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鈴木福×又吉直樹 “18歳成人”を考える対談 大人の意味って?

  • 2022年1月13日

ことし4月から、成人年齢が18歳に引き下げとなります。これまでは「20歳になったら大人」と思っていたのに、18歳になったとたんに「大人」の仲間入り。親の同意なしにクレジットカードや携帯電話を契約したり、起業して会社を作ることも法律上可能となります。
でも、そもそも大人になるってどういうことなんだろう?大人になるための準備って? ことし6月で18歳になる俳優の鈴木福さんとお笑い芸人で作家の又吉直樹さん(41)が「大人」についてとことん語り合いました。

“大人の実感なかった” 又吉さんの20歳

又吉・鈴木「よろしくお願いします」

又吉「小さいときから活躍されている印象が強いから、『もう18歳で成人!?』ってみんなに言われるでしょう。もう飽きているでしょう」

鈴木「飽きているわけではないんですけど、ここ最近、成人年齢が引き下げになるということを取り扱う番組に呼んでいただく機会はすごく多いです。大人の在り方について自分自身で考えるきっかけも多い分、難しいというひとことに尽きるなと」

鈴木福さんは、ドラマ『マルモのおきて』など幼いころから子役として活躍。「子どもらしさ」を体現しながらも、「社会人」としてのふるまいを叩き込まれてきました。
一方、又吉さんは、お笑い芸人としてブレイクするまでの長い下積み時代は20代でも「大人になれていない」と感じていたそうなんです。

又吉「上京して吉本の養成所に入ったんですが、学生でもあり、1人暮らしもしているし、『大人にはなりきれていないけど子どもでもない』という期間がほかの人よりだいぶ長かったと思います。お正月に親戚の子と会ってもお年玉をあげられないから目をそらしたりしていて、本当の意味で自立できているかどうか自信がなく、大人と子どもの間みたいに感じていました。選挙権もあったし、同世代の人よりは少ないものの収入もあったんですけどね。29歳くらいまで、アパートの家賃はちゃんと払っているのに、大家さんに会ったら怒られるような、常に後ろめたさを感じていて。家を出る前に外の様子を耳でうかがって、誰もいないのを確認してから外に出ていたんです。それって、全然大人じゃないじゃないですか」

鈴木「確かに大人じゃないかもしれない」

又吉「20代はずっとそうだったから、同級生はみんな大人になれているのに、自分はだめだなという意識がすごく強かった。『大人ってなんやろう』『大人なのかな自分は』と考えてきましたね」

20歳から18歳へ 「2年間」がなくなること

鈴木「ことしから成人年齢が18歳に引き下げられることについて、又吉さんはどう考えていますか」

又吉「これから18歳を迎える人たちからすると大変ですよね。今までは20歳にむけて1段ずつ階段をあがってきたのに、最後は2段飛ばしでお願いしますみたいなことですもんね。リスクもいろいろあるじゃないですか」

鈴木「そうですね。僕も家庭科の授業で契約のことなどはある程度学んだんですけど、覚えておかなければという切迫感もなく、どこかのタイミングでちゃんと勉強するだろうというまま来ちゃったので。ここ半年くらいで18歳成人について注目され始めて、『契約に気をつけましょう』みたいな呼びかけはありますが、具体的に何かを教えてくれるというわけでもないですね」

成人年齢引き下げによる大きな変更点の1つは、18歳になれば親などの同意がなくても1人で「契約」を行えるようになること。クレジットカードや携帯電話、ローンを組んだりアパートを借りたり、起業して会社を作ることも法律上できるようになります。また、18歳でも起訴されれば実名や顔写真などを報道することも可能になります。

