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東京・葛飾区 西新小岩5丁目の防災 ~燃え広がらない街へ

  • 2023年12月20日

地域の詳しい防災を伝える「#3丁目の防災」。今回は東京・葛飾区の西新小岩5丁目です。
首都直下地震で危惧されるのが、同時多発火災、そして延焼拡大による大火です。
西新小岩5丁目は、東京都の調査で「火災」の危険度、それに災害時の活動困難度などの「総合」の危険度で最もレベルが高い「ランク5」とされています。どのような危険があるのか。そして、燃え広がらない街をつくろうという住民の取り組みを取材しました。
(首都圏局/記者 山下忠一郎)

目立つ住宅の密集 懸念される大火

JR総武線の新小岩駅から北西に約1キロほどの場所にある西新小岩5丁目は東京・葛飾区の南部に位置し、約1800世帯が暮らしています。

 

5丁目町会の町山光司会長(80)に町内を案内していただきました。同じ葛飾区の寅さんではありませんが、町山さんは生まれも育ちも西新小岩5丁目だそうです。

もともと、新小岩地区は江戸時代以前からの農村で、町山さんが子どもだった頃は「自宅付近から約1キロ離れた新小岩駅の駅舎が見渡せた」そんな場所だったそうです。
写真のように平成の初めごろまでは、畑も目立っていました。

令和5年(2023年)の今、5丁目を歩いて目につくのが、古い木造の住宅や建て売り住宅が密集する様子です。隣の家との隙間が数十センチしかないところや、中には、狭い路地の奥に住宅が4、5軒建ち並んでいるところもありました。区画整理がされないまま戦後の高度経済成長期に急速に宅地化が進み、人口が増加したのです。
こうした地域なので、町山さんが心配しているのが火災による延焼です。5丁目では、この数年間で火災が相次いでいて、幸い大規模な延焼には至りませんでしたが、首都直下地震が起きれば大惨事になりかねません。町山さんは町の現状に危機感を抱いています。

西新小岩五丁目町会 町山光司 会長
「となりととなりの間が10センチのような建物もいっぱいありますからね。(首都直下地震が起きれば)おそらく、大火になると思います。安心して生活できるという町ではないですよね」

さらに大きな課題が…狭い道路

さらに地域の危険度を高めているのが道路の狭さです。中には道幅が4メートル未満で車がすれ違えないほどの幅の道路も多く、消防活動の妨げになっているのです。実際、過去には消防車が大通りから5丁目に入れず、消防活動が難航したこともあったということです。

消防車が支障なく通ることができる道幅は6メートル以上です。しかし5丁目には6メートル未満の細い道が多くあります。消防車が問題なくホースを伸ばせるのは直線距離で140メートルの場所までですが、5丁目の3割近くはホースが届かない「消防活動困難区域」となっています。

住民ができることは…

火災から地域を守るために何ができるか。5丁目のような地域では、住民たちの初期消火が重要になります。町内には約60か所に消火器が設置されていますがいざという時に使えないと意味がありません。11月に行われた5丁目の年に1度の防災訓練。消火器の使い方の手順を体で覚えようとする住民たち。

さらに、消火栓に接続することで簡単に使えて、消火器よりも威力の強いスタンドパイプの使い方も消防隊員から教わり、実際に放水を体験していました。

住民

消防車がなかなか入り込めないのでやっぱり住民がまずやれることをしていかなければいけない

住民

近所でみんな力をあわせながら、初期消火ですか、それを心がけているようにしなければいけないと思います

燃え広がらない街を作る

さらに葛飾区も協力して燃えないまちづくりを進めています。協議会を立ち上げて、道路を拡幅できる見込みになったのです。

計画では、既存の道路の幅を6メートル以上まで広げて消防車を通行できるようにします。
5丁目全体の骨格となる道路で、総延長は約770メートル。完成すれば「消防活動困難区域」がほぼ解消します。

上の図は、首都直下地震を想定したシミュレーションです。「消防活動困難区域」で3棟が火事になった場合、1時間後には約120棟まで燃え広がります。しかし、道路を拡幅し、道路沿いの住宅の不燃化を進めた場合、延焼はその半分程度まで減少します。特に、拡幅した道路の南側で延焼が少なくなっていることがわかります。
区は今年度、住民説明会を行っていて、来年度(2024年度)以降用地買収に向けて地権者などと本格的に協議を進めていきたいとしています。

葛飾区都市整備部 飛島朝子 街づくり推進担当課長
「地域の皆さまの防災まちづくりへの機運の盛り上がりにしっかりとこたえていきたい。行政としても力強く背中を押されているような意識を持っております。燃え広がらない安全な街を実現していきたい」

町山光司 会長
「みなさんが安心して生活できるような生活道路とか。早く、この町を安全な町にしたいというわたしの願いはそれだけです」

道路を拡幅するためには道路沿いの住宅の移転など住民の協力が欠かせません。移転の対象となる住民には、補償金が支払われますが、葛飾区によりますと今回の事業に反対する声は少ないということです。区は早ければ令和7年度以降に工事を行いたいということです。

取材後記

今回、取材した西新小岩5丁目は江戸時代以前から農村地帯で区画整理がされないまま宅地化が進み、江戸時代から区画がほとんど変わっていないということでした。野菜を大八車で運んでいた江戸時代の農道がそのまま、舗装されて道路になったところもあるそうです。
こうした農村ならではの地形的な特徴が現在、5丁目が抱える防災上の課題につながっていることがわかりました。東京23区だけでも「消防活動困難区域」はほかにもあり、首都直下地震に備え、燃え広がらない街につくりかえていく、西新小岩5丁目の取り組みがほかの地域にも広がることが望まれます。

  • 山下忠一郎

    首都圏局 記者

    山下忠一郎

    2004年(平成16年)入局。 青森、秋田などを経て首都圏局。街づくりなどの取材を経験。

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