もし目の前に、けがをしている人や意識のない人がいたら…
この文章を読んでいるアナタも、“何か力になりたい”と感じるのではないでしょうか。
しかし、仮定とはいえ、そういう人を目の前にしたときに私の口をついて出たのは「どうしよう」でした。
“助けたい”という思いをカタチにしていくのは、わずかでも経験や知識が必要なのだ、ということを実感しました。
(アナウンサー 山田朋生)
「#防災やってみた」シリーズは、何も知らされない状態で防災を体験します。今回で5回目になりました。
訪れたのは、新宿区にある日本赤十字社東京都支部。小高泰士さんの案内で部屋に近づくと…
中からは「痛い!」という声が聞こえてきました。
一瞬ひるみましたが、思い切って扉を開けると、腕や額から血を流して助けを求めている人が。
演技だということはわかっていても、心拍数が一気に上がります。背中を冷たい汗が流れていくのがわかりました。
どうしたものか、と立っていると、小高さんから「今は地震直後です。この人たちを手当してください」と促されました。
けが人役に話しかけてみると、「腕が全然動かない。血も止まらない」と訴えていました。どうやら、右腕が折れ、額を切って血を流しているようです。
何かあるのか、と見回しても救護箱などはなく、テーブルの上に衣類や雑貨などが置いてあるだけ。
小高さんから「医薬品などはそろっていません。あちらのテーブルに置いてあるものを使ってください」と言われ、今回の趣旨を理解しました。
企画した大橋拓アナ
「首都直下地震など、都市部での大地震の直後には、多くのけが人が出ます。しかし、救急車には限りがありますし、包帯や薬などもすぐ手に入らない可能性があります。そのような中でも悪化を防ぐための応急処置の重要性を知ってもらいたいと考えました。また、災害時の切迫した状況に近づけるため、救護訓練用に傷などを模したシールも活用しました」
まず必要だと思ったのは、骨折した腕を固定することと、額の止血をすることでした。
ギプスやガーゼ・包帯の代わりになるものを探すと…
折りたたみ傘が見つかりました。「これで腕を固定できるのでは」と思いつくまではよかったのですが…
ネクタイやストッキングで固定しようとしたのですが、腕が痛くなるのではないかと思い、なかなかうまくできません。実際に痛がる人を目の前にすると、どうしてもあわててしまいます。
けが人役の方から「ありがとう」という言葉をかけてもらい、ほっとしました。
さて、プロの目線から講評です。
日本赤十字社東京都支部の小高泰士さんは20年以上にわたって講師を務めてきたそうです。
ポイント
・出血をまず止める。骨折の手当はそのあとでも。
・ストッキングをうまく使うと簡単に固定できる。
水道水や、口の開いていないペットボトルの水などで、傷口をきれいに洗います。そして清潔なハンカチなどをあて、ストッキングのウエストの部分を帽子のようにかぶせ、足の部分を結ぶとしっかりと固定できました。
骨折を固定する際には、厚めの雑誌なども役立つといいます。患部に刺激を与えないようタオルをクッションに使い、ストッキングでかぶせます。
さらにストッキングの足の部分を2重にして雑誌を包み込むように通し、余った部分を首の後ろで結びます。
「応急処置は力になれそうかな」と思ったのもつかの間。
小高さんに「まだお仕事があります」とうながされ、次の部屋に案内されました。
今度の部屋では横たわっている人形を3人が取り囲んでいました。何やら、会話をしています。
その中にアナウンサーの後輩、浅野里香アナの姿もありました。顔を上げた浅野アナが深刻な表情で語りかけました。
すみません、この人、息をしていないんです。
発災から1週間です。急に倒れた人がいます。意識がありません。4人のチームで連携をとりながら、救命手当を実施してください。
企画した大橋アナ
「避難生活が長引くと、エコノミークラス症候群などで心停止となるなど、急に体調を崩す人が出てきます。そんなとき、慌てずに速やかに救命処置をできるかどうかが、その後の生存率に大きく関わるといいます」
“救命手当”…頭の中が真っ白になった私は、とっさに周囲の3人に尋ねました。
胸骨圧迫やったことある人いますか?
あります…(私でいいんだろうか?)
後輩に頼ってしまいました。
このままでは先に進まない、と思った周囲の人が「救急車を呼んできます!」「AED、持ってきます!」と先に進めてくれました。
まずい、何かしなければ、と思った私は20年ほど前に自動車教習所での経験をもとに浅野アナと心臓マッサージを交代。すると、AEDも届きました。
「開ければなんとかなる!」イラストをみながら操作すると、自動音声が流れてきました。指示に従って、なんとか操作することができました。
しかし、不安が残ります。
正しい心肺蘇生の方法を小高さんに教えていただきました。
皆さんもぜひ、確認してください。
心肺蘇生の手順を確認!
●まず、身の回りの安全を確認 倒れている人に意識がなく、呼吸もないとき
→周囲に助けを呼ぶ 119番通報とAEDを依頼
●心臓マッサージを優先して行う
□複数の人がリレーしても良いので、AEDが届くまで続ける
□1分間に100~120回の速度で、胸の真ん中あたりを約5センチ押す。
(飛沫が飛ぶことがあるので、鼻や口に清潔なハンカチなどをかぶせる。新型コロナのリスクもあるので人工呼吸は無理にしなくても良い)
●AEDが届いたら電源を入れ、自動音声に従い落ち着いて操作する。
□電極パッドは心臓を挟むように貼り付ける。
□電極パッドのケーブルをAEDに接続する。
□倒れた人から離れて、電気ショックのスイッチを入れる。
□電気ショックが終わったら、AEDの音声ガイダンスに沿って再び心臓マッサージを行う。
(電極パッドは心臓の動きを解析してくれるためはがさない)
●意識や呼吸が戻らない状態が続く場合、救急隊が到着するまで心臓マッサージやAEDでの電気ショックを繰り返す。
総務省消防庁によりますと、令和2年の1年間で1万4974回の心肺蘇生が行われました。
心臓マッサージやAEDを速やかに使うことで、1か月後の生存率は約2倍に向上するといいます。
AEDは、ビル1階の受付やエントランスなどに設置されています。ハートのマークの目印を日頃から確認しておきましょう。
正直なところ、今までは、倒れている人や血を流している人などを見かけたら、その場を逃げ出したくなるだろうなと思っていました。同時に、自分にできることであれば力になりたいという思いもずっと持ち続けていました。
「応急処置の基礎がないので、より傷つけることになるんじゃないか」
「AEDの使い方や心臓マッサージの方法に自信がないので、怖い」
そういった思いがあったからです。
今回の経験を通して、その不安の大部分がなくなりました。わずかな経験で、目の前に傷病者がいたら助けようという気持ちが、より強くなりました。言い換えれば、少しでもよいので、経験や知識を持っていることが、大きくモノを言うということです。
今後も、アナウンサーが災害時に起こりうるさまざまな事態を体験し、それを放送に生かしていきます。
「#防災やってみた」へのご意見、「こんなことを取材してほしい」といったご要望を、こちらの投稿フォームからお寄せください。