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急増?校内での盗撮被害 低年齢化する加害者 一体何が…

#本気で痴漢なくすプロジェクトNO.10
  • 2022年8月18日

先日SNSで驚きの投稿を目にしました。あるタグで検索すると、画面に映し出されたのは明らかに学校内で盗撮された画像の数々。投稿している人のプロフィールを見ると、真偽はわからないものの、現役の高校生であるといいます。
安心できるはずの学校内で平然と盗撮が行われているという事実に衝撃を受け、一体何が起こっているのか取材することにしました。
(首都圏局/ディレクター 田中かな)

SNSで拡散される盗撮画像 スマートフォンが拍車かける

「1日でこれくらいは出てきます」
画面いっぱいに映し出されたのは盗撮画像。それも、校舎の階段を登る女子のスカートの中や、教室で着替えを行う最中の女子の姿など、明らかに学校で撮られたとみられるものばかりです。

盗撮被害を最小限にとどめるため、ネットパトロールを行う団体「ひいらぎネット」では、代表のりすさん(仮名)ほか数名が活動しています。およそ2年前から、毎日盗撮に関するいくつかのキーワードでインターネット上を検索。盗撮画像を発見したら関係機関に通報・報告し、画像被害が拡散することを防いでいます。

りすさんへのオンライン取材の様子

りすさん
「校内の盗撮で多いのは、学校の階段で撮影されたものや、スマートフォンを忍ばせたカバンをまたがせて撮ったような写真です。更衣室や教室にカメラを設置し、着替えの様子を撮影しているようなものもあります」

「ひいらぎネット」では、インターネット上で盗撮画像を発見すると、画像に映る制服などの情報から、どの学校や地域で発生した事例であるかを特定し、必要に応じて警察や学校・教育委員会などへ通報しています。

活動を始めて1年半で30件以上通報しましたが、1件の通報では写真や映像を複数まとめて通報しているため、実際の被害件数はさらに多いと話します。

さらに校内で盗撮された画像や映像は、隠語のハッシュタグをつけて拡散され、SNSのコミュニティでやりとりされていることもあるといいます。

盗撮を行うSNSアカウント

りすさん
「写真は販売しているケースもありますし、単純に自分の撮影したものに“いいね”がつくのが楽しくてやっているのかなと見受けられるものもあります。
今はスマホ1台あれば、撮影してSNSにアップロードして、それからお金のやりとりまで全部完結できてしまいます。その手軽さが若年の加害者にとって、盗撮のハードルをすごく下げてしまっているのではないかと思います。
最近は、フォロワー数が増えてアカウントが目立ってくるとすぐにSNSの運営者がアカウントを凍結するようになってきてはいます。ただその分、また別の狭いコミュニティのSNSに移行しているので、数は減ったわけではなく、地下に潜りつつあるのかなという印象は受けていますね」

同級生からの盗撮でうつ状態 自傷行為にも

SNSで盗撮被害について調べていると、同級生から被害に遭った経験を投稿している女性を見つけました。
中学3年生の時、実際に同級生からの盗撮被害にあったというナツミさん(仮名・20歳)です。被害に遭う人を少しでも減らせるならと、当時の話を聞かせてくれました。

ナツミさん
「トイレの個室に入り下着を下ろしたとき、隣の個室からスマートフォンの録画音がしました。不思議に思って頭上を見ると、スマートフォンのカメラと目が合いました。撮影していた人は見たことのある顔だったので、学年と名前もすぐにわかりました。帰宅して親へ相談し、翌日に学校へ連絡、その日のうちに警察へも連絡。その時は、まさか自分が…という驚きと緊張でドキドキしていました」

その後の警察の取り調べで、インターネット上に写真が流出した際の怖さを伝えられたナツミさん。恐怖と不安で人の視線に敏感になり、うつ症状に苦しみました。ひどい時は、自傷行為も繰り返したといいます。

ナツミさん
「友人に言いふらされていたりしたら…と考えることもあり、みんなが敵に見えてしまう時期もありました。学校内のトイレに行くのもかなり怖く、次第に教室に入れなくなって保健室登校に。学校に行くのすらつらい時は休んだり自主学習という形を取りました。学校や教室に行こうとすると頭痛、腹痛、吐き気、動悸、息切れやめまいなどがひどく、体も重だるく、指先1つ動かすのもつらかったです。涙もろくなったりカッとなりやすかったり、とにかく引きこもりがちで情緒不安定になっていました」

