「同性が好きかもしれない」
「体は男性だけど、男性と扱われることに違和感がある」
性のあり方の悩みなどを抱えた高校生を主人公にしたエッセー漫画が完成しました。
この本は、LGBTQなど性的マイノリティーの中学生や高校生が、どんな気持ちで学校生活を送っているのかをリアルに描いたエッセー漫画です。モデルになっているのは若者たちの実体験からの悩みや葛藤でした。
(首都圏局/記者 浜平夏子)
LGBTQなどの性的マイノリティーの人たちを社会に広めたいと、エッセー漫画が完成しました。漫画に登場するのは6人の高校生。
実は、それぞれが自分の性のあり方や友だちとの関係に悩みを抱えています。
高校生たちの日常での悩みや葛藤などが優しいタッチで描かれたこの本は、構想からおよそ1年かけてLGBTQなどの若者やその友人の体験を、当事者たちから聞き取りながら制作されました。
モデルとなったひとり、中岸巧さん(23歳)です。小学生の時、自分が好きになるのは同世代の男子だと気づきました。しかし、それがすぐには恋愛感情だとは思いませんでした。
中岸巧さん
「小学3、4年生の頃から男の子のことを好きかなという気持ちがあったんですけど、それが恋愛感情なのか分からなくて、小学生の頃は、中学生になったら自分も周りの子と同じように女性を好きになるんだろうなと思っていました。でも、歳を重ねるごとに女性が恋愛対象ではなく、男性の方が好きだなと思うようになりました」
しかし、その思いが恋愛感情なのだと、はっきり分かれば分かるほど、つらさが増したといいます。つらい思いを抱えたまま孤立を深め、高校を中退。自宅に引きこもる日々を送りました。
中岸巧さん
「学校では先生からLGBTQなどについて教わることはないし、“隠された存在”だと感じていました。当時の自分は、LGBTQなどの人たちが社会の規範から外れていると感じていて、同性愛者だというのを自分で認められなかったのです」
高校を中退したあと、親のすすめで高卒認定を取得し、大学に進学した中岸さん。気乗りしないキャンパスライフでしたが、大学でLGBTQなどの当事者の学生たちが活動する姿を目の当たりにして、自分自身を見直すきっかけになったといいます。
学生たちが、当事者たちの居場所作りを進める様子など、自分らしく生きる姿を見て「悩んでいた当時の自分が、多様な性のあり方などについて、もっと知識を得る機会があればこれほどまでに苦しむこともなかったのではないか」、そんな思いに至った中岸さんは「自分のように悩みを抱える若者の助けになりたい」とエッセー漫画の制作にチームの一員として参加することにしました。
本の制作にあたったのは、LGBTQなどの人たちを支援する団体「プライドハウス東京」です。編集者と当事者が対話を重ねることで、本づくりが進みました。
学校以外で子どもがLGBTQ+や性の悩みにアクセスできる情報も載せたい。
もしかしたら、あのときあの子にいったことばが傷つけたかもしれないという気付きや発見を考えてもらえる作品を作りたい。
LGBTQ+に関する基礎知識のパートでは、いきなりLGBTQ+について書くというのではなく“ふつうってなんだろう”っていうところから考えていきたい。
中岸さんは、悩んできた当時、誰にも言えなかった思いを文章で提出しました。文章のタイトルは「仮面」です。
仮面
『僕は、人に隠している秘密がある。
男性が好きなこと。女性を好きになれるかは分からないし、知らない。
ふと、生きることを難しいと思う瞬間がある。恋愛の好きに、友情の好きをぶつけられる時――。好きな友達から、友達としての信頼をぶつけられる時――。僕は、その瞬間、自分を罪深いと感じる。相手の示す友情に、本当は友情で返していない僕がいるから。男性が好きって事実は、今のところ、どうしようもなく僕を苦しめている。僕は問題だらけかもしれないが、問題だらけだから、人よりも多くの優しさを持てると信じたい。つらい、しんどい、苦しいって感情を知ったからには、それを前に向けたい。前に向けられる人でありたい。』(一部抜粋)
こうして完成した当事者の思いが込められたエッセー漫画。完成した本の登場人物の思いをつづったエッセーは、中岸さんの文章がもとに構成されていました。登場人物のLGBTQの高校生も悩みや葛藤を抱えながら、信頼できる友人の存在で、自分らしく生きる一歩を踏み出していきます。
本は予約販売されるほか、学校現場にも置いて当事者の子どもたちにも読んでほしいと寄付されるということです。
中岸さんは、仮面の裏側のつらさを知っているからこそ、優しくなれる、誰かのためになれると信じています。
中岸巧さん
「もし自分みたいにつらい気持ちを抱えている子がいたら『ひとりじゃないよ、いろんな子がいていいんだよ』って伝えたい。悩んで苦しむだけじゃなくて前を向いて飛び立ってもらえたらいいなって思いもあって、希望になれるような本になったらいいなと思っています」