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大宮北高校「ユニクロ制服」導入にネット騒然 その後どうなった?

  • 2022年3月8日

去年10月、さいたま市の「大宮北高校」がインターネットの急上昇ワードになりました。ユニクロの既製服を学校の制服として指定すると発表し、大きな議論を呼んだのです。
制服は、採寸をして仕立ててもらうオーダーメイドのものが一般的です。費用も数万円かかることが珍しくありません。そんな制服の「当たり前」を見直そうとした学校の選択でしたが…。その後どうなったのでしょうか。
(首都圏局/ディレクター 高瀬杏)

高校の制服に…ネットで議論紛糾!

さいたま市立大宮北高校が、制服にユニクロ製品の採用を検討している―。
去年10月に新聞でそう報じると、瞬く間に「大宮北高校」はネットで話題入りしました。

ネット上の書き込みだけでなく、学校には問い合わせや意見の電話も相次ぎました。
対応した筒井教頭によると、「人権団体」からの意見が数多くあったといいます。
ユニクロには、人権問題が指摘されている中国の新疆ウイグル自治区の綿製品を使用しているのではないかという懸念があるにも関わらず、学校が採用を決めたことへの批判が大半でした。

筒井教頭
「想像以上に関心をもたれてしまって、正直参ってしまいました。他県の人からも『人権問題が懸念される企業の製品を学校が使うなんて許されない』という内容の電話が複数きました。ネット上の発言は、これまでの経緯や背景を理解していないものもあるので、どこまで世間を反映しているのか分かりません。ただ、生徒への影響が心配でした」

制服を変えよう きっかけは女子生徒の要望

大宮北高校では開校以来66年以上制服を変えておらず、男子は黒色の学生服、女子はブレザーにボックススカートを着用することが決められていました。
今回、制服を変えるきっかけとなったのは、生徒から上がった声でした。体と心の性が一致しないと感じていたひとりの生徒が、スカートで登校することに苦痛を感じ、「ズボンで登校したい」と教師に相談したのです。

従来の制服

生徒の要望に応えようと、女子用のスラックスの見積もりを業者に依頼したところ、提示された金額に驚いたと言います。

筒井教頭
「数社見積もりをもらいましたが、どれも1万円を超えていました。大人の服装と比べても、制服の値段は決して安いとは言えません。毎日高価な服を着るというのは、ちょっと違和感があります。それまで当たり前だと思っていた制服の負担について、本当に必要なのかと考えるきっかけになりました」

従来の制服 なぜ高い?

大宮北高校の制服は、地元の販売店や大手の百貨店など5社が取り扱っています。
一般的に学校の制服は素材が丈夫で、オーダーメイドのためどんな体格の生徒にも対応することができます。また、学校ごとにデザインが異なるため大量生産することはできず、どうしても価格が高くなってしまうといいます。

従来の制服にかかる費用
<男子> 
詰め襟上下      39,289円
夏用スラックス  10,132円
合計       49,421円

<女子>
上着   21,358円
スカート 30,695円(夏冬2種)
合計   52,053円
(昨年度各社の平均)

これまでも保護者から制服の値段が高いことや、頻繁に洗濯ができず手入れが大変だという意見が出ていたため、この機会に「制服」そのものの見直しを始めました。

「既製品」でコストダウン

目指した新しい制服のコンセプトは、「生徒も考える、安価でシンプル、スマートで機能的」。

生徒にアンケートを行い、どのような制服を求めているのか意見を集めました。機能性やデザインについての意見を反映しつつ、価格を安く抑えるためにはどうしたらいいのか。候補を探す中で見つけたのが、オーダーメイドに比べて安価な「既製品」を制服にするアイデアでした。

ジャケットとパンツ、シャツなどの基本的なアイテムを1万5千円以内で揃えることができるうえ、種類が豊富で、近隣の店舗やオンラインで購入できる点も評価されました。

筒井教頭
「教員の間では、いっそ私服にしたらいいのではないかという意見もありました。しかし、生徒や保護者から聞くのは、むしろ制服を望んでいる声でした。ずっと制服が当たり前だった学校でいきなり私服に移行するハードルはとても高く、まずは現状の家庭の負担を減らすことを優先して制服改定を検討することになりました」

