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現役保育士たちの叫び「私たちも“崖っぷち保育”です」

シリーズ(3)保育現場のリアル
  • 2022年10月14日

「子どもがやってほしいことにすぐに応答できないのは歯がゆい」(保育士)
「今のしんどい現状だから保育士がやめるんです」(兵庫県 保育士)
保育士の置かれた厳しい現状。子どもたちはもちろん、保護者にも関わる大事な問題かと思います。みなさん、一度、保育士たちの切実な声に耳を傾けてみませんか。
(保育取材班)

保育士が3歳児20人を相手に1人で奮闘する保育現場のリアル
戦後ほとんど変わらない保育士の配置基準
その厳しい現状をテレビやWEB記事で紹介したところ、全国から多くの反響を寄せていただきました。ありがとうございます。
なかでも特に多かったのは保育士たちからの声です。
そうした声のいくつかを紹介します。

<関連記事>
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変わらない配置基準なぜ? 国に聞いた 保育士のリアルに密着 シリーズ(2)保育現場のリアル
「保育園の民営化」に対応迫られる保護者 さいたま市

ご意見も引き続き寄せてください。

保育士たちに集まる共感

保育士 女性
「けがや事故がないようにと気を張りつめて監視のようになってしまうことがとても心苦しいです。せめてもう1人保育士が部屋にいれば、子どもたちに手厚い関わりや、その子に合わせた保育ができるのに、と日々悩んでいます。子どもたちにも『ちょっとまっててね』と我慢をさせてしまう事がとても申し訳ないです」

長野 50代女性
「現場で働く保育士です。子どもたちは10人いれば本当にさまざまです。1時間でも構いません。保育現場に足を踏み入れて、現場で子どもと関わってみてください」

愛知県 女性
「保護者の共働きが当たり前となり、1歳児で就寝時間が23時というのも当たり前となりつつあり、子どもたちは疲れてイライラしています。このような現実があるため、長時間過ごす園では少しでも家庭的に、保育者に気持ちを受け止めてもらいながら安心して過ごさせてあげたいのですが、ギリギリの配置基準では無理があります」

北海道 40代女性
「保育士をしています。現場は保育士を増やしてほしいけど、国の基準がそうだからというだけで保育士を増やしてもらえず、職員は時間外勤務をして保育を守っています。こうした現状をとりあげてもらいありがとう、と大声で叫びたい気持ちです」

40年で保育はこんなに変わった…

現場の保育士たちから上がる声は切実でした。
私たちは、反響を寄せてくれた人たちと連絡をとり、そのうちの1人を訪ねました。
 

埼玉県に住む仲葉子さん(61)です。保育士歴41年で、今も現役の保育士です。
挨拶をして、なぜ投稿してくれたのかと伺うと「保育の大変さを描いた4コマ漫画とか、もう1人保育士を配置してほしいという企画をみて、本当にその通りだと思ったんです。ぜひそれを保育士以外の人たちにも知っていただきたい」と返してくれました。

変わる保育 “管理”から“主体性”へ

私は、長い保育士キャリアをもつ仲さんにまず聞いたのが、今の保育の特徴です。
すると、40年前との違いをこう説明しました。

仲葉子さん
「今は子どもの主体性を大切にしようとしています。子どもの思いを大人がしっかりと受け止め、子どもがこの人になら安心して何でもいえる環境をと思っています。これに対して、昔はわりと管理的というか、先生の指示にしたがって動きましょう、みたいなところがありましたけど、今は一人ひとりを大事にというふうに保育が変わってきているように思います」

小学校でも昭和の“管理教育”から平成の“ゆとり教育”などと時代ごとにその教育方針は変わってきました。保育所も長い目でみると、保育の方針が変わってきたということでした。
 

