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痴漢加害者が語る“達成感と支配欲” 再犯防ぐ認知行動療法とは

#本気で痴漢なくすプロジェクトNO.6
  • 2022年4月28日

「見ず知らずの人だし、触るくらいいいだろうと。女性が傷つくなんて全く考えませんでした」
これまで2000人近い女性に痴漢行為をしてきたという人物のことばです。
痴漢は被害者の心や体に深刻な影響を与える性暴力であるにもかかわらず、なぜ加害者は痴漢をするのか、取材することにしました。そこで分かったのは、被害者の「人格」を無視し、身勝手な理屈で行為に及んでいるという実態でした。

※この記事では、性暴力被害の実態を伝えるために、加害者の発言を掲載しています。フラッシュバックなどの症状がある方は留意してください。
(首都圏局/ディレクター 二階堂はるか)

痴漢・盗撮被害に遭った、または目撃したことはありますか?
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加害者への取材 なぜ痴漢行為をするのか

「#本気で痴漢なくすプロジェクト」には、スタートから1か月ほどで90件を超える投稿が寄せられています。その大半が過去に経験した痴漢被害について、その深刻さを訴えるものでした。
痴漢はなぜ無くならないのか。被害を減らす糸口を探るためには加害者の実態を知る必要があるのではないか…その思いから痴漢行為をしたことがあるという人物に取材を申し込みました。

2000回に及ぶ痴漢“日常の一部だった”

それが、冒頭の発言をした43歳。10代の頃から痴漢行為を繰り返し、複数回逮捕されたことがあります。最近では、強制わいせつ致傷事件を起こし、5年2か月服役したのち、1年ほど前に出所したといいます。
現在は精神科のクリニックに通い、性犯罪加害者の治療プログラムに参加しています。出所してから再犯はしていないといいます。

Q.痴漢行為の回数は?
「正直、具体的に回数と言われるとわからないです。本当に引かれるかと思いますが、1000、2000レベルの回数ですね。1日1回ということもあるし、複数回もあるし、ここ数年は日常生活の一部と化していました」

スリルからストレス発散へ

Q.痴漢は性暴力にも関わらずなぜしようと思ったのか? 
「一番最初にやった時はちゅうちょしていたと思います。自分の中で『絶対ダメだ』と。でも、触りたい欲求が勝ってしまって、一回だけなら大丈夫かもしれないと。女性が悲鳴をあげることや、やってはいけないことをやるスリル、見つかるか、見つからないかというスリル、そこから始まったのかなと思います。
その後は葛藤や悩み、うっぷんを痴漢で解消するようになりました。彼女が欲しいけど、うまくいかなかったことは大きいですね。婚活をしていましたし、普通にお見合いの場も経験したのですが、なかなかうまくいかなかった。そこで落ち込んじゃって、落ち込みを解消するために、好みの女性を見つけて痴漢行為をする。あとは、職場の対人関係がうまくいかないなどで悩んだときに、その解消の1つとして使っていました。不安やモヤモヤが蓄積された時に、スカッとするために痴漢をするケースが多かったです」

痴漢で得ていた達成感

「やってはいけない」と認識しながらも、行為を繰り返しました。やめることができなかった原因として語ったのは、痴漢行為によって得る「達成感」だったといいます。

「この場所で、こういうやり方でと計画して、そのとおりにできた達成感だったり、自分の好みの女性に対して痴漢できたことの達成感。触る場所に対しての達成感もあります。
一度それを味わっちゃったので、またその興奮を味わいたい、やっちゃいけないのはわかっているけど、今日だけそれを味わってやめようと。そんなことを常に考えながらも、毎回それを繰り返してきました。10分くらいで終わりにしようと考えていても、次の人、次の人と、結局、何時間にも及んでいたこともありました」

被害者の傷つき考えない 根深い“認知のゆがみ”

取材を通してもっとも強く感じたのは、痴漢をする相手のことを、心をもった1人の人間だと認識できていないということでした。

「顔見知りの人にはできません。被害者は本当に見ず知らずの相手なので、万が一、見つかってもばれないかもしれない。だからこそ、痴漢できそうな状況があったとき、今がチャンスだからやらなければ後悔する、もったいない、常にそういう意識がありましたね。
自分より年下、あるいは同学年であれば、触ってもいいだろうと。痴漢をすると被害者が生まれるとか、女性が嫌がって傷つくとか、傷つき方がどうなのかは、まったく考えていませんでした。女性に対し軽く考えている、女性軽視、見下しているというのは常にあったと思います」

