WEBリポート
- 2021年12月16日
川崎のベビーカースルー図書館“コロナ禍の親子孤立させない”
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「友だちともほとんど会えないし、施設も休止で寂しさを感じていた」
長引く新型コロナウイルスの影響を感じていた母親のことばです。
孤立しがちな親子を地域でどう支えるか。
川崎市では「絵本」を通して、幼い子どもを育てる親とつながり支援する「ベビーカースルー図書館」と呼ばれる取り組みが進められています。
(横浜放送局 地域貢献・情報発信プロジェクト/加久まゆ)
「ベビーカースルー図書館」って?!
「今回も1歳と5歳で大丈夫ですか?」
川崎市の保育園でベビーカーの親子に手渡されたのは、保育士たちが選んだ絵本です。
川崎市内のすべての公立の保育園と地域子育て支援センターで行われている、ファストフードの「ドライブスルー」ならぬ「ベビーカースルー図書館」。その仕組みです。
通常の図書館と違って、親が保育園などに直接、電話などで絵本の貸し出しを申し込みます。
その際、子どもの年齢や好きなものなどを伝えると、保育士たちが子どもにあった絵本を選びます。
そして、保育園などの玄関先で受け取りに来た親子に手渡されます。
この取り組みが始まったのは、去年5月。神奈川県に緊急事態宣言が出され、保育園の園庭の開放などが休止された時期でした。
昨年度、川崎市に寄せられた子育てに関する相談は、前年度に比べて激減しました。市では、子育ての悩みが減ったためではなく、親が、相談する場を失ったためだと考えています。
川崎市こども未来局保育事業部保育指導・人材育成 児川薫 担当課長
「直接行く場所がなくなってしまって、家庭で子育てをしている方にとっては、どこにも相談できないというところがございましたので。どこかで解決しなければ、これは大変なことになる」
“心の支えとなる場所”としてつながる
「友達ともほとんど会えないし子育て支援センターで仲良くなった人たちとも、面と向かって話すことはできなかったので寂しさを感じていました」
こう話すのは、ベビーカースルー図書館を利用している中川敦美さんです。
長男の出産を機に、川崎市に移り住んだ中川さんにとって、地域の子育て支援センターは心のよりどころでした。しかし、新型コロナの感染拡大とともに施設が一時的に閉鎖になりました。当時は、心の支えとなる場を失ったように感じていました。
ベビーカースルー図書館を利用するようになった中川さんは、いま、絵本を受け取るわずかな時間のやりとりを楽しみにしています。
保育士たちも、ベビーカースルー図書館に訪れた親子の様子に変化がないか、確認しています。
コンビカー(おもちゃの車)に、乗れるようになった?
乗れるようになりました。だいぶ運転して乗れるようになったので。
お兄ちゃんになったね。
こうした会話のやり取りを通して、中川さんの子育ての手助けになるような絵本を選び、準備します。
この日は、おもちゃの車に乗れるようになったという会話から、乗り物が出てくる絵本が喜ばれるのではと考えて選びました。
大島保育園 園長
「保育園に何度も足を運んでもらううちに、顔見知りになって、いろんな悩みが話せたり、お子さんの成長が一緒に喜びあえたり。私たち、地域のお子さんの成長を願っていますし、お母さんたちのどんな小さな悩みでも受け止めていきたいと思っています」
こうした絵本がつないだ親子との交流が、子育てを支えています。
ベビーカースルー図書館の利用者は、昨年度のべ4877人、1か月あたり400人程度が利用していた計算になります。ことし4月から6月末までの3か月間でも利用者はすでに1200人を超えているということで、川崎市では取り組みを継続したいとしています。
中川敦美さん
「子育てに関することをいろいろ心配してくれている。『場所はないけれど、みんなのことを見ているよ』『見守っているよ』みたいな感じにすごく感銘を受けました。一緒に見てくれているのかなって心強く感じます」
取材後記
ベビーカースルー図書館を利用した親たちからの感想には「自分では選ばないような、子どもの年齢にあった絵本が借りられてうれしい」とか「私がリラックスできました」などの声が寄せられているそうです。
子育てをしていると、ちょっとした子どもの仕草や行動が気になったり、不安になることがあります。そんな時、絵本を通して穏やかな時間を子どもと過ごせたり、貸し借りの際に専門知識をもつ保育士に話を聞いてもらうだけでも、心が軽くなるのではないでしょうか。
取材を通して、子どもの成長を一緒に喜んでくれる「誰か」がいるという安心感が、親の心の支えにもなるのだと感じました。