若手保育士として奮闘する仲さん

さらに、もう一つ大きな変化としてあげたのが「保育の長時間化」です。

「昔より保育時間が本当に長くなっています。こちらでも12時間開園しているところや、公立ですと13時間開園しているところもあります。子どもたちもより長く保育所で過ごすわけなので、ゆったりと過ごせるような場であってほしいと思っています」

一方で、40年たっても変わらないものとして仲さんがあげたのが保育士の配置基準でした。

「保育の質が変わっているのに配置基準は40年間、変わりません。子どもたちがのびのび過ごせるよう努力はしていますが、今の配置基準では限界があるなというのも感じます。先生の休み時間がなくなってしまったり、トイレにさえいけなかったりします。子どもをずっとみていないと、危険がおきてしまいますから」

今の配置基準で保育することの難しさを語ってくれた仲さん。さらに、それは保育の質に影響すると強調しました。

「子どもってたいしたもので、大人の表情をよんだり、今はだめだと思うと我慢したりするんです。それができる子どもは多いので、大人があまり忙しくしていると自分の思いを出さないよう我慢したり、お利口さんにしたりして過ごしてしまうお子さんもいます。本当は自分がやりたりことなどをしっかりと言えるような子に育ってほしいなと思っています」

子どもたちに囲まれて

保育経営者 現場責任者からの訴えも

寄せられた投稿のなかには、各地で保育所を経営している人や園長からのものも含まれていました。そうした人たちの意見として多かったのは、今の保育士の配置基準で園を運営していくことの難しさです。

東京 保育所経営
「記事に大きくうなずきました。都内で株式会社による保育所を運営していますが、保育の楽しさを知る前に大変さやこわさだけを知って、保育士の道を諦めていく若い保育士さんも少なくないです。子どもの主体性や個別性を大切にする丁寧な保育の実施、今後選ばれる保育園になるために質の向上、そんな時代の流れに応答するためにも配置基準の見直しは必要だと思っています」

東京 保育所運営者
「少子化進行の中、待機児問題が解決されつつあるのは望ましいですが、事業者にとっては収入減リスクが表面化しつつあり、その中で人員を増やすという選択肢は取りにくい園も少なくないように思われます。今は人手が足りないかもしれませんが、さきざき子どもが減って保育者が余りぎみになるというのはモチベーションの点でも望ましくありません」

実際にインタビューに応じてくれた方もいました。東京の認証保育所で施設長を務めている長野恵美さんです。保育士歴20年の長野さんも今の配置基準で園を運営することの難しさを感じています。

長野恵美さん
「今の配置基準だとこぼれてしまう子どもがいるんです。大人もそうですがアピールできる人とできない人がいて、後者の場合、見落としてしまうことがあるかもしれないと思うんですよね。『もう1人の目があればな』、といつも思います。あと、1人の担任だと1人の価値観に偏ってしまうこともあります。複数の目でみないと価値観の植え付けにならないかとも思います」

さらに、限られた数の保育士が過度に働きすぎることへの懸念も口にしました。

「どうしても保育士に余裕がなくなると、気持ちが後ろ向きになってしまいます。大人が生き生きとしないと子どもに伝わるので、先生たちには笑顔で過ごしてほしいと思います。だから保育士のみんなも休憩はとろうねと、自分の心も大切だよと伝えています」

そのうえで、こう締めくくりました。

「親御さんも日々働いていて、お父さんもお母さんもいっぱいいっぱいです。そんななか、私たち保育士も仲間ですよ、家庭だけでなくみんなで子どもの育ちをみましょうよと伝えたいです。それこそ地域全体、社会全体でみることの第一歩だと思っています」

今回紹介した投稿はいただいたものの一部です。ほかにも、安全性、地域間の保育格差、保育士の処遇や保育の質の問題などについて、さまざまな意見がありました。さらに、保護者の方々からもそうした保育士の現状を心配する声もありました。私たちは取材を続けますので、引き続きみなさんからの意見、お待ちしています。 投稿フォーム よりお聞かせ下さい。

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