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女性たち追い詰めるコロナ禍の生活困窮「お金がなくて死にたい」

女性支援NPOの現場2
  • 2022年1月7日

「仕事ができなくなってどうしよう。実家に帰るくらいなら死んだ方がまし」。
掛け持ちしていた仕事をコロナの影響で失い、体調を崩した末に自殺未遂をした20代の女性のことばです。家族から虐待を受けてきたため、帰るという選択はあり得ないといいます。
長期化するコロナ禍、生活苦に陥る女性が増えています。飲食業や接客業の低迷が、非正規雇用の女性たちを直撃しているのです。
いま、若年女性を支援するNPOには、収入が激減し「死にたい」というSOSが次々と寄せられています。女性たちの暮らしの実態を取材しました。
(首都圏局/ディレクター 田中かな・高瀬杏)

コロナで生活困窮 働けない 生きていけない

若い女性たちの相談を受けてきた「BONDプロジェクト」。相談件数はコロナ前の同じ時期と比べて1.3倍、のべ3万5千件以上に及んでいます。これまでと違うのは、仕事やお金に関する相談が増えていることです。

NPOスタッフ
「お金の悩みはすごく増えましたね。これまでも相談はありましたが、お金のことより精神的なことや家族のことなど、他のことのほうが自分にとっては大きいという人が多かったです。でも最近は自分からお金の話をしてくる子が増えたかもしれません。切実ですよね、お金がないのは」

NPOに連絡をしてくる女性の中には、仕事を失ったことがきっかけで精神的に追い詰められ、命を絶とうとした人もいます。
数日前に自殺未遂をしたという20代のAさんです。友人に紹介してもらい、NPOにたどり着きました。

20代の女性(画像を加工しています)

Aさん

できる限り実家に帰らないようにと思って、いろいろな仕事をしてやってきたので、実際にいま仕事ができない状況になって、どうしようって思って。

スタッフ

帰るのは怖い?

Aさん

怖いですね、帰るくらいなら死んだほうがましかもしれないと思います

 

Aさんは、家族からの虐待から逃れるために18歳のとき家出。コロナの感染拡大が始まる直前に都内にやってきました。3つの飲食業を掛け持ちして生計を立ててきましたが、そのうち2つがコロナで休業。知り合いからお金を借りるなど、綱渡りのような生活を続けてきました。
さらに、唯一の収入源となっていたアルバイト先でミスをしてしまったことをきっかけに体調を崩し、働けなくなりました。ひとり思い詰めた末に、自殺を図ったといいます。

Aさん
「もともと自分があんまり生きてちゃだめだなと思っていて。それで仕事をちゃんとできてなかったらだめだって思ってたんですけど、(ミスをしたことで)今までの仕事での信用もなくなったと聞いて、失望されたって思ったときに、じゃあ自分っていないほうがいいと思ったんです」

コロナで急増 生活苦に追い詰められる女性たち

Aさんのように、職を失い追い詰められる女性たちが急増しています。女性の雇用者数はおととし4月、大幅に減少。女性の雇用は一時、最大74万人が失われ、男性の倍以上に上りました。その多くが非正規雇用とみられています。
女性の就業率が高い飲食業や宿泊業などがコロナの影響を大きく受けたことに加え、不安定な非正規雇用として働いていたことで、解雇や雇い止めとなるケースが多く見受けられたのです。

2021年11月に公表された「自殺対策白書」によると、2020年女性の自殺者は7026人と前年から約1000人近く増えました。過去5年と比較して特に増加したのが、働く女性や、児童生徒などの若年層でした。厚労省は、背景に新型コロナウイルスの感染拡大による労働環境の変化が関連した可能性があると指摘しています。

支援はあっても…必要とする人に届かない現実

厳しい経済状況が続く中、去年、国は子育て世帯への支援として、所得制限を設けた上で、18歳以下への現金10万円相当の給付を決定しました。去年12月から各自治体で支給が始まっています。
しかし、今回の給付をめぐっては、去年9月末時点で自治体が把握している口座に給付金が振り込まれるため、10月以降に離婚や別居をした場合は、実際に養育していない親の口座に振り込まれる可能性があるという指摘が出ています。

実際、NPOでも給付を受け取れないという女性の相談を受けていました。
夫から生活費を使い込まれたり、身体的な暴力を受けたりしたことで、いまは1人で7人の子どもを育てているBさんです。
「どうしても死にたい。生きていけない」と繰り返しうったえていることから、NPO代表の橘ジュンさんがスタッフとともに自宅を訪ねました。

代表の橘さん(左)とBさん(右)

Bさんはこれまで福祉施設に勤めながら、1人で子育てをしていました。精神疾患を患い、障害年金と福祉施設でのパートの収入で生活を維持してきましたが、福祉施設の経営不振によって職を失いました。雇用保険に加入していなかったため、失業手当を受け取ることもできませんでした。今は不定期のアルバイトをして生活費を稼いでいますが、生活はギリギリだといいます。
精神的に追い詰められ、夜も眠れず、リストカットなどの自傷行為を繰り返しています。

