えると思います。
少なくともそこのチェックをきちんと行っていれば今回のような不正は防げたんじゃないかと思います。

特定の企業に頼る構造は

Q. マーケティング局には多くの電通社員が在籍していて、組織委員会がスポンサー契約の獲得業務を担う「専任代理店」契約を結んだのも電通でした。結果的に、スポンサー額は大会史上最高額となるおよそ3700億円となりましたが、特定の企業に頼る構造についてどのように受け止めていますか。

A. 
少しでも公金の支出を抑えて国民の負担を減らすためには、スポンサー料が必要になります。このため、スポンサー集めで専門性の高い電通に任せるのは、やむを得なかったと思います。
ただ問題は、そこにチェックが及ばなかったこと。ある面でブラックボックス化してしまったのかなと思います。結果も大事ですが、手続きの公正さがないとやはり国民の信頼は得られません。
オリンピック・パラリンピックは国民のためにあるものであり、一部の専門家集団の思いだけで進めていいものではないということは、「エンブレム問題」で指摘されたことでもあり、同様の構図で、今回の事件が起きてしまったのは残念です。

また、私個人としては、その時点では十分な組織改革を行ったつもりでしたが、そのあとが続かなかったことに対して責任は感じています。

再発防止のため何が必要か

都議会の特別委員会

Q. 今回の事件について、東京都は、都議会で「捜査を通じて事実関係があきらかになる」などと答弁するなど検証には後ろ向きな姿勢を示しています。再発防止のために、何が必要だと思いますか。

A.
私としては、札幌市が2030年の冬季オリンピック・パラリンピックの招致活動を進めている以上、事件の検証が必要だと思います。
確かにスポンサー契約の契約書や契約額は、非公開となっていて、検証に必要な資料をそろえることは難しいかもしれません。
ただ、東京大会に参加してくれた人たち、期待した人たち、汗を流した人たちに今回の事件のことをきちんと説明しないと申し開きが立たないんじゃないかと思います。そうした人たちのためにも、検証はしっかり行われなければいけないと思います。

取材後記

今回の取材を通じ、受託収賄の罪で起訴された組織委員会の元理事について、「理事という肩書きがなく、みなし公務員でなかったら、贈収賄事件にはならなかったのではないか」という意見を、大会の関係者からよく耳にしました。
ただ、ボランティアなど大会に無償で関わった人たちにとっては、事件になるならないではなく、1人の人間に多額のお金が集まる構図そのものが、納得いかないものではないかと思います。
「国民と世界のアスリートのために」をスローガンに、エンブレム問題の検証は行われたと雑賀さんは話します。
東京大会をめぐっては、組織委員会が発注した各競技のテスト大会に関連する業務の入札で複数の広告会社などが受注調整を行っていた疑いがあることも新たに分かっていて、都は組織委員会に出向した都の職員に聞き取りを行うなどして契約手続きに問題がなかったかどうか調査を行うことになりました。汚職事件の検証を行うスポーツ庁やJOCなどが発足したプロジェクトチームとともに、開催都市として都もどこまで実態に迫ることができるのか。今後を注視していきたいと思います。

  • 尾垣和幸

    首都圏局 記者

    尾垣和幸

    都庁担当 東京オリンピック・パラリンピック競技会場のレガシー活用などを取材。

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