震度5強の揺れで住宅の土台が崩れ、危ないから退避してくれと言われた-。1月に起きた能登半島地震では、こうした被害が相次いでいます。
なぜ家の土台がこれほどもろかったのか取材すると、同様の被害は首都圏などほかの地域でも起きうることが見えてきました。
(首都圏局/ディレクター 阿部愛香)
能登半島地震で震度5強の揺れを観測した新潟県糸魚川市。中心部から近い山あいにある京ケ峰地区で、住宅の土台の「擁壁」が崩れる被害が相次ぎました。
市による宅地の危険度判定では、調査した167棟中、半数近い76棟が危険と判定され、退避するよう促された住民も少なくありません。
昭和41年に分譲が開始された京ケ峰地区。なぜここで被害が相次いだのか、擁壁の構造に詳しい専門家に被害の映像を見てもらいました。
国士舘大学 橋本隆雄教授
「ああ、ひどいですね。これは空積み。コンクリートが後ろに入っていないんですよ」
橋本教授が着目したのが擁壁の工法。石を積み重ねただけで揺れに弱い「空積み」だといいます。
こちらの写真は空積みの擁壁を縮小して再現し、糸魚川市の揺れに近い、震度5強相当を想定して揺れを加えた実験の様子です。
揺れを加えはじめてしばらくすると中央付近から擁壁が崩れました。
2メートルを超える擁壁は昭和25年、建築基準法で石積みをコンクリートで一体化させた「練積み」という工法を用いるよう定められました。
しかし橋本教授によれば、多くの地域で徹底されず、その後もしばらく「空積み」の擁壁が作られるケースが各地で相次いだといいます。
橋本教授
「特に高度経済成長期には、丘陵地に安く家を建てることが優先されました。建設会社も住民も、建物はお金をかけて立派なものを作りたいと考える人が多いのですが、その下の擁壁はあまり重視されてこなかったのではないでしょうか」
高度経済成長期、宅地が多数開発される中、自治体がチェックしきれなかったことも、空積みの擁壁が作られた原因ではないかといいます。
高度経済成長期に多くの住宅地が開発された首都圏。京ケ峰地区と同じ「空積み」の擁壁はあるのでしょうか。
擁壁の災害に詳しい地盤品質判定士の立花秀夫さんと一緒に、神奈川県内で調査しました。
立花さん、早速、住宅地の下の擁壁に注目しました。石と石の間に大きな隙間が空いていて、空積みだといいます。
さらにこちらの擁壁は、一見コンクリートで固められているように見えますが、空積みの一種だといいます。
地盤品質判定士 立花秀夫さん
「これはコンクリートの廃材を集めて積んだものですね。練積みはブロックを一体化するために背面にコンクリートを使うのですが、これは、廃材を積むために表面だけコンクリートを使っています」
古い住宅地を調べると、空積みの擁壁を複数確認できました。
立花さん
「擁壁がたくさん作られるようになってからかなり時間がたっています。相当、劣化・老朽化が進んでいる擁壁もあります。建物だけでなく擁壁についても、ふだんから気をつけて見ていただくことが重要です」
自宅の擁壁が空積みかどうか、どのように確認すればいいのでしょうか。
立花さんは、空積みかどうかについては、ブロックとブロックのすき間にコンクリートの目地があるかを、まず確認してほしいと話していました。ない場合は空積みである可能性が高いとのことです。
ただ、目地がある場合でも、擁壁の裏側にコンクリートが流し込まれていない場合もありますので、安心はできません。
もう一つ、ブロックの表面の感触も参考になります。もし小石のようなものが表面に出てザラザラしていたら、劣化が進んでいて古い擁壁の可能性があり、空積みになっているおそれもあります。
ただ、自分たちだけで見極めることは難しいので、擁壁に不安を感じたら、行政や地盤品質判定士に相談の上、補強工事も検討してください。
工事の費用については、擁壁の補強工事を行う企業によると、家や擁壁の大きさにもよりますが、100万円から300万円ほどかかるということです。
例えばこちらの写真はモルタルと接着材を擁壁の裏側に流し込み補強する工事です。
自治体によっては費用の一部を助成する制度もありますので、お住まいの自治体に確認してみてください。
専門家は首都圏にも多数の古い擁壁のほか、盛り土で造成された古い宅地もあり、首都直下地震などの際、大きな被害が出るおそれがあるとしています。今後も取材を続けていきたいと思います。