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新時代の移動手段・電動キックボード 安全性と利便性の両立には?

  • 2022年7月8日

“手軽で便利”を売りにした電動キックボード。急速に広まる一方、危険運転などによる事故も増えています。さらに、「性能によって異なる交通ルール」も、世間に浸透しているとはいえない状態です。
本来、正しく利用すれば快適なはずの電動キックボードを安全に普及させるためにはどうすればいいのか。業者や自治体の模索が続いています。

夜間の飲酒運転をなくせ!

いま、深刻なのが「夜間の飲酒運転」です。
警視庁によると、ことしに入ってから6月までに、都内では電動キックボードの飲酒運転で23人が検挙されています。
都内を中心に約1800か所の貸し出し拠点を設置する電動キックボードのシェアサービス会社では、危険運転への対応を迫られています。

この会社では利用者に対し、運転免許の登録や交通ルールテストの全問正解を義務づけてきました。利用者の重大違反を確認した際は、利用登録を抹消し、二度と利用ができなくなる措置もとるなど、安全対策を講じてきたといいます。

それでも相次ぐ違反運転者にどう対応していくべきか。
運営会社が新たにとった策は、「貸し出し拠点や利用可能時間の見直し」です。

6月下旬の深夜、運営会社の社員たちが視察に訪れたのは、六本木の歓楽街です。
注目したのは、飲食店に置かれていたポート(貸し出し・返却場所)。
周囲には、深夜まで営業する飲食店が多く、飲酒運転を行う利用者が出る可能性があります。

運営会社では警察と協議し、繁華街の一部の貸し出しポートでは、深夜・週末の時間帯、電動キックボードの利用を一時制限することを決めました。

一方でオフィス街も近く、電動キックボードを深夜帰宅の足として利用するサラリーマンも多い六本木。
運営会社では、制限をかけることで、正しい乗り方をしている利用者に影響が出ることを懸念しています。

運営会社
「本来は恐らく一部の違反行為を行う人のせいで、電動キックボードが使えず、徒歩かタクシーで帰らなければいけなくなってしまうと思うんですね。そうすると余計な出費になってしまったり、疲れてしまったりということになるので。
本来何も悪いことをしていない方々も、使えなくなってしまうというのが今回の措置で難しい点だと思っています。
新しい乗り物がどんどん世間に出ていくタイミングなので、安全性を最重視して啓発に注力するためには今回の措置が最善だと思うのですが、それでご不便をおかけするという事実があると思います」

走行エリアを設定して事故を防げ

利用者のモラルだけに頼らず安全を担保できないか、対策に乗り出した事業者もあります。
ことし1月、横浜市で社会実験として電動キックボードのシェアリングサービスを導入しました。
新港みなとみらい地区や横浜中華街周辺など、主要な観光地に電動キックボードの貸し出しポートを設置。電動キックボードを利用してもらうことで、点在する観光スポットの回遊性向上や、街の経済活性化を狙っています。

導入した事故防止対策は、「ジオフェンス機能」です。
まず、電動キックボードを走らせてよいエリアを仮想的な境界線で囲みます。
電動キックボードにはGPSを装着。その位置情報を利用し、車体がエリア内のどこを走っているか、記録しています。

あらかじめ定めた走行可能エリアから電動キックボードが出ると、アラーム音がなり、アクセルの操作ができなくなります。
この仕組みのおかげで、現時点まで事故はゼロ。
今後、人通りが多いエリアでは低速運転させる仕組みの導入を検討しています。
事業者はこうした安全対策を行いながら、貸し出しポートを増やしていきたいとしています。 

横浜市の電動キックボードサービス事業者
「アラームが鳴ることによって、自分が走行エリア外に出たということがわかりますので、常に安全が担保されたエリアでご利用いただけます」 

“安全な普及には、走る場所・乗り方のルール作りを”

電動キックボードを安全に利用するためにはどうすればよいのか。
長年、都市の交通について研究する東京大学の中村文彦特任教授に話を聞きました。
中村さん自身、大学のキャンパスで電動キックボードの実証実験を行ったことがあります。
その経験から、安全な普及のためには「走る場所・乗り方のルールづくり」が必要だと指摘します。

中村特任教授
「利用者が交通ルール違反を認識しておらず、違反をしても警察に捕まることが少ないということに問題があります。利用者への交通ルール周知の徹底や、取り締まり活動が大切だと思います。
また、日本の道路空間は限られていて、いまだに多くの道路で車が優先になっています。
歩道と車道の2区分しかないところで、新しい乗り物のルールを決めるには時間がかかります。そのため、電動キックボードのルール作りには、実証実験が必要です。
例えば、1本の車道を電動キックボード専用レーンにして走行させ、乗り方や交通ルールを作っていくというものです。海外ではすでに電動キックボードは普及していますから、それらを参考にしながらさまざまな検証を行うべきだと思います」

社会の中には、「電動キックボード=危険な乗り物・規制すべきもの」という意見もありますが、中村さんはそうした声に異を唱えています。

「新しい技術に対して、可能性を否定することはしてはいけないと思います。
電動キックボードは、正しく使えば便利で楽しい乗り物です。
高齢者や障害がある方々が外出しやすくなり、車や公共交通機関を使わなくても
気軽に移動できるようになるなど、電動キックボードにはさまざまな可能性があります。
安全に普及させるためには「誰が・どんな場面で・どうやって使うのか」ルールを作り、社会全体で交通事故をなくす仕組みを考えていくべきです」

合原アナ電動キックボードに乗ってみたの記事はこちら
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