報道発表に先駆けて開かれた9月の学校説明会で、導入予定の制服が初めて紹介されました。入学を希望する生徒と保護者に対して、定番商品となっているジャケットやパンツ、スカートなどから生徒が選んで組み合わせられることを説明。コストパフォーマンスの良さに、来場者からの評判はよかったといいます。

思わぬ炎上が再考の機会に

しかし、予想していなかったネットの反応を受けて、制服変更の予定を見直すことになりました。
在校生からも厳しい声が上がるようになっていたのです。
11月に行われた2度目のアンケートでは、既製品を制服にすることに否定的な意見が全体のおよそ3割、200件近くに上りました。
そのうちの大半が、デザインについての不満でした。

 

機能性はいいと思うけどかわいくない

 

ダサい 昭和みたい

 

社会人みたいで高校生らしくない

この結果を受けて、教職員たちの間で再び検討が始まりました。
生徒の希望は受け止めたいものの、デザインを優先させると、価格を下げることは難しくなります。
議論した末、大切にしようと決めたのは「長期的に考えて生徒と保護者の利益になるか」という視点でした。

筒井教頭
「校外の反応の影響をうけて制服をネガティブに捉える回答も少なからずありました。否定的な意見が並ぶと、とても反発を受けているように感じるかもしれませんが、実際には賛成の人は意見を書かないことが多いと思っています。教職員で再度確認した今回の改定の一番の目的は『デザインを良くする』ではなく、『家庭の負担を減らすこと』でした。ただ、生徒たちの希望も可能な範囲でかなえられるよう頑張ろうと思います」

そして結論は…

2月6日、再び行われた学校説明会。オンライン開催となったこの日、最終的な制服案が公表されました。

画面に映し出されたのは、ユニクロの制服を着た生徒の姿。新制服は予定通り導入されることが決まりました。
一方で、生徒からの要望も反映しました。現行の制服も残して生徒が選択できるようにしたほか、学校独自のアイテムとしてリボンとネクタイを導入します。新学期には間に合いませんが、生徒がデザインしたものを価格を抑えて製品化する予定です。

制服改革を主導してきた筒井教頭は、制服のルールや指導については実際に始まってから状況に合わせて対応を変えていくつもりだとしながらも、あまり細かく決めすぎて生徒を締め付けることにならないよう気を付けたいと話します。

筒井教頭
「制服は高校生活にとって大事なものではありますが、あくまで学校生活の一部で、日常をよりよくするための1つのツールでしかありません。日常の学校生活を支えるアイテムとして、扱いやすさや買いやすさを優先しました。これからの時代、生徒に求められるのは、言われたことをやるのではなく、自分の頭で考え判断する力だと思います。学校生活の中でその力を育めるよう、教員が責任をもって環境を作らなくてはいけません。学校もどんどん変わっていかなくては」

「既製品制服」専門家の見解は

全国で校則の調査などを行ってきた名古屋大学大学院の内田良准教授は、制服の見直しの動きを評価したうえで、生徒にとって選択肢を増やしていくことが大切だと指摘します。

名古屋大学大学院 内田良准教授
「公教育としては、制服の費用への懸念が進学などの妨げにならないよう、学校が支給するのが一番公平です。それができない中では、価格を安く抑えて誰でも入手できるようにするのが望ましい。大宮北高校のように安価な既製服を制服に指定する方法はとても有効でしょう。さらにいえば、安価な制服に加えて私服も選べることが望ましいと思います。選択肢を多く用意できれば、かちっとした制服を着たい人、そうでない人も強制されるストレスを受けることはありません。
持続可能性の側面から考えれば、私服は卒業後も着ることができます。コロナ禍で、私服登校を試験的に取り入れてみたところ、懸念していた問題は起こらず、校則を改定する学校も出てきています。食わず嫌いをせず、試験運用したりすることで凝り固まっていた『当たり前』を見直せる機会だと思います」

  • 高瀬 杏

    首都圏局 ディレクター

    高瀬 杏

    2017年入局。大阪局を経て2021年から首都圏局。 ジェンダーや多様性の問題に関心を持ち取材。

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