又吉「僕は高校卒業後18歳で上京しました。地元は大阪ですが、それほど都会でもなかったので、街で知らない人に話しかけられることはあまりなかったんです。でも新宿とか渋谷を歩いていると声をかけられて、話を聞いているうちに契約書が出てきて『あ、俺何かを買わされそうになっているんや』と。そこで『18歳です』と年齢を言うと、じゃあ親の許可が必要とか、ハンコが必要となって助かったみたいな。18歳から20歳までの2年間は『街で知らない人に話しかけられたら、道を尋ねる以外に、自分が何かを買わせる対象になっているんだ』と気付くまでの2年でもあり、同じような経験をした人たちから『そういう場合はこうしたほうがいい』とか、リスクを回避するための情報が徐々に集まってきたりした2年でもあります。それが、急にドンで、高校を卒業して社会へ出てすぐ“自己責任”となるのは結構大変ですね」

大人=失敗できない?自己責任への不安

鈴木「小さなころからこの業界で仕事をしてきたので、やっちゃいけないこと、やらないほうがいいことはずっと学んできたし教えられてきました。大人として求められることが、どんどん積み上げられていくものだとすれば、大人になるともう失敗はできないのかなと思います。契約が1人でできることもそうですが、自己責任で、負担は自分たちにかかってくることを、みんな感じているんじゃないかなと思います。不安を持っている子は結構多いのではないかと」

又吉「たしかに、大人になると失敗しにくいですかね。自分で考えて、バランスよく選択していかなければいけない状況は間違いなく増えるでしょうし。『学校にこう言われているから』『親にこう言われているから』でこれまではオッケーだったのが、自分はどうなの?と問われるわけじゃないですか。
でもポジティブに言えば、選択肢が今までの18歳よりも広がるということですよね。僕みたいになんとなく20歳になって、いつ大人になったのかわからないような人間より、リスクがあるからこそ、権利とか責任について僕たちよりもっと興味を持って自分で調べて、知識が豊富になり、選択肢も増えていくのでは。できることが増えるのは面白いことでもあると思います」

大人の条件とは…「責任」と「精神的な成熟」

鈴木「又吉さんにとって、大人になるということはどういうことだと思いますか」

又吉「一番は自立できているかどうかだと思いますが、何をもって自立かというのもありますよね。権利や責任を持つというのが1つで、もう1つは精神的に成熟しているかどうか。その2つが大人の条件、複合的なものだと思うんです。それがないと、間違いなく見た目も年齢も大人なのに、自分勝手だったり暴力的だったり、人の話が聞けない人を果たして大人と言っていいのかと思いますね」

鈴木「客観的に見たとき、どういられるかということですか」

又吉「幼稚園や保育所でおはようございます、ありがとう、ごめんなさいを言わなきゃいけないって習ったじゃないですか。小学校低学年くらいで結構それができちゃう人がすでにいるじゃないですか。でも社会に出たら、すごく賢くていろんな知識を持っていて、誰がどう見ても大人なのに、謝れない、ありがとうが言えない人がいる。年齢が上がっていけばいくほど、大人になるということでもないと思うんですね。必ずしも年齢を重ねた大人が正しい判断をできるわけではないと僕は思っています」

優しさをポジティブに使うのが大人 相方の夢を尊重したい

又吉「僕が『この人は大人だな』と感じるのは、自分と意見が違う人の話も尊重して、仲よくできる人。これに関しては全然意見が違うねと、議論するのはいいんですけど、だけど友達だよね、お互い幸せになれたらいいねと言える人を見ると、『ああ、大人だな』と。逆に、仲がよかったのに何か1つの出来事で考え方が違ったとき『お前をそんなやつだと思わなかった』『絶交だ』という人は、大人げないなと思ったりするので、やっぱり優しさと想像力を有効に、ポジティブに使える人が大人なのかなとは思いますね」

鈴木「それでいうと、ピースのお2人は、それぞれ別の道で今活躍されていると思いますが、その言葉に当てはまりますね。綾部さんがアメリカで活動したいというチャレンジを尊重されて」

