国はヤングケアラーをめぐり昨年度、初めて全国的な実態調査を政策研究などを行う民間企業に委託して実施しました。その結果、クラスに1人から2人の割合で、ヤングケアラーがいるという現状が明らかになりました。
ただ、調査に当たった研究員は、今回の結果からは、数字以上に深刻な実態が見えてきたと話します。その「深刻な実態」とは何なのか、話を聞きました。
(さいたま放送局/記者 大西咲)
話を聞かせてもらったのは、実態調査を実際に行った企業で主任研究員を務める、山田美智子さんです。後編の今回は、調査結果から見えてきた実態や、今後の課題についてお伝えします。
前編はこちらからご覧いただけます
「ヤングケアラーは“もっと身近にいる” 調査した研究員の思い」~全国調査から見えたこと(前編)~
全国の中学生と高校生を対象に行った今回の調査では「世話をしている家族がいる」と答えた子どもが、クラスに1人から2人の割合でいるということが明らかになりました。この結果をどう見ましたか?
今回の調査の目的のひとつは、ヤングケアラーの子どもたちが確実に存在しているということを多くの人たちに知ってもらうということでした。結果を見て、改めて身近な存在であるということを認識しましたし、多くの人たちに存在を知ってもらえたのではないかと思っています。
また、地域的に偏りがあるわけでも、学校の種別で偏りがあるわけでもなく、全国どこでもいるということも明らかになりました。4%、5%という数字が多いか少ないかは別として、「自分のクラスにいるかもしれない」という認識を先生たちが持つきっかけになったという点で、大きな意味を持つ数字だと考えています。
「負担に感じているか」という質問に6割の子どもたちが、「感じていない」と答えています。大人でも負担に感じる人が多い介護やケアについて、子どもたちが負担に感じていないというのはどういうことなのでしょうか?
数字だけを見れば、6割の子どもたちは負担に感じていないなら、「その子どもたちは大丈夫」と考えるかもしれませんが、「子どもたちの生活に影響が出ているかどうか」という点を大人たちが見ていく必要があると思います。
実際、子どもたちの回答を見ると、「これは負担になっているのではないか」と大人が判断するような介護やケアの内容や時間だったとしても、「つらくない」と答えた子どもたちがかなりいました。
子どもたちからすると、ほかの家庭と比較できない上、介護やケアをする生活が当たり前になっているので、ある意味“麻痺”しているのだと感じます。また、自分がやらないとほかの家族にしわ寄せがいくと考えていると見えるような回答もありました。
「負担に思っていないから大丈夫」ということではなく、数字以上に深刻な実態があると感じています。
「相談した経験がない」という生徒が中高生ともに6割を超えていました。これについてはどう見ていますか?
まずは、これだけ多くの子どもたちが、孤独を感じながら介護やケアをしているということに胸が痛みました。この6割の子どもたちについては、たとえ「相談してね」と言っても基本的に自分から話すことは難しいと思います。ですから、大人が信頼関係を作り、寄り添う姿勢を見せていくことが、スタートなんだと思います。
一方で、「相談したことがある」と答えた4割の子どもたちは、「介護やケアをしている時間が長い」「介護やケアを負担に感じている」と答えた子どもたちが多い傾向にありました。限界を超えてようやく誰かに相談したり、学校に通えなくなる、遅刻するといった形に表れ、先生に聞かれて答えたりしているのが実情だと思います。本当なら子どもたちがこうした状況に陥る前に、何らかの糸口や解決策を見つけるべきで、子どもたちが相談できる体制を、大人たちが作っていかなければならないと感じました。
アンケートには自由記述欄も設けられていました。どのような回答がありましたか?
回答者全体の2割ほどの子どもたちが書いてくれていて、想像以上の回答率でした。そこには本当に切実な思いが書かれていました。
「いつも大変なわけじゃないけど、つらいな、しんどいなと思うときにちょっと助けてほしい」
「学校の先生に話したら嫌な思いをした。先入観を持たずに、素直に受け止めてほしい」
「誰かに相談していいことなんだ、聞いてくれるところがあるんだ、と初めて知った」
「同じ境遇の人がいるんだと知ってうれしかった」
子どもたちの回答を見てどう受け止めましたか?
今回はアンケートという形ではありますが、自由記述など含めSOSを発してくれたことを重く受け止め、できることから支援していく必要があると感じました。
調査を終えて、改めて今、子どもたちへ伝えたいことはありますか?
自由記述の欄に、「話を聞いてほしい」「知ってほしい」という回答がとても多かったので、「大人がちゃんと聞くよ」「知ってもらうためにこれから頑張るからね」と伝えたいです。
個人的に、また会社としても、これからも関心は持ち続けますし、研究を続けたいと思っています。また今回、国の報告書では紹介しきれなかったり、分析しきれなかったりした部分もあるので、私たちに託してもらった子どもたちからの声を大切に、これからも関わっていきたいと思っています。
NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。
ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。