「生きるのって大変だなって。子どもがいるから、生きなきゃみたいな感じかな。子どもにとって親がいないって、ちょっとかわいそうだなって思うから。だから死ぬ一歩が踏み出せないみたいな感じです」

夫は、別居中に傷害事件を起こして警察に逮捕され、保釈されたものの、その後の行方は分かっていません。離婚届を出さないままいなくなってしまったため、ひとり親世帯に支給される児童扶養手当は受け取っていません。

さらに、児童手当などは今も夫の口座に振り込まれていて、子どもへの給付もこのままでは夫が受け取ることになってしまうというのです。

このことについて、Bさんが居住する自治体に問い合わせたところ、「個別のケースには回答しない」ということでした。そのうえで自治体の担当者は、児童手当は、夫婦のうち所得の高い方を受給者としているが、状況が変化した場合は、申告すれば個別に聞き取りを行い、認められた場合は受給者を変えることも可能だとしています。

しかし、Bさんは行政の窓口に行ったものの、自らが置かれた複雑な状況をうまく説明することができず、結果的に受給者の変更はできないままになっているといいます。

橘さん

夫とのことはどうにかしていきたいと思ってるのね?

Bさん

もう面倒くさいな。子どもたちのことが忙しいから

橘さん

それどころじゃなくなっちゃうのか

 

まだ幼い子どもたちの世話に追われ、必要な手続きをするために何度も行政の窓口を訪ねることは難しいと感じているBさん。それでも、自分の子どもたちと一緒に暮らすことは諦めたくないといいます。
この日、橘さんはBさんに日用品や食品を手渡し、後日、相談窓口に行くことを約束して別れました。

NPO代表の橘さんは、困っている人が支援につながるまでのハードルが高く、受けられるはずの必要な支援が届いていない状況があると指摘します。

橘さん
「彼女たちが相談に行くって相当なことなんですよ。もう本当に限界っていう状態で行くじゃないですか。調べる気力がなかったり、調べて分かっても相談先に行くまでが大変だったりもするし。行ってからも自分の苦しい状況を言語化できるかというと、それも難しい。話したところで寄り添ってくれるかどうかも、行政的にはできるかできないかっていう判断になると思うし。無理だと言われたら、じゃあ自分でなんとかしなきゃいけないって、もっと追いつめられていくという事もあると思うんですよね」

キャッチしたSOSを支援につなぐ

12月下旬、橘さんに付き添われて役所を訪れたのは、働けなくなりみずから命を絶とうとしていたAさんです。生活保護の申請をするといいます。

橘さん

延ばし延ばしになっちゃうともっと大変になっちゃうから、今日、一生懸命来てくれてよかった。相談行ってみてからだけど、いろいろ落ち着くといいなと思うから、がんばりましょう。

Aさんの現在の生活ぶりや、これまでの事情を説明し、面談は2時間以上に及びましたが、後日、生活保護の受給が決まりました。

Aさん
「自分ひとりだったら相談したり役所に行ったり、こういう手続きも全然できなかったから、サポートしていただいて助かりました。『生きていかなくちゃ』という気持ちがちゃんと出てきた感じです。こんなに支えていただいてるから、ちゃんとしなくちゃと」

一人ひとりに寄り添う支援を

新型コロナの影響が長期化し、生活に苦しむ人が増える中、国は仕事を失った人などが当面の生活費を無利子で借りられる「緊急小口資金」「総合支援資金」制度の利用について、申請の期限をことし3月末までに延長しました。

また、厚生労働省は生活保護についてホームページで「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談下さい」と発信しています。
しかし制度はあっても、困難に直面している人がみずからの力でそこにたどり着くことは難しいと橘さんは言います。

橘さん
「こういう相談先があるよとか、一人で抱えないでねというメッセージが、本当に相談が必要な方に届いていないということを実感しています。
本人が大変さや助けが必要な状態だということに気づけていない場合、そういう子のSOSは届けたい場所に届かないじゃないですか。そういう子が声を上げてもいいとか相談しようと思ってもらえるように、ちゃんと相談体制を拡充していくことが大事だと思っています」

そして、行政にももう一歩踏み込んだ役割を果たして欲しいといいます。

「行政の枠組みの中でできることと、できないことはあると思います。でもできない時に『そういう事なんで』って言って帰さないでほしいんです。こういう(民間の)団体で何かしてもらえないか一緒に相談してみる?という感じで、自分のところではできなくても、ちゃんとアフターケアをしてもらえたらいいなって思っています。寄り添うことが本当に必要だと思うんですよ。一人ひとりに」

  • 田中かな

    首都圏局 ディレクター

    田中かな

    2018年入局。秋田局を経て2021年から首都圏局。 秋田局在籍中から自殺や障害者に関するテーマについて取材。

  • 高瀬杏

    首都圏局 ディレクター

    高瀬杏

    2017年入局。大阪局を経て2021年から首都圏局。 ジェンダーや多様性の問題に関心を持ち取材。

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