服役中に性犯罪加害者の処遇プログラムに参加し、いまも専門のクリニックで再犯を防ぐための治療を続けています。

Q.被害者に対していまどう思うのか?
「軽はずみのことは言えないです。ただ本当に申し訳ない。
でも正直な気持ち、申し訳ないとか、やってしまったことへの反省や後悔はもちろんあるのですが、どこかで他人事みたいなのはあるんです。そこは長い時間をかけて向き合って、被害者が苦しんでいる以上のことは無理かもしれないけど、近づきたい。自分で克服して、被害者の気持ちを理解してそれに伴う生き方をしたい」

被害者への謝罪の気持ちと、本当の意味では被害者の気持ちを理解できないという言葉。この大きな“溝”に加害者のものの見方のずれ、「認知のゆがみ」の根深さを感じ、私はただ黙ることしかできませんでした。

加害者の治療「認知行動療法」とは

加害者のこうした身勝手な認識を変えることはできないのでしょうか。
横浜市にある大石クリニックでは「認知行動療法」と呼ばれる心理療法による性加害者への治療プログラムを行っています。
これまでに参加したのはおよそ2000人、痴漢と盗撮をしたという人たちが半数を占めているそうです。

3か月間を1つの単位として行われる「性のプログラム」。
誤った認識に気づき、行動を変えていく認知行動療法によって、再犯防止を目指そうというものです。

臨床心理士・浅野さん
「社会に対して理不尽な思いがあり、その仕返しとして性加害行動をして復しゅう心を満たそうとする人や、競争社会の中では負ける体験をしたが、性加害することで達成感や優越感を得られるという人がいます。また、誰かに認められたい、受容してもらいたいという欲求を性加害で満たそうとする人もいます。その満たされなさやもの足りなさと向き合い、どういう生活が自分にとって最善なのかを模索していきます」

 ●行動を変える
プログラムの内容は、これまでの行為を振り返り、どのような場所や状況がきっかけになっていたのかを書き出すよう促します。

そのうえで、それを避けて生活する方法を考えます。
例えば「電車やバスはすいているところに乗る」「エスカレーターは男性のうしろに乗る」「女性が近づいてきたら場所を移動する」など、行動の選択肢を増やし、実践していきます。

●誤った認識に気づく
また、性加害を正当化する認識が誤りだと気づけるよう促すプログラムもあります。

このプログラムでは、加害行為をした時にどのようなことを考えていたか、説明してもらいます。

 

臨床心理士

加害に至ったときはどんな状況でしたか?

性加害を
した人

向こうもこっちに気があるのではという勝手な思いあがりでした。それで少しぐらいは(加害しても)大丈夫だろうと。

 

性加害を正当化する考え方は以下の3つあるといいます。

1)自分への正当化
例:ストレス発散のためにこれぐらいやっていいだろう

2)相手への正当化
例:短いスカートをはいているのは性加害されてもいいと思っているからだ

3)状況の正当化
例:夜に1人で歩いているということは性加害されてもいいという意味だ

こうした認識を、臨床心理士などのスタッフと繰り返し対話を重ねることで「間違いだ」と自覚させます。

現在、このプログラムには週にのべ100人が通っていますが、途中で離脱してしまう人も少なくないといいます。
誤った認識に気づき、行動を変えることの困難さに直面しながらも、クリニックでは粘り強く関わり続けていくことが被害の抑止には不可欠だとしています。

臨床心理士・桑名陽平さん
「まずは被害者の方を一番に考え、被害者をこれ以上出さないためにどうすればいいのかという観点で治療を行っています。本人の認識と世間の感覚にずれがあるという方に向き合って話をするのは、かなり忍耐力がいる作業ではあります。気づきや変化を促していく中で少しずつでも変わっていることを信じ続けながら関わっていくのがとても重要だと思います。人が変わるというのは時間がかかるプロセスですので、そこに根気強く付き合っていく過程に意味があると思っています」

  • 二階堂はるか

    首都圏局 ディレクター

    二階堂はるか

    2016年入局。沖縄局、ニュースウオッチ9を経て現職、2年ほど前から「性暴力」をテーマに取材。

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