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痴漢被害 “何年たっても消えない心の傷” 寄せられた声から

#本気で痴漢なくすプロジェクトNO.5
  • 2022年4月25日

“中学生のころから痴漢の被害を受けた”という30代の女性。投稿フォームに意見を寄せてくれたことから取材が始まりました。しかし後日、記者に届いたのは「電話を切ったあと、急に怖くなった。どうきがすごいのでカメラを前にした取材は難しい」という内容のメールでした。
痴漢被害という“性暴力”による心の傷は何年たっても消えないことを改めて感じました。「#本気で痴漢なくすプロジェクト」として痴漢被害の実態を放送したところ「これまで誰にも話すことができなかった」と、被害を受けた人たちから次々と声が寄せられています。
(首都圏局/記者 岡部咲 金魯煐・ディレクター 二階堂はるか)

痴漢・盗撮被害に遭った、または目撃したことはありますか?
あなたの体験やご意見をこちらの 投稿フォーム にお寄せください

日々 痴漢に遭いながら登校していました

話を聞かせてくれたのは、投稿フォームに意見を寄せてくれた30代の女性。女性は、中学生のころから社会人まで「今月は痴漢に遭わなかった」という時がないほど、痴漢被害に遭っていたといいます。電車通学だった中学生の時、登校途中の電車内でスカートの下に体操服の短パンをはいていたのに、パンツの中の素肌にまで触られ、やっとの思いで学校にたどり着いて担任の先生に号泣しながら被害を訴えたことを今でも鮮明に覚えています。

ある時は、電車で目の前に座っていたサラリーマン風の男から足を触られたうえに股をつかまれる被害に遭い「さわらないでください」と勇気を出して言ったにもかかわらず、周りの乗客が何もしてくれなかったことが、触られたこと以上にショックで、それ以来被害に遭っても声を出すことが怖くなりました。

女性
「周りの乗客の『女の子が騒いでいるな』くらいの、冷たい視線を感じたのを覚えています。学校に行くのに性犯罪に巻き込まれるのは異常なことで、何年たっても触られた時の感触が消えず、思い出してしまって風呂で過剰に体を洗う日があります。大人になって、同世代の友人の男性から『痴漢されても、されっぱなしなの?』『声出せばいいじゃん』などと言われますが、『声を出したら助けてくれるの?』と聞きたいです。女性の同僚からは『被害に遭うのは若くて魅力があるってことじゃない』と言われたこともありますが、被害に遭うのに年齢、容姿、服装は関係ないと思います」

心に傷を押し込めて過ごしてきた15年

就職してからは、痴漢に遭わないために朝5時台に家を出て、すいている時間帯に電車に乗り、始業までの2時間をカフェで時間をつぶすという生活を続けていました。しかし、結局仕事を辞め、電車での長距離移動をしなくてすむ近くの会社に転職をしました。

女性
「痴漢の被害で、中学のときは泣いたり傷ついたり落ち込んだりしていましたが、いちいち心を動かしていると学校や会社にも行くことができなくなるし、『今日もいやなことがあったな』と思うくらいにしてきました。人に言っても『また遭ったの?』程度に言われると思うと、言う気にもならなかった。自分の中で押し込めておけばいいかと、『15年も前のことを気にするな』『仕事があるのに電車が怖いと言うな』と自分で自分に言い聞かせて毎日を過ごしてきました」

電話での取材に応じ「被害に“ふた”をして声を上げてこなかったせいで、いまでも他の子どもたちが被害にあっていると思ったら、何かしないといけないと思った」とテレビカメラの前での取材を受けることを検討してくれました。
しかし、その数時間後「電話を切ったあと、急に怖くなってしまいました。長年『何ともないこと』としてきたことを思い出してつらくなってしまい、どうきがすごいので、カメラを前にした取材は難しそうです」という内容のメッセージが記者に届きました。

「痴漢くらい」「たかが痴漢」
とても悲しいことですが、性暴力である痴漢を軽く見る風潮が社会にあることは、被害を受けた人からも多く寄せられました。しかし、女性のように、痴漢被害による傷は消えることはなく、生活までをも変えなくてはならない人がいることを知ってほしいと思います。

男性の被害体験 周りから「触ってもらって良かったな」

中学生の時に被害を受けたという60代の男性も声を寄せてくれました。背が低く、学生服を着て通学していた男性は、中学3年生の時に帰宅ラッシュで混み合った電車内で、30~40代くらいの女性に股間を触られ、驚きと怖さでことばも出せず、怖くて相手の顔を見ることができなかったといいます。

男性は、この被害のあとの周りの対応でさらに深く傷つきました。当時の担任の教師は、被害の相談を親身に聞いてくれました。しかし放課後、校長と教頭、学年主任、生活指導、担任の先生が一堂にそろう中で“事情聴取”を受けたのです。男性の訴えについて、ベテランの学年主任の女性教師から「うそをつくな」と言われ、警察に相談したいと言ったら、「学校の評判が下がる」「警察に言ったって嘘がばれる」と、次々に心ないことばを投げられました。
さらに相談した親戚からは「女の人に触ってもらって気持ちよかっただろう」とからかわれたといいます。

男性
「被害にあったことと、女性教師からのことばで、長年にわたって女性に対する不信感を強く持ってしまいました。大学時代も強く思っていたし、社会人になって5年目くらいのときの女性上司にも、説明のできない恐怖心を抱きました。痴漢による被害と学校の対応が影響していると思います。痴漢の加害者は男性が圧倒的に多いが、男性だけではないことは事実であり、子どもが訴えたときに拒絶して大人の価値観を押しつけてはいけないと思います」

男性はおよそ50年前の被害体験を鮮明に覚えています。痴漢による被害が、その後の人生にかなり強い影響を与え続け、特に思春期の被害は大きな影響を与えることから、被害を受けた子どもたちへのケアを充実させてほしいと感じています。

痴漢は自尊心を傷つける性暴力

長年、被害者支援に携わってきた専門家は、痴漢行為は自尊心を傷つける性暴力だと指摘します。 

被害者支援に詳しい 目白大学心理学部准教授 齋藤梓さん
「(痴漢行為は)自分が勝手に見ず知らずの人に性的な物として利用されるということになる。それは意思のある人間の存在として扱っていなくて、物として扱うということになるので、すごく自分の自尊心を下げるというか、自分は勝手に人に触られても仕方ない存在なんだという感覚を与えかねない。人の同意なく境界線を侵害していくことは、すごく暴力的な行為で、それは性暴力なんだという認識が広まってほしいです。
社会の認識がちゃんと深まることで、友だちに相談したときなどに、二次的な傷つきを受けずにちゃんと話を聞いてもらって、“あなたの受けたことは性暴力で、あなたはちゃんとケアをされる必要があるし、ケアを受ける権利があるんだ”ということが言われる社会になっていけばいいなと思います」

 

今後も「#本気で痴漢なくすプロジェクト」として痴漢についての取材を継続していきます。
痴漢被害に関するご意見をこちらの 投稿フォーム にお寄せください。

  • 岡部咲

    首都圏局 記者

    岡部咲

    2011年入局。宮崎局、宇都宮局を経て、現在は教育などを担当。

  • 金魯煐(キムノヨン)

    首都圏局 記者

    金魯煐(キムノヨン)

    通信社記者などを経て2022年入局。 ジェンダーやSRHR(性と生殖に関する健康と権利)について取材。

  • 二階堂はるか

    首都圏局 ディレクター

    二階堂はるか

    2016年入局。沖縄局、ニュースウオッチ9を経て現職、2年ほど前から「性暴力」をテーマに取材。

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