加害者は、ナツミさんと両親の要望で出席停止になり、その後転校。ナツミさんの精神状態は、友人や家族の支えがあり徐々に安定してきましたが、心の傷は一生消えることはないと話します。

“学生間の盗撮は増加傾向”

若年層のネットトラブルの相談に応じる全国ICT カウンセラー協会によると、正確な統計はないものの、校内盗撮に関する相談件数は年々増加しており、学校側からスマートフォンやタブレット端末使用の指導について相談を受けることもあるといいます。

学校A)「生徒間のグループチャットで盗撮写真が出回っているようだが、どのように削除させればよいか?」

学校B)「隠し撮りを行う生徒にどのように指導したらいいのか?」

生徒A「盗撮された画像がネットに出回っていないか調べる方法はありますか?」

生徒B「友達の盗撮写真がグループチャットで回ってきたのだが本人に伝えるべきですか?」

全国ICT カウンセラー協会代表理事 安川雅史さん 
「生徒間の盗撮に関する相談は年間50件程受けています。生徒間の盗撮は、とくに新型コロナが始まった2年前頃から顕著になっていると感じます。学校の授業でタブレットやスマートフォンなどカメラ付きの端末を使うことが増えたため、そうした端末での盗撮が増加しているのです」

警察庁の統計によると、令和元年の盗撮事犯の検挙件数は3953件。平成22年の1741件から倍以上増加しています。しかし安川さんによると、生徒間の盗撮は当事者間の話合いなど、学校内で処理されてしまうことも多く、なかなか表に出てきづらいのだといいます。

“撮ること”の重み 教育が必要

実は、生徒同士の盗撮は、撮る側に明確な悪意がある場合は少ないと安川さんは指摘します。
最初は面白半分でしていた隠し撮りがエスカレートし、やがて相手を傷つける行為に発展していったというケースが多いというのです。
安川さんは、そうした「面白がっている」段階から防止していく必要があると考えています。

全国の学校を回り、年間200件以上行っている講演では、盗撮加害者にならないためのスマートフォンやSNSの使い方についても、生徒や教育関係者へ伝えています。

〇生徒へ
・たとえ性的な写真でなくても、相手に無断で写真を撮らない
・撮った写真を無断でSNSに載せない

〇教育関係者へ
・学校でのスマートフォンやタブレットの利用を制限するなど、使い方のルールを決める
(ex.あくまで授業の道具としてのみ使い、授業時間以外は持ち歩かせないようにするなど)

さらに家庭での使い方についても、こう指摘します。

安川さん
「親は子どもに対して、スマートフォンやSNSの使い方のお手本を示してほしいです。今は、親が子どもの写真を許可なく自分のSNSに載せることがありますよね。親はわが子のかわいい写真やエピソードを共有しただけだと思っていても、子どもにとっては恥ずかしい画像かもしれません。家庭のなかでそれが当たり前になっていると、たとえ他人の写真であっても、無断で撮影し誰かと共有することに疑問を持たない子も出てきかねません。子どもが誤った使い方をする前に、ぜひ家庭の中でスマートフォンやSNSの使い方について話し合ってみてください」

取材を通し、タブレットやスマートフォンといった便利な機器の普及とともに若者が盗撮加害者となるリスクが急速に高まっていると知りました。
子どもたちが安心して学校生活を送るためだけでなく、加害者にしないためにも、まずは身近な機器やSNSの正しい使い方を学ぶことが第一歩です。しかし、そうした教育はまだまだ進んでいないのが現状です。学校だけでなく家庭でも、子どもたちと話し合っていく必要があると感じました。

今後も「#本気で痴漢なくすプロジェクト」として痴漢や盗撮についての取材を継続していきます。
痴漢被害に関するご意見をこちらの投稿フォームにお寄せください。

  • 田中かな

    首都圏局 ディレクター

    田中かな

    2018年入局。秋田局を経て2021年から首都圏局。 秋田局在籍中から自殺や障害者に関するテーマについて取材。

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