又吉「やっぱり相方が近くにいてくれると安心ですし、近くで一緒に働いてほしいというのは、僕の気持ちとしてはあるんですけど、それで本人のやりたいことや夢をつぶしてしまうのはよくないなと。ただ、一番やりたいことをお互いにやりきって、また力を合わせるときは合わせてとしたほうがいいなと考えられるようになったのも、30代半ばになってからだったので、25、26歳のときにアメリカに行きたいと言われていたら『ふざけんな』っていうのもやっぱりあったと思います。若いころの自分の考えを否定するわけではないのですが、ほかの人の助言も場合によってはすごく有効だったんだなとか、人の話を聞いて必ずしも自分が正しいとは限らないんだと気付けたときに、自分もちょっと大人になれたのかなと。ただ、いまだに完全に大人になれたかどうか、自分ではわからないんですけどね」

大人と子どもはグラデーション

又吉「相方の綾部は、大人か子どもか判断するのがいちばん難しいタイプというか、すごく純粋で無邪気で少年のような部分もあるんですけど、急にすごく冷静で全体を見ているときもある。綾部が3歳年上なんですが、すごいお兄さんに見えるところも、すごい子どもっぽいところもあるので、難しくて面白い対象ですね。

相方の綾部祐二さん

子どもと大人って『ここから大人』とか『これができたら大人』じゃなくて、グラデーションみたいになっていて、みんな、どこかちょっと子どもの部分もあるし、子どもでも部分的に大人よりすごく成熟している人もいると思うんです。

僕もコントをつくったり文章を書いたりしますが、ものを作る上で、作品のために何かにすごく執着するとか、すごくわがままになることがあります。何かに執着しすぎるってわりと幼い感情だと思うのですが。この人は部分的にすごく未成熟だからこそ、こういうものがつくれるんだというケースも中にはあって、そういう人がいてもいいとも思います。大人になるとか、大人になるべきみたいなのは、けっこう難しい、複雑な問題なのかな」

大人へのヒントは本の中に

鈴木「今の自分に満足しないことも大人への道、大人としてのあり方なのかなと話を聞いて感じました。それこそ今の自分が完璧な大人じゃないと又吉さんがおっしゃったように、『自分は大人だから』となってしまったら、そこで止まっちゃう部分があるかなって。これから大人になっていくために、何をすればいいと思いますか」

又吉「人の話を聞くとか、とにかくいろんな経験をすることがいいと思うんですけど、本を読むのも1つの手だと思います。僕の言葉じゃないんですけど、本とか小説とか哲学書とか詩とか、なんの意味があんねんという人が多いけど、“落とし穴の場所”を教えてくれるんだみたいなことを書いている文章があったんです。人間ってだいたいこの穴に落ちやすいですよというところにみんな落ちている。小説はそのことを書いているから、それを読むことで、こういうことが起こりうるんだと事前に知ることができると」

鈴木「僕も本を読むようになったんですが、つい最近なんです本当に。それまで本屋さんでの本の探し方が全然わからなかったことに気がついて、新書と文庫の違いも知らないんだということに、自分で本当に恥ずかしくなって。本を読むようになってから、本に書かれているもののありがたさを感じます。その人の頭の中を見られるような。今まで読んでこなかったのがもったいなかったし、台本とかは読んでいるけど、ちょっと堅めの本とか、やっぱりこれから必要なんじゃないかなと」

又吉「本の面白いところは、自分とすごく考え方が似ている主人公が出てくると共感で読めるし、自分と全然違う考え方の登場人物が出てくると、『なんでこの人こんなふうにするんだろう』『そんな発想があったか』と、人によって考え方とか選択のしかたが全然違うんだということに気付けるんです。僕は41歳の年齢になっていまだに読んでいても、この人は面白い考え方をするなとか、こんなこと考えたことなかったなという考え方に出会えて、自分の選択肢が広がっていくのを感じます。そういう部分では、結構本に助けられているところもあるのかな。ドラマでも映画でも同じような体験はできると思うので、本に限らず、それぞれ自分の好きなもので、そういう経験をしてもいいかもしれないですね」

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